1965年創業、大倉山もつ肉店。トタンに直接書かれた店名や木製の窓枠は、昭和40年代の商店建築を今に残す貴重な建物。お店の人もお客さんも世代交代をしながら、脈々と受け継がれてきました。
目次
一瞬で半世紀前の世界へ
外観
東急東横線の大倉山駅から徒歩5分。東急線沿線らしい低層でおしゃれなデザインを施した建物が立ち並ぶ町並みが広がっています。そこに突如としてみえてくる「大倉山もつ肉店」は、まるでお店ごとタイムリープしてきたようにすら思えます。
創業時からかわらぬ建物は、もはや酒場遺産です。店先にせり出した小さなカウンターには、飲み慣れた常連さんが立ち並び、その様子も幼少の頃に憧れた焼鳥店の姿そのもの。皆さん、お燗酒やビールを片手に、焼きたてのもつ焼きを頬張っています。
内観
店頭はテイクアウトで利用する家族連れの姿もあり、一見すると並んでいるように見えますが、店の奥の席は空いていればそのまま入って問題ありません。
鉄板前のローチェアと、店の奥は店内を見渡せるハイチェアのカウンターが設置されています。店頭での立ち飲みが縁日のようで楽しいものの、私のオススメは店の奥。
店先同様、内部も非常に味わい深い雰囲気だからです。
特筆する点は、歴代のサッポロビールのイメージガールのポスターが所狭しと貼られているところ。復刻版ではなく、すべて当時の営業さんが持ち込んだもので、何十年と貼られている本物です。
現在の「サッポロ生ビール黒ラベル」の名称の誕生以前の表記もありました。
こうした雰囲気の酒場が現存し、お店の人も世代交代しパワフルに営業され、お客さんも途切れることなくやってくる――。活きたいぶし銀酒場は実にいいものです。
串のもつ焼と、炒めるもつ焼(品書き)
さて、もつ肉店というくらいですから、お店のメニューはほとんどがもつ肉です。モツ串ははつ、たん、レバー、かしらの4種類のみ。これとは別に「もつ焼」(200円)というのがあります。ハツもタンももつ焼きなのに、さらに「もつ焼」とは?と思いますよね。これがお店の名物料理。
夏は冷奴(250円)、冬は湯豆腐(400円)、そのほか銀杏、もろきゅうなどいくつか加わりますが、料理はわずか十数品しかありません。
煮込みは水曜日・木曜日限定です。
店の雰囲気も酒の肴
ビールはサッポロびん生で
ポスターと多数の恵比寿様の御札に誘われて、一杯目はサッポロビールを選びました。ここでは、黒ラベルと呼ぶよりも「サッポロびん生」と呼ぶほうが正しい気がします。
トクトクとビヤタンを満たして、乾杯。
決して広くはない店内ですが、そこに大きく鎮座するのは、レトロな樽冷式のビールサーバー。樽生のサッポロ生ビールが楽しめます。
名物、もつ焼(200円)
もつ焼とは、鉄板で炒めたシロモツと玉ねぎのこと。創業時からつかっているという鉄板、もつは芝浦から長年仕入れてきたものだと常連さんが教えてくれました。
ひとりで摘むのには丁度いい量です。玉ねぎは適度にくたっとして、念入りに炒めたモツは飴色に染まっています。
特製のコクがある甘いタレは、まるまったシロの内側まで浸透し、お酒飲みには丁度いい味の濃さです。一味を軽くふりかけて味を引き締めるとなお美味しい。
テイクアウトで自宅用に買っていく人が次々訪れ、その都度、ご主人は鉄板の前ですばやくコテを動かしています。
野菜串(100円)
串は野菜もふくめて1本100円。1本ずつ、飲むテンポにあわせて焼いてくれます。
おしんこ(200円)
箸休めというにはもったいないほどに、しっかりと漬けられたおしんこ(200円)。丹念に仕込まれており、深い旨味がお酒を誘います。
お酒は両関
日本酒は秋田の銘酒・両関一本です。
床におかれたガス台でコトコトと常に温められているお酒。「酒 450円」と書かれたものを注文すると、お燗酒ならば湯煎でつけた瓶がそのまま供されます。
普通酒のほかに、両関がつくる特定名称酒なども用意されています。
翠玉・純米吟醸無濾過生酒。両関が秋田県産米でつくるこだわりの逸品。両関がつくる希少なお酒が意外とリーズナブルな価格で楽しめるのも同店の魅力のひとつです。
涼しい季節がおすすめです
酒場好きならば一度は訪ねてほしい、実に素晴らしい雰囲気の名店です。この空間の風景の一部になれるという、それだけでも実に魅力的。
ふらっと東急線に乗って飲みにいってみませんか。なお、夏は暑いので涼しい季節がおすすめです。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 大倉山もつ肉店 |
住所 | 神奈川県横浜市港北区大倉山3-29-7 |
営業時間 | 17:00~22:00(日定休) |
開業年 | 1965年 |