『鳥正』は、小岩の昭和通り沿いで半世紀にわたり親しまれてきた老舗の酒場です。平日でも口開けとともに黒帯の常連さんたちが次々集まり、長いカウンターは満席にります。それでも、ベテランのお客さんがほとんどなので、活気があってもさほど騒がしくなりません。
目次
親子で通う常連もいる、ベッドタウンの名酒場
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赤羽、蒲田、金町、小岩。主要な鉄道路線の都県界にある駅前は、それぞれ他の街には感じられない独特な熱気があるものです。「ディープ」「レトロ」といった言葉で一括りにイメージせず、個性的で人間味豊かな街を赤提灯を訪ねながら歩いてみるのはいかがでしょう。
小岩は都心からJR総武線で20分ほど。江戸時代に新田開拓で広げられた平地に、1899年(明治32年)、比較的早い頃に鉄道が開通し、以来都心のベッドタウンとして宅地化が一気に進みました。南口に3本の立派な商店街を抱えており、戦前から開発された街ならではの歩行者中心の街並みが広がっています
昔ながらの家族経営の飲食店が今も元気に営業中で、鳥・活魚料理の『鳥正』もそうした一軒です。創業は1966年(昭和41年)。
外観
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絵に描いたような老舗酒場の店構えです。白地に明朝体で書かれた「鳥正」の文字に惹かれます。マンション化、複合ビル化が進む小岩ですが、同店は昔ながらの路面・二階建て。
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少し開いた隙間からは、焼鳥の香ばしさとともに、店員さんの心地よい注文の声が漏れ聞こえてきます。開店時間の17時をちょっと過ぎたばかりなのにすでに“大入り”の様子。
内観
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外観から分かる通り、間口は小さいのですが、店は奥へと続いており、長さは20メートル以上。L字で奥に長い20席あるカウンターと、その先に小上がり、二階は畳敷きの座敷というつくりです。一人飲みはもちろん、家族連れ、宴会など幅広く利用できます。
調理場も細長く、焼き場、板場、ドリンク場と配され、大将含め3人の板前さんが忙しそうに調理していました。それを支える給仕担当の皆さんも、慣れた手付きで次々と料理を運んでいく――。店の雰囲気と切り盛りの様子だけで、いい店だとわかります。
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補修や清掃しっかりされており、年季のはいった建物特有の心地よい空気感に満ちています。
品書き
お酒
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樽生ビールはアサヒスーパードライ、大生:803円、中生:605円。瓶ビールはアサヒスーパードライ大瓶:660円、キリンラガー大瓶:660円、黒ビール小瓶:495円など。
日本酒は定番酒が宝酒造の松竹梅豪快:385円。白鶴酒造(神戸)白鶴 生貯蔵酒:770円、長龍酒造(奈良・広陵町)吉野杉樽酒 金龍山ます酒:495円。
焼酎ハイボール(マルエー梅エキス):385円、サワー類は緑茶ハイなど385円~。ウイスキーがサントリーリザーブ(シングル):385円なのが珍しいです。常連さんは鳥正ラベルの麦焼酎などをボトルキープで楽しんでいます。
日替わりのおすすめ
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刺身類は鮪中おち、鮪ブツ、ヒラメ、カンパチ、シマアジ:各825円、カツオ:715円、ホタテ:660円、タイ:770円、本コチ:715円など。
そのほか、あじつみれ揚:550円、揚ナス山芋サラダ:660円、ポテトサラダ:440円など。
定番メニュー
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看板料理の焼鳥は、焼鳥盛り合わせ:726円、やきとり(正肉)、ねぎま、ハツ、鳥肝、砂肝、皮:各132円。たたき(つくね):165円、ピーマン肉詰:198円、合鴨:242円など。串の単品は各2本から注文可能。
肉豆腐:385円、とりわさ:660円、鳥の唐揚げ:605円も人気。
魚と鳥。どちらも甲乙つけがたい!
キリンラガー大瓶(660円)
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席につくとすかさず飲み物を聞いてくれます。瓶はアサヒとキリンが選べますが、飴色に染まった店内に似合うキリンラガーを選びました。ビアタンを満たして、それでは乾杯!
お通し
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お通しは日替わり。煮物だったり揚げ浸しだったりと、ホッとする料理がでてきます。
肉豆腐(385円)
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ファンの多い同店の人気メニュー「肉豆腐」は必ず頼みたい逸品です。鳥の店ですから、肉豆腐も鶏肉です。それも、モモやムネではなく首肉(セセリ)を使用しています。甘くすき焼き風の味付けには、プリッとした食感のセセリがぴったり。アクセント的にはいった鳥皮は、豆腐を包むようにスプーンで掬って頬張りたいです。
吉野杉樽酒 金龍山ます酒(495円)
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こうなると欲しくなるのは日本酒です。首都圏ではあまり見かけない奈良・広陵町の酒蔵・長龍酒造がつくる金龍山を置いています。升にすりきり注いだ一杯。杉の香りがたまりません。
刺身盛り合わせ(1,320円)
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「わぁ!」
立派な刺盛りに思わず声がでます。奥からマグロ、シマアジ、本コチ、そしてタイ。白磁の皿に溢れんばかりの盛りつけが嬉しいです。コリコリとしたシマアジ、ほどよく旨味がでた真鯛、魚介の店ならではの本コチの刺身、どれも日本酒を進ませます。
長年、船橋の市場で仕入れているそうです。内容は季節や仕入れの状況次第でかわります。
焼鳥盛り合わせ(726円)
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お願いしていた焼鳥が出来上がったようです。味付けはお任せしたところ、砂肝とねぎまは塩焼きで、ほかはタレで焼いてくれました。
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パリッと仕上げた表面と、中から滲み出る肉汁のジューシーさ。ベテランの皆さんがつくる老舗の焼鳥は間違いのない美味しさです。
ハイボール マルエー(385円)
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合わせるお酒は、日本酒からハイボール(マルエー)へ。梅エキス入のいわゆる焼酎ハイボールで、甲類焼酎をベースに色付きのエキスを入れた城東地域らしさを感じる一杯です。製氷機の氷ではなくロックアイスを使用し、控えめに浮かべているのが嬉しいですね。
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魚と鳥、どっちがよいかを本記事の結びにしたかったのですが、どちらも日本酒、焼酎ハイボールと相性がよくて決められません。
アラ汁のサービスが嬉しい
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お会計をすると、サービスでアラ汁がいただけます。温かいものをお腹に入れてホッと一息。味がよくて、またお酒が飲みたくなってしまいます。お会計は少しお酒を残しておいたほうが良さそうです。
小岩は老舗の酒場が多く皆さんそれぞれに行きつけがあると思いますが、鳥正もいい酒場ですからぜひ。
ごちそうさま。
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(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 鳥正(とりしょう) |
住所 | 東京都江戸川区南小岩7丁目30-10 |
営業時間 | 17:00~23:00(水定休) |
開業年 | 1966年 |