東向島『岩田屋商店』福祉と酒屋で街を照らす。角打ちでも焼酎ハイボールが絶品

東向島『岩田屋商店』福祉と酒屋で街を照らす。角打ちでも焼酎ハイボールが絶品

2022年11月26日

「街の受け皿になる場所をつくりたい」。社会福祉から家業を継いだ酒屋の三代目が始めた、新たな角打ちが開業しました。東向島で1935年から続く『岩田屋商店』です。今の時代だからこそ、新しい酒屋のあり方を考えたい。そんな思いが込められた空間で、焼酎ハイボールをいただきます。

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世代交代。新たな酒屋の価値を考える

酒類の販売は、かつて今以上に保護されてきた商売です。

歴史を遡れば室町幕府の頃から酒屋は国の管理下にありました。言うまでもなく、酒と税の関係があるからです。それが昨今の規制緩和により、酒販店以外でも条件付きで販売されるようになりました。コンビニやスーパー、蔵元のECサイトや大手インターネット通販でもお酒が購入できるようになった現在、町の酒屋さんの存在価値が失われつつあります。そうした中、家業を引き継いだ酒屋の次の代は、街と家業の関係を考え直し、存在意義を再定義するようになってきました。ある店はワインや日本酒の専門店になり、ある店は業務用に振り切り、ある店は角打ちへ。「必要とされる酒屋とは」という模索が続いています。

続けるならば変えなければいけない

2010年代、墨田区・東向島で80年以上続いてきた酒販店『岩田屋商店』も、酒屋を取り巻く環境の変化の中で岐路に立っていました。当時は、年配の2代目夫婦が切り盛りする街の酒屋さんでした。跡取りになるかもしれなかった息子さんは酒類業界を離れ、社会福祉に携わっていたのです。

(1952年の岩田屋の写真)

“ときを待って店をたたむか…”、そんな岩田屋商店に変化が起きたのは2019年。息子さんが継ぐ覚悟を決め、家業に戻ってきたのです。「老舗酒販店を親の代で終わらせられない」、でもそれだけではありませんでした。

人と人をつなぐお酒を軸に、自分にできる地域交流ができるはず。社会福祉という仕事をしたからこそ見えた視点があったと3代目の岩田謙一さんは話します。販売する酒の銘柄に個性を持たせ、地域交流の場にと家族の反対はありつつも角打ちも開始。すると若いお客さんが増え、店は若返りはじめました。角打ち営業がお客さん同士の出会いのきっかけとなったこともあるそう。

「いま、挑戦するとき」そう感じた

しばらく既存の店舗で角打ち営業していた岩田さんですが、一大決心で店の建て替えを判断。角打ちを始めたことで売上は増加しており、今後の方向性が見えてきた頃です。

上をマンションにし、一階を店舗にした新たな建物となり、2022年11月22日、堂々オープンしたのです。

ご結婚され奥様も店を手伝うこととなり、角打ちの拡充も可能に。以前の店舗の老朽化もあり、これらの条件が重なったことで「いまが挑戦の時」と考えたそうです。

外観

隅々まで考え、床の色までこだわったという新店舗は、実に堂々とした佇まい。以前よりもスペースは広くなり、品揃えも充実しています。

小売スペース

角打ち営業は行うものの、従来どおり、酒類や調味料、お菓子の販売も行われています。空港や新幹線駅構内にあるお酒・お土産を扱うショップのような雰囲気です。ちょっと個性のある品揃えが魅力。しっかりと量販やコンビニと差別化されています。

旧店舗の頃から、街から姿を消した駄菓子屋の役割も担っており、子供連れがお菓子を買いに来る光景もみられました。

もちろん、本業の酒類の取り扱いもパワーアップ。ずらりと並ぶお酒は岩田さんこだわりの銘柄ばかりです。街の酒屋さんは、ただお酒を売る場所ではなく、酒販のプロが酒や蔵元を解説・紹介し、新たなお酒との出会いをつくる場所なのだと改めて感じます。

酒屋さんですから、ちょっとめずらしい居酒屋で使われているリターナブルびんの割材も用意されています。

冷蔵庫には、アサヒ、キリン、サッポロの定番銘柄が缶・ビンがしっかり揃います。また、クラフトビールもおもしろい銘柄が並んでいました。

角打ちコーナー

店の奥が角打ちコーナーです。テーブル3卓とカウンターという配置で以前より落ち着きある空間となりました。全体の雰囲気は現代的ですが、杉やひのきの一枚板を使用していることで本質感が増しています。

店の中央に 帳場が置かれており、買い物の人も飲む人も使いやすい配置です。現金のほか、交通系電子マネー・クレジットカードなどで決済できます。

品書き

お酒

気になるお酒ですが、変わらず小売スペースのお酒はすべて角打ちで楽しめます。缶酎ハイ類から瓶ビール大瓶までは抜栓料50円と大変良心的。もちろんグラスを用意してもらえます。

