両国『下総屋食堂』国技館の横で90年。戦前建築の店で焼鯖肴にお昼酒

両国『下総屋食堂』国技館の横で90年。戦前建築の店で焼鯖肴にお昼酒

2022年4月1日

外食券食堂から民生食堂へ。戦前に建築された建物で90年続く大衆食堂『下総屋食堂』をご紹介します。食堂といいつつ、ビールや日本酒を傾ける人が大変多く、朝9時過ぎからやっている朝酒・昼飲み処でもあります。

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桜に導かれるように、隅田川を両国へ

今回ご紹介する食堂は、墨田区・両国。隅田川の川端にあります。

東京は広いようで中心街は狭く、両国は隅田川下流に位置する築地・勝どきからも、上流の浅草・吾妻橋からもそれほどの距離はありません。春の日差しに包まれた川のほとりを歩けば、東京の街がもっと好きになるはず。川沿いには桜並木が植えられた区間も多く、川端の遊歩道はとても心地いいです。

両国まで歩いてきました。視界にはいる緑の大屋根は相撲の聖地・国技館です。そろそろ一息つきましょうか。

下総屋食堂という店名は、いかにも両国らしくて好きです。武蔵国と下総国にまたがり架橋さた橋を「両国橋」と命名したことが町の名の由来ですし、その下総側にある食堂が『下総食堂』というわけです。

創業は古く、1932年(昭和7年)です。下町には歴史ある食堂が多く残りますが、建物も創業時のままという店は非常に珍しいです。戦災を乗り越えた店構えは、まるで映画のセットのよう。実際に、同店は様々な映画やドラマに登場してきました。

外観

営業時間は朝9時30分から夜20時まで。営業開始が早いこともあり、朝から”明け番”の人がお酒を飲みに来ることも多いようです。また、昼食時間帯だけでなく夜まで通しで営業していることから、遠方から「食堂飲み」を楽しみに来るファンもいると聞きます。

植木鉢が多数並ぶ店頭はいかにも下町食堂らしく、さらに数世代前のサッポロビールのロゴ入り看板に味わいを感じます。やや敷居が高く感じるかもしれませんが、ここは食堂ですから気軽に暖簾をくくりませんか。

内観

店内もレトロ感たっぷりです。昔ながらの土間にテーブルが7つ。みんなテレビを見ながら食事やお酒を楽しんでいます。壁には、国技館のお膝元ということで番付や大相撲カレンダーが。ここで撮影をした俳優さんたちのサインも飾られています。

天明後米一俵価格表。大衆食堂と米はきっても切れない関係です。

戦前からの食堂は、戦中・戦後の混乱期に単身者向けの食堂として、国が統制した「外食券食堂」として組み込まれた店が多く、『下総屋食堂』もそうした一軒です。外食券制度が廃止された1951年からは東京都指定民生食堂となります。民生食堂制度廃止後もこうしてプレートが残されており、店の歴史を知ることができます。

店の奥から「いらっしゃい!」と2代目の女将さんが元気よく迎えてくれました。接客は女将さん、営業中の調理は3代目になる息子さんの担当です。

乾杯は瓶ビール「サッポロ黒ラベル」で

平日のお昼間にもかかわらず、ほとんどのテーブルにドンと大瓶が並んでいます。飲みやすい雰囲気ですから、はじめての方もこの後の予定に差し支えなければ、ぜひ大瓶を一本。冷蔵庫でよく冷えたサッポロ黒ラベルの登場です。それでは乾杯!

品書き

お酒

お酒は2種類のみ。瓶ビール(サッポロ黒ラベル)大びん:600円か、日本酒(菊正宗):400円。

料理

料理は200円と300円の2段階に分かれており、煮さば煮かれいさば焼しゃけ焼さんま焼赤魚焼など主菜が300円。副菜のさといもかぼちゃひじきぜんまいおからポテトサラダなどが200円です。

ごはんとお味噌汁のセットは200円。とん汁への変更は追加100円です。

ケースから自分で取り出す昔からの方式

品書きの札はあくまで値段の確認用で、「何を食べようか決めるのはは実際にショーケースで食べ物を見てから」、というのが下総屋食堂のスタイルです。古くからの食堂にみられる方式で、このワクワク感は大人になっても楽しいものです。

穏やかな日差しと大川の風を感じて――

さば焼(300円)

大きくて肉厚の鯖に目が行って、一皿目はさば焼にしました。取り出すと3代目が裏でレンジ加熱してくれるのですが、その際に女将さんが、「これ、ホットで」と裏に回します。「ホット」と、カタカナだったことが意外で、思わず微笑んでしまいました。

脂がのっていてジューシー。ホクホクの鯖にビールが進みます。

ポテトサラダ(200円)

マカロニも入ったポテトサラダは、隠し味に酢をつかうプロの味付けです。

鯖もポテトサラダも、ボリュームがあるのにとてもリーズナブルでびっくりします。さらにビールやお酒を頼むとちょっとしたつまみも出してくれてテーブルの上は賑やかになります。

これにごはん・味噌汁セットをつければ、合計700円(ビールを除く)の定食になりますし、私のようにごはんの代わりにサッポロビールを置いてもいい。組み合わせ自由、各々の楽しみ方は様々です。

日本酒(400円)

銘柄は菊正宗です。お燗は徳利で、冷ならば目の前にビヤタンがセットされ、そこに一升瓶から直接注いでもらいます。水飲み鳥のようにこちらから迎えにいって、きゅっと一口。キクマサの飲み飽きない調和の取れた味は、日常の食堂にとてもよく馴染みます。

お酒のつまみにどうぞ、とキムチ。

開け広げた窓からは、大川の江風が優しく店に注ぎ込み、暖簾越しにゆれる午後の日差しが店内を温かく照らすこの空間。女将さんの物腰の柔らかな人柄にも癒やされて、すっかりほろ酔いになりました。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名下総屋食堂 (しもふさやしょくどう)
住所東京都墨田区横網1-12-33
営業時間9:30~20:00(土は9:30~18:30・日祝定休)
開業年1932年