東向島『はりや』昭和6年創業。3世代で守った酎ハイの味。荒波乗り越え2度目の復活

東向島『はりや』昭和6年創業。3世代で守った酎ハイの味。荒波乗り越え2度目の復活

再開発の波に飲まれ、2021年夏、惜しまれつつも閉店した鐘ヶ淵の老舗酒場『はりや』。元の店舗は更地になってしまいましたが、3代目の家業を百年守りたいという熱意は消えませんでした。東向島駅前で復活した、新『はりや』を訪ねます。

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数多の荒波を乗り越えて

長年、墨田区の酒場を巡る人の間ではちょっとした有名店だった『はりや』。鐘ヶ淵通り沿いにあった小さな酒場ですが、創業はなんと1931年と、戦前から続く店でした。

戦後は、鐘ヶ淵で働く工員さんたちで賑わい、皆、ウイスキーハイボールにあこがれて、色付きの酎ハイ(下町焼酎ハイボール)を飲んだそうです。

時代は進み、鐘ヶ淵通りの拡幅工事の計画が本格化すると、計画区域内にある『はりや』も移転を決断します。長年親しまれてきた木造二階建ての店舗での営業は、2016年12月に閉店することになりました。ご年配の2代目ご夫婦で店を再開することは難しい…。というときに、3代目店主の荘司美幸さんが店を継ぐこと決意。

2018年にセットバック後の場所で『はりや』を復活させました。

都市計画の拡幅エリア外ですし、これで安心と思ったのもつかの間。今度はこの一画で再開発計画が動き始めます。「いまの風情のまま営業することは難しいという判断をしました」と荘司さん。

2021年、酒類提供の自粛要請や時短営業で混乱が続く中での閉業となりました。創業から88年目のことでした。

両親が続けてきた酒場『はりや』という家業を守りたい。

熱意は消えることなく、荘司さんは再開の場所を探し続けたそうです。その間、東向島の酒販店『岩田屋商店』の角打ち立ち上げを手伝うなど、飲食には携わり続けていました。

そうしているなか、知り合いの寿司店が暖簾をたたむので、ここで店を開いてみては?という打診を受けたそう。すでに物件はほぼ確定していましたが、元寿司店の店舗を選んだ荘司さん。

なんと、店の場所は東向島駅や東武鉄道博物館の真正面です。

外観

東向島駅から徒歩40秒。車両の通行に注意して道を渡ったら、そこは『はりや』。

かつての『はりや』は、鐘ヶ淵駅から5分ほど歩いた場所にあり、周囲が飲み屋街ではなかったこともあり、酒場ファンや長年の常連さん以外は気が付かず素通りするような場所でした。新たな地で、これまで以上に賑わう店になりそうです。

寿司店だった配置は基本的に変えることなく利用しているため、立派なL字カウンターがあり、店の奥には座敷も用意されています。

内装は入れ替えたそうですが、それにしては年季の入ったカウンターの立ち上がりです。あぁ、これは往年の『はりや』の壁面ではありませんか。入り口の縄のれんも昔のものを再利用しているのですね!

広く落ち着きのある空間。三代目の荘司さんらしい、カフェのようなくつろぎと酒場感の融合が随所にみられます。

『はりや』で宴会できる日が来るなんて。6人テーブル、4人テーブルの掘りごたつ席がふたつ。奥は貸し切りにもできるようです。

長く愛されてきた寿司屋の面影も大切にしよう。そんな荘司さんの想いで、壁面には寿司店時代の短冊が残されています。

対面に掲げられた黒い札が現在の『はりや』のメニュー。この札も、移転前から使っていたものです。

旧店舗の面影を色濃く残す

壁に掲げられた絵は、懐かしの拡幅前の『はりや』。この縄のれんを緊張しながらくぐった当時のことを思い出します。なくなってからもう7年…。

こちらが在りし日の『はりや』。二階が荘司さん宅のご自宅でした。

酒場の大先輩に囲まれて、背筋を伸ばして飲んだ酎ハイの味は忘れられません。ほんのり色がついた風味のある酎ハイ。下町(広い範囲での)の焼酎ハイボールは各店で味が異なるので、その酒場がなくなってしまうと飲めなくなります。

よくみれば、このカウンターも

この天板!懐かしい。角の丸みは、多くの利用者の熱量がこもったようなもの。

先代ご夫婦は今もお元気で、二代目であるご主人はいまもビールを飲んでいらっしゃるそう。そんなお二人の職場の相棒だったGE(General Electric Company)製の超レトロな冷蔵庫は、いまもこうしてバッヂの姿で三代目である娘さんの店を見守っています。

そういわれれば、随所に懐かしの品が使われています。店を復活するために1年以上保管してきたそうですが、こういうものが昔の店を知る人だけでなく、新たに『はりや』を訪れる人にも嬉しいはずです。

