川崎『一軒め酒場』が14年目にして初の大幅刷新!今あえて「おやじ向け」という選択

川崎『一軒め酒場』が14年目にして初の大幅刷新!今あえて「おやじ向け」という選択

2022年10月17日

2008年12月に誕生した養老乃瀧系の低価格業態『一軒め酒場』が初のブランドリニューアルを始めています。コンセプトは「おやじが喜ぶ こだわりの酒と肴だけの店」。看板・品書きの変更が目立ちますが、料理も以前より大幅にレベルアップしています。

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「美味しく、接客よく、安い。」に磨きをかけて


一軒め酒場1号店である神田南口店

東京千代田区・神田のJR高架下のわずかなスペースではじまった一軒め酒場。当初のコンセプトは「立ち飲み価格で座って飲める」。190円(税別)のレモンサワーや、300円前後のリーズナブルな料理など、安さを全面に出した低価格酒場(いわゆるセンベロ)です。いまでこそ、大手チェーン居酒屋各社もこぞって低価格酒場を展開していますが、一軒め酒場は多店舗展開に乗り出した草分け的存在です。

首都圏だけでなく、名古屋や大阪、広島にも展開し、店舗数は40軒以上になります。

さて、ご存知の通り2010年以降、酒場を取り巻く環境は目まぐるしく変化しました。消費税率引き上げ、センベロ・立ち飲みブームの到来による酒場全体の低価格化、2020年以降の酒類規制や外食ニーズの減少、さらには原料費高騰。

そのような環境下で大手居酒屋チェーンは、既存の居酒屋からお酒を主体としない食堂・レストラン業態にシフトしたり、大手企業の傘下に入り仕入れ・物流コストの効率化を進めたり、SNS映えを狙った今風のコンセプトを取り入れたりと、様々な挑戦を続けています。

『一軒め酒場』を展開する養老乃瀧も、昨今の逆風の中で大きな挑戦をしました。

その挑戦とは、『一軒め酒場』を誕生14年目にして大幅刷新でした。それは、話題性を求めた派手なリブランディングでも、SNS映えを狙った尖った料理でもなく、既存の一軒め酒場を居酒屋チェーン企業として磨けるだけ磨いていこうというものです。

1956年、横浜で「養老乃瀧1号店」開業してから、2008年誕生の『一軒め酒場』まで変わらない方針は、「安く、美味しく、接客が良い」。今回のリニューアルは、原点回帰とも言えます。手頃な価格はそのままに料理の質を高め、店構えは派手な価格訴求ではなく、本質的な酒場の魅力「安いだけではなく、しっかり美味しい」を伝えるようなものになったのです。

あえて、今の時代に「おやじが喜ぶ こだわりの酒と肴だけの店」というキャッチコピーを採用。30代後半以降の酒場好きおじさんに伝えたいという想いがあるといいます。

イメージを刷新した『一軒め酒場 川崎仲見世店』へ

新しくなった一軒め酒場を取材したいと相談したところ、「ぜひ!」と回答いただきました。取材する店舗は養老乃瀧さんのご指定もあり、『一軒め酒場 川崎仲見世店』です。2019年頃までは養老乃瀧グループ全店の中でも上位の来客数を誇っていた店舗だそう。

タイル貼りで引き締めた新しい店構えに、大きく名物料理やお酒を掲げたファサードが目にとまります。以前のような価格訴求ではなく、酒場らしい品書き風のデザインになりました。

ロゴは「め」を赤くしたものから、紋様「丸に剣片喰」をつけたものに変更。日本国内に広く分布する雑草「かたばみ」と「刀剣」が描かれており、人々に寄り添い、古き良きものを大切にするという意味が込められているそうです。

内観

内観は従来の店舗から大きく変わってはいません。店舗によってはゆとりのあるボックス席もあり、低価格酒場とは思えない居心地の良さがあります。

品書き

料理やお酒のブラッシュアップが続けられており、そちらも紹介したいのですが、まずは大きく変わった品書きに注目です。なんと冊子状になっています。一軒め酒場の取り組み、想いを伝えるためにカタログ風にしたとそうです。

