鹿島田『上州屋』工場地帯だった昭和30年代から続く大衆活魚料理の店

鹿島田『上州屋』工場地帯だった昭和30年代から続く大衆活魚料理の店

2022年8月21日

鹿島田で奇跡の店『上州屋』。こんな素晴らしい酒場が存在するなんて、いまでも信じられないほど。日本各地から集まった50品を超える魚介類が並ぶ品書きを見ると、いまどこの街で飲んでいるか忘れてしまいます。魚好きならば一度は尋ねる価値のある名店です。

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住宅街にある驚きの大箱酒場

川崎市幸区鹿島田。川崎、武蔵小杉からともにJR南武線で7分ほどでアクセスできます。

駅名の由来となった鹿島大神が駅に西側にあり、さらに西へ100メートル進むとJR横須賀線の新川崎駅です。広域を結ぶJR2路線の駅があることで、東京、横浜、川崎、町田などへ乗換なしでアクセスできる便利な鹿島田。ですが、住宅街として開発されたのは比較的最近のことです。

平成の初期の頃までは工業地帯の色合いが濃く、日立(現在は廃止)、東芝、キヤノン、三菱ふそう、国鉄新鶴見操車場(現JR貨物)など、大企業の事業所が林立し、その周囲を中小の町工場が取り巻いていました。

働く人がいる街に、酒場あり。再開発が進んだ鹿島田には、いまも工場労働者向けに営んできた老舗の飲食店がいくつも営業しいます。今回紹介する『上州屋』も昭和30年代から続いてきた、鹿島田を代表する酒場のひとつです。

外観

店舗は駅前の商店街から移転。現在は2002年竣工のマンション「フロール川崎下平間」一階で営業しています。

マンション一階の飲食店というと小箱のイメージがあるかもしれませんが、同店は非常に広く、店頭もこの通り、大暖簾が掲げられています。移転した老舗で稀に感じる「味のなさ」の心配は御無用。威風堂々とした雰囲気に、老舗酒場好きならば間違いなくうっとりするはずです。

内観

いらっしゃい!元気に迎えてくれた大将は店の二代目です。初代とは親族関係ではなく、修行の末に店を受け継がせてもらったそうです。

そんな大将が包丁を握る板場を前にしたカウンターは、一人飲みならば特等席でしょう。

左奥には掘りごたつの座敷があり、右はテーブルと小上がりという構造です。一人から家族連れ、数人の宴会まで、幅広い用途に対応してくれます。席数の合計は約70席。

築20年の建物とは思えない、落ち着いた色合いと直線的な造り。広い店でも間延びした印象を感じさせないのは、中央に掲げられた千社額がバシッと決めているからでしょう。

酒はキクマサムネ、魚は南部市場。初代の頃から変わらないこだわりです。天井からぶら下がる魚の干物も先代の作品。味わい深い雰囲気に飲まれた筆者は、いま、住宅街・鹿島田にいるということをとっくに忘れています。

品書き

お酒

大樽(樽生)はキリンラガー大ジョッキ:869円、小グラス:539円。瓶ビールはキリンクラッシックラガー大瓶:616円。

清酒は菊正宗酒造(神戸)の菊正宗上撰:418円、菊正宗佳撰:363円。冷酒樽酒:638円、純米香醸:440円、菊正宗特醸純米酒:924円、純米大吟醸グラス:693円など。すべて菊正宗ブランドです。

加えて、ふぐひれ酒や甘鯛酒なども選べます。

本日のホワイトボードメニュー

本日の活魚は、小田原天然石鯛:748円、沼津あじタタキ:605円、千葉さざえ:550円、鹿児島車海老おどり:935円など。

キンキ煮付:1,650円、湯で毛がに:3,080円など、なかなか豪華です。舞鶴のカメの手:605円、宮城のホヤ:605円など、日本中から魚介類が集まっています。

まだまだ続きます。

刺身は、江戸前のスミヤキ(クロシビカマス)なめろう:660円、佐世保の髭鱈(ヨロイイタチウオ)昆布じめ:660円、石川のウマヅラハギ肝和え:660円、神津島の黒ムツ刺身:660円、佐島の炙り鰆刺身:660円、大分のアオリイカ刺身:726円、三重のトリ貝刺身:660円、愛知の天然タイラ貝刺身:660円など。