品書き

お酒

  • 酎ハイ:450円
  • 樽生 アサヒ生ビール マルエフ:600円
  • ウイスキーハイ:500円
  • ジンハイ:500円
  • グラスワイン(赤・白):各500円
  • 月山(島根・吉田酒造)芳醇辛口純米:800円
  • 松みどり(丹沢・中沢酒造)純米酒:800円
  • しぜんしゅ(郡山・仁井田本家)生酛純米原酒:900円

本日のオススメ

  • 茹で枝豆:420円
  • ぶり生姜焼き:580円
  • 焼なすポン酢:520円
  • アスパラ肉巻き:600円
  • ピーマンじゃこ炒め:420円
  • 寺島なすのひき肉はさみ挙げ:300~500円

料理

  • 豆乳マヨのポテトサラダ:420円
  • 煮卵サラダ:450円
  • 自家製チャーシュー:680円
  • げそ天:580円
  • エビセロリガーリック炒め:520円
  • 手作りコロッケ:500円
  • 赤いウインナー:480円
  • 肉豆腐:580円
  • アジフライ:500円
  • キャベツ炒め:500円
  • はりやのカレー:800円

変わらぬ味に、激動の3年を一瞬忘れる

酎ハイ(450円)

『はりや』といえば、酎ハイの店。鐘ヶ淵には酎ハイや焼酎ハイボールなど、色付きの甲類酎ハイを出す店が点在した地域でした。よく「ボール」と愛称でよびますが、『はりや』では今も昔も「酎ハイ」。風味付きのコレです。

予め割っている酎ハイサーバーから注ぐ、ガス圧強めの一杯で乾杯!

酎ハイを頼むと黄色い札がでてきます。これが酎ハイの伝票代わりです。

豆乳マヨのポテトサラダ(420円)

料理教室も開いていた三代目の女将さん。料理が好きで、つくった料理で人を喜ばすのが大好きな方。そんな彼女がつくる料理は、創作料理でも長年の名物だったかのような美味しさです。

酒場の味は、まずはポテサラで見る。そんな酒場ファンは多いでしょう。

酎ハイ レモン果汁入り

もともと味がわずかについている『はりや』の酎ハイですが、常連さんはレモン果汁を追加して、より酸味がある柑橘系の味を楽しんでいました。

そんな『はりや』のレモンはもちろん新店でも味わうことができます。

一杯、二杯と言わず、何杯でも飲みたくなるこの味の美味しさ。昔の『はりや』を知る人ならば、久しぶりに飲みたくなるのではないでしょうか。

げそ天(580円)

はりやの代表的な料理は2品。まずは「げそ天」です。

名前からすると天つゆと一緒にイカゲソの天ぷらが来そうですが、げそ天の”天”は、お好み焼きを表す「天」のこと。

酎ハイとげそ天。気分は2015年の鐘ヶ淵、タクシー営業所の横の硬派な酒場です。

アサヒ生ビール(600円)

以前と銘柄はかわりまして、ビールはアサヒ生ビール、いわゆるマルエフになりました。

老舗酒場にはスーパードライよりも似合うと思いますが、読者の皆さん、いかがでしょう。

キャベツ炒め(500円)

キャベツ炒めを、文字通りキャベツの炒めものと思って注文するとびっくりするはずです。ましてや、『はりや』の名物と言われると、どれほどすごいキャベツなのだろうと思うに違いありません。

この通り、実は焼きそばなんです。こうなった理由は、先代の大将が以前教えてくれました。常連さんがあれもこれもいれてほしいと注文した結果なのだそう。

見た感じは細麺のソース焼きそばですが、家庭で作る袋麺と味は大きく違います。ソースの違い、乾燥桜えびをしっかり使った旨味など、酒場らしい酎ハイ、ビールが進む味に仕上がっています。

ごちそうさま

昔の『はりや』を知る方はもちろん、はじめての方にもぜひ訪ねてほしい、下町(広い範囲での)の郷土アルコールドリンクともいえる焼酎ハイボールの名店です。焼酎ハイボールファンや、歴史ある酒場を巡る愛好家の方に限らず、純粋にグループ利用できる酒場としても質が良いと思いますので、ぜひ!

※料理は女将さんがお一人で担当し、しかもどの料理も手作りです。注文が集中した際は、気持ちに余裕を持って待ちたいですね!

移転前の記事

【移転】鐘ヶ淵「はりや」 名残と挑戦。酎ハイの名店の歴史が再び動き出す
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syupo.com

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名はりや
住所東京都墨田区東向島5-3-1
営業時間営業時間
17:00~23:00(L.O.22:00)
定休日
日曜・月曜・祝日
創業1931年 現在の店舗は2023年5月25日正式オープン