お酒

「おやじ向けの店」らしく、いかにも飲むのが好きそうなおじさんが表紙を飾っています。

まるでサッポロビール社のパンフレットのような、見開きで書かれた生ビールの紹介。いま、一軒め酒場をはじめ養老乃瀧グループ全店で生ビールの品質向上に取り組んでいるそう。これだけメニューに品質向上の取り組みが紹介されていると、店員さんもビール注ぎに気合が入りますね。

サッポロ生ビール黒ラベル:中ジョッキ:462円、得ジョッキ:528円。

日本酒の白鶴も見開きで紹介さています。灘の酒蔵・白鶴酒造の酒造りに対する想いが語られているものの、値段は燗酒・ひや酒:220円と、安心の一軒め酒場価格です。

お酒好きの筆者としては、読み物としても楽しいです。ハイボールはデュワーズ:352円など。一軒め酒場名物のバクハイ:330円も引き続きあります。

レモンサワーは、またまた見開きです。いつものレモンサワー:209円、トマトレモンサワー:275円など。

サワー、お茶割り類は、ポッカサッポロの玉露入り緑茶割り:209円、コーン茶割り:209円、男梅サワー:209円、おやじ好みの梅サワー:209円など。

料理

グランドメニューも、また渋いおじさんが表紙です。

見開きは会社案内みたい。養老乃瀧・一軒めマニアにたまらない商品開発の流れやこだわりが実際に携わる人達の写真入りで紹介されています。

ここまで来たら、めくっていくのが楽しくなります。なにせ、以前は表計算ソフトで作ったような紙一枚だったのが、一気にカタログテイストになっているのですから。

野菜を使用するのをやめて豚モツ100%にリニューアルした名物煮込み:319円、手包み肉汁たっぷり一軒目焼売:275円、神田旨カツ:109円、超厚切り男のハムカツパート2(※パート3も登場):352円、誕生当初から続く豆腐厚揚げの名物揚げたて:220円。

メニュー数は養老乃瀧より少なめ。これはリニューアル以前からですが、冊子になるとバリエーション豊かに見えます。

モツ料理は煮込み以外にも、一口かしらステーキ:385円、ずり唐:264円、豚タン:286円など。

揚げ物は、ちくわ磯辺揚げ:209円、鶏軟骨唐揚げ:264円、胡麻手羽:352円、カリッと揚げめん:109円など。そのほか、〆さばのりゅうきゅう:308円、さきいかバター:286円など。

ほかには、豚バラ目玉焼:352円、さば塩焼き:352円、おやじ好みの玉子サラダ:308円、店仕込豚バラチャーシュー:374円、だしを変えてブラッシュアップさせた出汁巻玉子:308円、酒場のソース焼そば:319円、〆の旨塩焼そば:319円など。

ふたたび、“一軒め”に通いたくなる料理

サッポロ生ビール黒ラベル(462円)

乾杯はやっぱりビールでしょう。養老乃瀧とサッポロビールは半世紀以上の付き合いがあり、一軒め酒場のビールはもちろんサッポロ生ビール黒ラベルです。たしかに状態がすごく良いですね。でも、もしかしたら、良好なのはこの一杯だけということも…。

ということで、取材に同席頂いた養老乃瀧やサッポロビールの皆さんにもご協力いただき、並べてみました。どれも星の肩に液のラインがあり、泡も細かさ、ジョッキの洗浄まで、びっくりするほど完璧です。

それでは乾杯!間違いなく、パーフェクトな一杯です。

神田旨カツ(109円)、一軒めのポテトサラダ(242円)、塩レバー(286円)

神田から始まったから、神田旨カツ。オープン当初から、筆者の好物です。ソース味はサラサラとしているのにコクがあり、和風味を選ぶと大根おろしポン酢ですっきりと食べられます。

ポテトコロッケと茹で玉子を和えた不思議なポテトサラダもオススメ。レバー(豚)はごま油をつけた本格派。

華美な装飾はなし。その分、食材コストをかけて美味しさを追求しているとのこと。

大人のきんぴら(275円)

ポピュラーな即菜小鉢がしみじみ美味しいのが嬉しいです。

旨辛ニラナムル(286円)

