鐘ヶ淵『十一屋』1937年創業、焼酎ハイボールの街にある異色なお好み焼き酒場。

鐘ヶ淵『十一屋』1937年創業、焼酎ハイボールの街にある異色なお好み焼き酒場。

東京・城東のソウルリカー「焼酎ハイボール」。甲類焼酎を色付きのエキスと炭酸で割ったもの。もつ焼きや煮込みだけでなく、刺身と合わせる酒場もあります。鐘ヶ淵の『十一屋』では、なんとお好み焼きとあわせます。駅から離れた住宅街にぽつんとある酒場ですが、下町酒場好きならば一度は訪ねてほしい素敵な一軒です。

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80年以上の年輪を重ねてきた酒場

東京在住の酒場好きにとって、墨田区や江東区は何百回と飲みに行っても飽きることがない、ノンベエの楽園です。多くの老舗酒場にみられる共通点は、色付きの「ボール」や「酎ハイ」と呼ばれるオリジナルドリンクの存在です。

いまでこそ、宝酒造や合同酒精が缶商品にして全国発売していますが、2000年代はじめの頃は、知る人ぞ知る不思議な酎ハイでした。サワーのようにレモンやグレープフルーツ味ではなく、色はウイスキーハイボールのように琥珀色をしています。味は店ごとに異なり、共通点はわずかな甘味料の香り。甲類焼酎そのものの味ではなく、各店でオリジナルの味を配合して作っていたのです。

そんな東京・下町(広い範囲での)ならではの酎ハイですが、もつ焼きや煮込みと合わせる店が多いと思います。刺身とあわせる店もあるものの、少数派。鐘ヶ淵の『十一屋』では、やきとりや肉豆腐だけでなく、刺身もあるのですが、なんといっても特長は名物のお好み焼きの存在です。

東武鐘ヶ淵駅から徒歩10分の住宅街にあります。周囲は商店街や飲み屋街ではなく、ぽつんとある一軒だけの酒場です。歴史を感じる二階建ての戸建てで、店は広く堂々とした佇まい。どこか現実離れしたような雰囲気すらあります。

店はふたつの部屋にわかれており、正面から入るとそこは紛れもない老舗酒場です。年季の入った厚い天板を張ったL字カウンターと、足立市場仕入れの魚介がなら冷蔵ケース。飴色に染まった品書きの札が壁に並びます。

店の創業は昭和12年と非常に古く、建物の一部も同じだけ年輪を重ねてきました。世代交代があっても、老舗酒場たる堂々としたムードを保っています。

さて、部屋がふたつあると書きましたが、店の奥は、さながらお好み焼き・もんじゃ焼き専門店のようになっています。鉄板をはめたテーブルが並んでおり、鉄板から直接食べる焼き立ての粉もんが楽しめるのです。

酒場好きなので、私はもっぱら飲み屋スペース専門です。こっちでもお好み焼きを提供してもらえます。

品書き

お酒

  • 樽生 アサヒスパードライ:小560円・大840円
  • 瓶ビール 大瓶 アサヒスパードライ・サッポロ黒ラベル:700円
  • 焼酎ハイボール:340円
  • 白ハイ スライスレモン入り:310円
  • 生レモンハイ:370円
  • キンシ正宗 大徳利:780円
  • 千寿舞 辛口 大徳利:680円
  • キンシ正宗 生詰300ml:710円
  • ウイスキーハイボール:400円

料理

  • お好み焼き:950円
  • かたやきやきそば やさいあんかけ:630円
  • 牛ザブトンステーキ:1,100円
  • 豚リブロースステーキ:790円
  • 生やりいかネギバター:630円
  • じゃがバター:390円
  • マカロニサラダ:430円
  • ハムカツ:480円
  • 牛すじシチュー:790円
  • 麻婆豆腐:630円
  • クリームコロッケ:460円
  • やきとり大きめ2本:460円
  • 北海ダコ刺し:530円

黒板メニュー

  • 天然ぶり刺身:590円
  • 北海だこ刺身:530円
  • くじら刺:680円
  • めひかりから揚げ:620円
  • 根菜きのこ汁:690円

料理一筋の3代目がつくる丁寧な肴と味変する焼酎ハイボール

焼酎ハイボール(340円)

まずは、「ボール」こと焼酎ハイボールで乾杯!

『十一屋』の焼酎ハイボールは焼酎が濃いめです。色は濃いものの、味はほんのりついている程度。まろやかな梅風味です。もう少しパンチを聞かせたいとき、常連さんはテーブルに置かれた白いソース容器をおもむろに手に取り、白い粉をさーっと注ぎ込みます。これはクエン酸。2代目女将考案の疲労回復アイテムです。

昭和の頃から酎ハイの味変アイテムがあったのです。

モロヘイヤ豆腐和え(440円)

代々家族が受け継いで『十一屋』は守られてきました。もともとは角打ちだったそうで、その後、酒の肴として次々メニューを考案してきたそうです。二代目のときに、もんじゃやお好み焼きがメニュー入り。3代目は欧風料理などの修行をされた方で、下町価格ながら丁寧な料理を提供してくれると評判です。

天然ぶり刺身(590円)

魚介類は、水産物専門の中央卸売市場「足立市場」に足を運び仕入れているとのこと。長く続く店はそれだけ仲卸との信頼関係がありますから、魚料理が期待できます。『十一屋』の刺身にはずれなし。どうですか、このブリ。よく脂が乗っています。

やりいかネギバター(630円)

イカが柔らかなく、なにより味がイイ。バターと醤油、ネギの風味だけではないプロの味付けに、焼酎ハイボールが進みます。

サッポロ黒ラベル

そろそろ、〆の名物を頼みましょうか。その前に、ビールを一本!

お好み焼き(950円)

『十一屋』に来たら、〆のお好み焼き分のお腹は空けておきたいです。だって、ここのお好み焼きは魚介が入って具だくさん。しかも焼き目のパリパリで、これがビールや酎ハイと大変良く合います。

ごちそうさま

老舗酒場らしい情緒があり、なにより料理が美味しく、お酒が安い。こういう酒場があるから、墨田区を始めとした城東・下町酒場巡りは最高です。

テーブル席もあるので、予約をすれば少人数の飲み会にも対応してくれますが、店のムードを楽しむならば、一人でカウンターに座ることを強くおすすめします。東武伊勢崎線鐘ヶ淵駅から、細い路地をくねくねと曲がりながら訪ねた先にある、素敵な酒場です。

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(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名十一屋
住所東京都墨田区墨田3-23-17
営業時間営業時間
酒場17:00~23:30(L.O23:00)
お好み焼き17:00~22:30(L.O21:30)
日曜営業
定休日
水曜
創業1937年