八広駅と鐘ヶ淵駅のほぼ中間に位置する『大衆酒場 亀屋』は、下町酒場が好きな方にはおなじみのお店。創業から90年になる歴史ある酒場ですが、世代交代が進み、いま再び若者が集う人気の酎ハイ酒場として注目されています。
目次
物腰やわらかな3代目に会いに行きたくなる
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入り組んだ細い路地の中を貫く目抜き通り。これが「鐘ヶ淵通り」です。向島・鐘ヶ淵通り周辺には色付きの下町酎ハイを出す店が多く、下町酒場好きの間では聖地のひとつとなっています。
鐘淵紡績をはじめ周辺に点在する工場で働く人、玉の井に集う人、様々な人々が鐘ヶ淵通り沿いを唯一無二な飲み屋街に育てました。
鐘ヶ淵通りの拡幅工事が長年計画されており、通りはかつての下町情緒漂う商店街から「都市計画道路」へ変化中。この影響でいくつか酒場も移転することになったのですが、今回ご紹介する『大衆酒場 亀屋』もそのひとつでした。
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『大衆酒場 亀屋』がはじめて暖簾を掲げたのは1932年(昭和7年)のこと。『亀屋スタンド』という洋酒バーとしてスタートしました。それから90余年、この界隈では現存する最古の酒場です。
外観
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長く続いたいぶし銀の店舗でしたが、鐘ヶ淵通り沿いだったため拡幅工事を伴う再開発により2007年に移転を余儀なくされ、惜しまれつつも現在の比較的新しい店構えの店舗となりました。
内観
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新しいといっても、そこは歴史ある家族経営の大衆酒場。暖簾を守る店主さんや常連の皆さんは、まもなく創業1世紀を迎える店らしさを感じる落ち着いた方ばかりです。また、旧店舗で使用していたカウンターなどをそのまま再利用しているため、年輪の厚みを感じることが出来ます。
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店はコンパクトで、5席ほどのカウンターと4人テーブル2卓だけ。代々通うような常連さん、そして近年建設が続くマンションに移り住んだ新しい住民の皆さんも集い、連日満席になるほど賑わいます。
人懐こい性格の3代目の人柄が新しいお客さんを集め、いぶし銀の店の世代交代が進んだことが大きいでしょう。料理自慢の調理担当さんとお手伝いもする常連さんの息のあったチームワークもあり、店の魅力は以前よりさらに磨きがかかっているように感じました。
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冷蔵庫には、ずらりと興水舎のアズマ炭酸が並んでいます。店の名物は酎ハイですが、炭酸サーバーは設置せず、昔から変わらない瓶詰め炭酸水で酎ハイをつくっているのです。
品書き
お酒
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- 焼酎ハイボール:350円
- 瓶ビール サッポロラガー:500円
- 清酒:1合450円
料理
- オムレツ:450円
- にら卵:450円
- マグロぶつ切り:400円
- 酢ダコ:400円
- 焼き鮭:400円
- 焼そば:450円
- すいとん:500円
ホワイトボードメニュー
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- ナポリタン:450円
- だし巻き卵:450円
- 四川麻婆豆腐:450円
- 手作りシューマイ:450円
- 雲仙ハムカツ:450円
- 辛口ホルモン:400円
- 豚肉ナポリ:450円
- マグロ漬け:450円
- ゴーヤチャンプル:450円
- 手作りポークロースト:450円
- コロッケ:350円
- ポテトサラダ:300円
- マカロニサラダ:300円
炭酸は先。焼酎はあと。氷は入れない。
焼酎ハイボール(350円)
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普段最初の一杯はビールと決めている私も、ここに来たら迷うことなく酎ハイではじめます。
炭酸と一緒に冷蔵庫で冷やされている国産ウイスキーのボトルを取り出し、これを使ってつくるのですが、けしてウイスキーハイボールではありません。
先代の女将さんや大将が切り盛りされていた頃から変わらないスタイルです。
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注ぐ順番も大事。まずは墨田区の炭酸水メーカーがつくるアズマ炭酸を、レモンスライスとともにグラスへ注ぎきります。「氷は溶けて薄まるし、量が減るので入れない」というのが先代から続くスタイル。
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炭酸水を注いだら、そこへグラスなみなみになるまでウイスキーボトルから色付きの甲類焼酎を注ぎ入れていきます。甲類焼酎は、宝酒造がつくる赤キャップの宝焼酎25度。
酎ハイの素が予め混ざっており、レシピは門外不出。この味の違いで酒場同士競い合ったのだと、老舗酒場各店の店主さんは話します。
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表面張力になるくらい注いで完成。容器いっぱいまで入るので、いつも変わらない量が楽しめますね!表面でパチパチと跳ねる炭酸の泡をみながら、そっと持ち上げて乾杯!
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いぶりがっこをつまみつつ、おつまみを考えましょう。世代交代後、いっきにメニューが増えました。
オムレツ(450円)
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品書きの右端を飾るオムレツは名物料理のひとつ。常連さんからのオーダーも多いメニューですが、その理由は箸を入れてみればわかります。
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なんと、豚肉たっぷりの野菜炒めがたっぷり隠されているのです。千切りキャベツの盛りもよく、野菜炒めの汁を吸わせて卵と一緒に口へ運びたくなります。
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時間は20時を過ぎ、店内は満席となりました。八広、鐘ヶ淵、東向島、それぞれの駅から10分ほど離れている『大衆酒場 亀屋』は、近隣に暮らす人が一旦帰宅してから飲みに集まる酒場です。
カウンターに黄色いグラスがずらりと並ぶ光景は壮観。
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一杯350円とリーズナブル。しかも非常に飲み心地がよいのでスイスイと進みます。同じグラスでお代わりをしていき、すっかりほろ酔いになってきました。
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何度見ても『大衆酒場亀屋』の焼酎ハイボールは美しい!
手作りシューマイ(450円)
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腕のよい料理人さんが厨房を担当されているので、いろいろ食べ比べてみたくなります。四川麻婆豆腐も気になりますが、やはり手作りのシューマイを食べてみたい。
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ぎゅっと詰まったシュウマイは下味の塩梅が秀逸で、豚肉と玉ねぎの旨味が大変豊かに感じられました。
ごちそうさま
椎茸の海老肉詰め、豚肉ナポリなどおもしろい料理がありますが、価格は300~400円と大変良心的です。
15年前の亀屋は静かに焼酎ハイボールを飲む場所でしたが、いまの亀屋は一軒目として空腹で訪ねて、焼酎ハイボールをお代わりしながらいろいろ食べ比べてみたくなるパワフルな酒場になっていました。
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(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 大衆酒場 亀屋 |
住所 | 東京都墨田区東向島5-42-11 |
営業時間 | 営業時間 18:00~23:00 定休日 月曜日、日曜日 |
創業 | 1932年 |