わずかな加熱時間の差でニラのシャキシャキ感がなくなってしまうからと、何度も試作をしたという旨辛ニラナムル。安定しないので一度はメニュー落ちの可能性もあったとか。食感と辛さが丁度よいです。

豚ハツごま味噌タレ(286円)

ボイルしたモツの冷菜、いわゆるモツ刺しも一軒め価格。ハツのごま味噌タレは、モチモチとした食感と旨味が楽しいです。

ちくわ磯辺揚げ(209円)

以前一軒めで「磯辺揚げ」を食べたのは、もう10年近く前。ですがはっきりわかります。あのときよりもレベルアップしていることに!

価格は変わらず190円(税別)と嬉しい値段。揚げたてでザクザクです。ちくわの内側にカラシを塗って食べるとより美味しそう。

手包み肉汁たっぷり一軒め焼売(275円)

今回の取材で最も「掘り出し物」と感じたのが、この焼売です。一軒め酒場はブラッシュアップを進める中でセントラルキッチンを廃止し、すべて店内調理に切り替えていますが、この焼売もなんと店内で包んだものだそう。ジューシーでトロトロ。これは次回も必ず注文したいです。

玉露入り緑茶割り(209円)

値段訴求から美味しさ訴求に切り替わったとはいえ、値段はリニューアルしていない店舗と同じ。大好きな玉露入り緑茶割りも変わらず1杯190円(税別)です。使用する割材のお茶は、甲類焼酎を混ざった状態で緑茶100%の濃さになるよう、少し濃い目に作られているのが美味しさのポイント。

カリッと揚げめん(109円)

あまり強くオススメしないでほしいけど…なんて中の人の声が聞こえてきそうな、スナック菓子のようにカリッと揚げめん。店で使っている冷麺(そうめん)の切れ端をつかった、食材ロス対策おつまみです。ザクザクで予想していた数倍、箸が止まらないおつまみ。

白鶴 冷や酒(242円)

例えば、揚げめんをつまみに、日本酒をコップ1杯で税込み合計351円。まだまだ一軒め酒場価格は健在です。それでいて全体的にレベルを高めているので、満足感も高いです。キレのある灘のお酒が心地良い!

きゅうり一本漬(264円)

日本酒のお供にはお漬物。

おやじ好みの梅サワー(209円)梅干し入り(+33円)

ここで、中の人のオススメドリンクを聞いてみましょう。

2008年の1号店から現在まで一軒め酒場の開発責任者・担当役員を務めている谷酒さんのオススメ酎ハイは、おやじ好みの梅サワー。男梅サワーのような甘さはなく、梅干しの塩味がほんのり感じられる一杯です。専用の柔らかな梅干しを追加するとより美味しくなります。

酒場のソース焼そば(319円)

食事ではなくおつまみ用に開発したという焼そば。非常にシンプルなソース焼そばですが、焦げるくらいしっかり炒められており、モチモチの中にカリカリの食感が加わっています。磯辺揚げの天かすと鰹節のトッピングが味の決め手です。

〆の旨塩焼そば(319円)

「焼そばはソースと塩、どっちも美味しいから応援してね」、と中の人太鼓判の一品。なんと鯛塩で味付けをしており、磯の香りが〆といいつつ食欲を誘います。

品書きの最初から最後まで、すべて飲兵衛好みのおつまみ

今回のブランドリニューアルで感じられることは、ストイックなまでに大衆酒場チェーンのあり方を追求したものだと思います。新しい層に迎合した料理ではなく、飲兵衛はどんな料理を求めているかを考え続けてきた結果が、いまここに詰まっているように感じました。

比較的身近な一軒め酒場。久しぶりに飲みに行ってみませんか。リニューアルした店舗は、紋様つきのシックな看板が目印です。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/養老乃瀧株式会社・サッポロビール株式会社)

店名一軒め酒場 川崎仲見世通り店
住所神奈川県川崎市川崎区砂子2丁目3−17
営業時間24時間営業(無休)
開業年2008年(神田南口店)
公式サイト養老乃瀧WEBサイト