角打ちでしか提供していないお酒は、樽生のアサヒ生ビール(愛称マルエフ):350円、アサヒ生ビールとレモンをあわせたビアカクテル・マルモン:300円、墨田区に多い色付きの焼酎ハイボール「イワタヤボール」:270円など。さらに日本酒が加わります。

料理

料理は三代目女将さんのてづくりです。特製モツ煮:300円、塩こうじ唐揚げ:300円、イワタ焼き:300円、自家製ぬか漬け:300円、発酵85ナムル:300円を定番に、今後いくつかメニューが登場予定とのこと。

利用案内にある通り、お子様とご一緒の利用が歓迎されています。

こだわりの酒と肴は、角打ちというより立ち飲み酒場

アサヒ生ビール「マルエフ」(350円)

樽生ビールはポピュラーな銘柄ではなく、あえてのアサヒ生ビールこと「マルエフ」。墨田区といえばアサヒビールのお膝元ですし、そんな繋がりも大切に。素敵なオリジナルデザインのグラスでいただきます。それでは乾杯!

酒屋さんは配達先でも生ビールの設定をすることがあるプロ。ですから状態の良い生ビールが楽しめます。飲んだあとにグラスに残るエンジェルリングは美味しさの証。

イワタヤボール(270円)

岩田屋商店は向島の酒屋さんです。近隣の飲食店との付き合いは配達だけの関係にとどまりません。取材時も、鐘ヶ淵の老舗酒場の女将さんが応援にきていました。この焼酎ハイボールも、鐘ヶ淵通り沿いにある老舗酒場「亀屋」をはじめ、宝酒造などの協力の下、完成したそうです。

さて「ボール」とは広く東京下町で親しまれているご当地酎ハイのこと。ウイスキーハイボールのような色をしていますが、ベースは甲類焼酎。エキス(シロップ)と炭酸をあわせてつくります。店によっては割材を既製品そのままで使いますが、店独自のつくり方でお客さんの心をつかむのが昔ながらの酒場のスタイル。なんと岩田屋でもオリジナルのボールを完成させてしまいました。

味は間違いなく、鐘ヶ淵に多い老舗のあの味。香りはわずかに甘いのに、キレのあるドライな味です。味を決めるまでに大変な苦労があったそうで、レシピはもちろん極秘。冷やした宝焼酎をベースにした液に、同じく冷蔵庫で冷やした野中食品工業の炭酸水「ドリンクニッポン」で割って完成です。

イワタ焼き(300円)

イワタ焼きは、お店の名前を冠した看板メニューです。

ネギをたっぷり混ぜて出汁を効かせたお好み焼き風の料理です。ソースはかけませんが、出汁の味がお酒を進ませます。

日本酒

日本酒は珍しい銘柄を一杯売りで楽しませてくれます。

取材時はオープン前のセレモニーにあわせて用意された菰樽のお酒が販売されていました。

銘柄は「不動」。同店が以前から取引していた、ある意味定番のお酒です。ほかには仁勇などをつくる、千葉県成田の酒蔵・鍋店のお酒です。すっきり爽やかな味。

特製モツ煮(300円)

角打ちとは思えない、本格的なモツ煮でびっくりしました。女将さんの手作りとのこと。

クセは控えめで旨味は濃厚。イワタヤボールとの相性は言うまでもなく抜群に良いです。鐘ヶ淵の酎ハイめぐりに新スポット誕生といっても良さそう。

マルモン(300円)

ビアカクテルのマルモンは、この界隈では珍しいマルエフベースのカクテルです。フルーツビールのような味でほんのり甘め。飲み心地が良いので、日常的に飲酒をしない人にもオススメしたい一杯です。

発酵ナムル(300円)

しっかり野菜を食べられるのも嬉しいです。

店頭の縁側でのんびり摘みながら、街並みや近くを行き交う東武線を眺めてぼーっと過ごす心地の良い時間。落ち着きます。

社会福祉の視点から酒屋を地域コミュニティの場として考える

酒屋の跡取りは、すぐには継がず一旦は酒類問屋やビールメーカー・酒造会社などの酒類業界に就職(丁稚修行)することが多いように思います。一度異業種へ行ってから酒類業界へ戻ってくる方は珍しいです。実は奥様も社会福祉に携われていた方だそう。それが『岩田屋商店』の特徴につながっているように思いました。

老舗酒販店を親の代で終わらせたくないというだけでなく、それ以上に「街の受け皿に自分たちがなる」という強い信念が取材から感じられました。

「店のロゴには私たちを表す2つの星と、福祉の受け皿をモチーフにしており、街を照らす存在になりたいという想いが込められています」と話す岩田さん。コミュニティの場として賑わう同店に、酒屋の未来を感じました。

ごちそうさま。

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東向島「岩田屋酒店」 家業を継いた三代目。正統派角打ちが始まる。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名岩田屋商店(イワタヤスタンド)
住所東京都墨田区東向島4-43-6
営業時間火〜土11:00〜20:00
日・祝12:00〜18:00
(月曜定休)
創業2022年11月22日(酒販店の創業は1935年)
公式サイトインスタグラム

公式サイト https://sake-iwataya.com/