焼物・煮物は、桜マス塩焼き:660円、花鯛塩焼き:660円、カサゴの煮つけ:1,320円、金目西京焼き:660円など。その他、甘鯛うろこ揚げ:600円、メヒカリ丸揚げ:660円、毛蟹味噌汁:715円など。〆にはのりめし:550円が人気だそう。

魚好きを唸らせる。一品ごとに驚きと発見。

キリンクラシックラガー大瓶(616円)

樽生ビールは生麦でつくるキリンラガー。瓶は熱処理ビールのキリンクラシックラガー。川崎の老舗酒場らしい品揃えに「やっぱり、そうだよね」とひとり納得しました。名店には大瓶が似合います。

それではキリンラガーで乾杯!

本日の貝類づくし五点盛り(1,320円)

赤貝、黒バイ、つぶ貝、ミル、トリ貝。三重や北海道など、日本中から集められています。仕入先の川崎南部市場(幸市場)の品揃えがまず素晴らしいですが、貝類だけでこれだけの品数を揃えている上州屋にも驚きます。

どれも鮮度抜群。弾力が違う、赤貝。予想以上にコリコリとした食感で上品な風味が心地いい北海道産のツブ貝にうっとりとします。

菊正宗 上撰(418円)

「旨いものをみるとキクマサが欲しくなり、辛口のキクマサを飲むと、旨いものが食べたくなる。」

菊正宗のキャッチコピーの通り、欲しくなったのは菊正宗。こんな美味しい刺身を前にして、日本酒を飲まないのはバチが当たりそうですから。升にグラスを入れて提供するのが上州屋のスタイルです。

ウマヅラハギ肝和え(660円)

本カワハギの代用品なんて言わせない、鮮度よしのウマヅラハギです。ねっとり濃厚な肝と、きめ細かくしっとりとした舌触りの身。脳裏に残る美味しさとはまさにこれのこと。

髭鱈昆布じめ(660円)

ヒゲダラという魚はあまり馴染みがありません。比較的深い場所に生息する魚のようです。気になる味は、上品な白身魚特有の風味。旨味は昆布〆で加えられており、同じ白身でも鯛や鮃の昆布〆とはまたがった甘さが感じられます。

メヒカリ丸揚げ(660円)

揚げたメヒカリの美味しさを知ると、品書きにあれば注文せずにはいられません。アタマからがぶっと頬張ります。なんといっても、タプタプに蓄えた脂の旨味がたまりません。ハラの苦味と脂の甘さが混ざりあえば、菊正宗やキリンラガーがグンと進みます。※お酒は適量で。

カメの手(605円)

日本酒のつまみもよいですが、焼酎で杯を重ねるならば筆者はカメの手をあわせたいです。定番メニューとして置いていることに驚きます。

ちなみに、上州屋は焼酎も菊正宗酒造製造のものです。清酒粕でつくる菊正宗七年貯蔵25度。なかなか見かける機会の少ない銘柄です。

毛蟹味噌汁(715円)

〆には毛ガニの味噌汁が人気です。半杯分ほどはいってこの価格。かなり良心的で驚きました。

南武線に乗って、わざわざ飲みに行きたくなる酒場

南武線沿線が生活圏でなくても、川崎や武蔵小杉から電車を乗り継いででも飲みに行きたくなる酒場。それが上州屋です。

大衆活魚料理の看板に嘘のないお手頃な価格設定に、これだけの品揃え。それでいて工場地帯にあった酒場ならではの宴会に対応した店の構造。酒場好きの宴会にもぴったりではないでしょうか。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名上州屋
住所神奈川県川崎市幸区下平間214-1 フロール川崎下平間第2
営業時間16:00~24:00(月定休)
開業年1963年頃