博多『寿久』筑紫口で53年の正統派酒場、名物豆腐煮付と新鮮キビナゴ

博多『寿久』筑紫口で53年の正統派酒場、名物豆腐煮付と新鮮キビナゴ

2022年5月1日

JR博多駅筑紫口前で53年。二代目が守る老舗の店『大衆割烹 寿久(ひさきゅう)』。ベテランの常連さん率が高い、昭和から続く王道の酒場です。外観からは想像できないほど大きく、一階だけで50席以上。カウンターで一人飲みをすれば博多がきっと好きになる!冷蔵ケースに入った刺身と豆腐煮付けが名物です。

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これぞ大衆酒場!長いカウンターに惚れる

博多駅とともに半世紀

(JR博多駅 博多口。JR博多シティが竣工し、駅前の雰囲気は大きく変わりました。)

(JR博多駅 筑紫口。1975年の山陽新幹線開業時からの姿をとどめています。)

現・博多駅の歴史は意外と浅く、開業は1963年のこと。それまで田畑が広がっていた場所が突如として福岡の玄関となりました。

新博多駅開業にあわせ、中心街・天神を向いた博多口には西日本最大の駅ビルが竣工し、名実ともに福岡の顔となりましたが、対する筑紫口は勝手口のような存在だったようです。そのため、小さな飲食店が筑紫口の駅前に立ち並ぶようになり、それが現在も筑紫口一帯の飲み屋街として残っています。

それが、山陽新幹線の博多延伸が決定した1969年頃になると、筑紫口の開発が本格化します。福岡地方合同庁舎や電電公社など公共ビルが竣工すると、大手企業の福岡支社ビルや銀行、商工会館など民間企業も次々筑紫口に大型建築物を建て、みるみるうちに都市化していきました。

外観

そんな筑紫口の発展をみてきた老舗の酒場が創業から53年になる『寿久』です。山陽新幹線が開業する1975年(昭和50年)よりも前から筑紫口で商売を続けてきました。

外観は改装によって老舗酒場という風格はあまりなく、少し物足りなく感じるかもしれません。ですが、この自動ドアの向こう側には酒場好きならばきっと好きになる空間が広がっています。

内観

いらっしゃい!笑顔で明るく迎えてくれるのは、お帳場に立つこの店のご主人。親から店を引き継いだ2代目で、物腰がやわらかでいかにも酒場のご主人という雰囲気です。

お好きな席へどうぞ、と奥へ通されると、そこには15席の丸椅子が並ぶ一直線のカウンターが広がっていました。約12メートルあり、店構えからは想像できないほど奥に長いです。

カウンターとは欄干を挟む対面には6人テーブルがずらりと並んでいます。長年使い込んできた酒場特有の味の雰囲気です。

二階にもテーブル席があるほか、宴会用の座敷も完備しています。

開店前に店内の写真を撮らせてもらいましたが、17時の開店を迎えた途端、次々と会社帰りの人々が流れ込んできました。二階の宴会客、飛び込みの一人飲みの男性、買い物帰りの女性二人組などで、店内はあっという間に満卓です。多くのお客さんが「勝手知ったる馴染みの店」というように、ご主人やベテランの従業員さんに挨拶しながら席へとついていきます。

常連さんは席に付く前から、ご主人の前にある冷蔵ケースで一品目を各々取り出していきます。刺身やちょっとした小鉢が所狭しと陳列された冷蔵ケースは圧巻です。

品書き

お酒

それでは、恒例の品書きウォッチから。

寿久はには生ビールは2種類あり、アサヒスーパードライ:490円だけでなくマルエフことアサヒ生ビール:490円も選べます。瓶ビールはアサヒスーパードライ大瓶:580円です。

一番飲まれているのはやはり焼酎のようで、霧島酒造のむぎ焼酎1合:380円、黒霧島いも焼酎1合:380円、雲海酒造そば焼酎1合:380円。注目は単位がグラスではなく1合というところで、お湯割りならば2杯分になりますからお得感があります。

日本酒は長崎・諫早の酒蔵、杵の川の清酒1合:370円。

酎ハイ類は、酎ハイレモン:370円、酎ハイジンジャー:370円、酎ハイ玉露抹茶:370円。ハイボールはブラックニッカクリア:380円。ワインは赤・白ハーフボトル:700円。

日替わり・おすすめ

日替わりは冷蔵ケースに並ぶ料理で直接確認します。取材時は、刺身盛り合わせ:540円、まぐろ刺身:590円、かんぱち刺身:540円、きびなご刺身:490円、いわし刺身:490円、〆鯖:490円、馬刺し:690円、ごまカンパチ:490円、酢モツ:360円、たこわさ:290円など。

料理

定番料理は壁に貼られた短冊から。品数が多いので、しっかり見渡さないと見逃してしまいます。

鯨ベーコン:540円、天ぷら盛合せ:490円、きびなご天ぷら:470円、きす天ぷら:470円、牛もつ鍋:920円、鶏ハツ炭火焼き:490円、とり唐揚げ:490円、串焼きセット:540円、ハムカツ三枚:470円、ホルモン炒め:540円、牛すじ煮込み:490円、蒸ししゅうまい:430円、焼き豚:470円など。

人気は店名を関した寿久エビチリ:540円、食事も兼ねた常連さんには、パリパリ麺かた焼きそば:690円や、焼きビーフン:690円も人気のようです。

乾杯はアサヒ生ビール(490円)で

老舗のカウンターには、長く飲まれてきたビールが似合います。スーパードライも選べますが、ここはマルエフこと、アサヒ生ビールで乾杯!

まろやかで旨味を感じるマルエフ。缶でも飲めますが、樽詰めのほうがより美味しく感じるというもの。スーパードライとマルエフ、二種類の樽を揃えている店は珍しく、ここ『寿久』ならば生樽の飲み比べも楽しめます。

きびなご刺身(490円)

あわせるおつまみは、冷蔵ケースで美味しそうに輝いていたきびなごの刺身。きびなごは鮮度が落ちやすいデリケートな魚なので、首都圏で食べるより、産地の九州で食べるほうが圧倒的に美味しいことが多いです。

本当に鮮度がよいきびなごは銀色ではなく青く輝くと、数年前に甑島(こしきじま)を訪れたときに漁師さんから聞きました。寿久のきびなごも青いですね。

長浜の市場が近いこともあってか、寿久のきびなごは鮮度抜群で絶品です。味は醤油か酢味噌が選べますが、ベテラン店員さんのオススメはやはり酢味噌。弾力がありシャキ・ツルッとした食感には、旨味の強い酢味噌がよく合います。

いも焼酎お湯割り(380円)

美味しいお刺身には、美味しい焼酎を。霧島の芋焼酎をもらいました。九州の飲食店ではお馴染み、メーカーロゴ入りに魔法瓶がドンと置かれ、「あとはご自由にどうぞ」というのが一般的なスタイルです。

お湯割りをつくるときは、お湯から先に注ぎます。先に焼酎を入れると、となりのお客さんや店員さんから「え!?」と思われるくらい、九州ではお湯が先という人が多いです。

つぎに芋焼酎を。1:1の割合で濃いめにつくっても、焼酎は1合瓶いっぱいに入っているのでなくなりません。

お湯と焼酎の温度差による対流で、混ぜることなくまろやかなお湯割りの完成です。はなやぐ芋の香りにほっこりとします。

とうふの煮付け とじ玉子入り(490円)

ここからは焼酎のリピートになりそうですから、焼酎に合う濃い味の一品を。店の名物料理「とうふの煮付け とじ玉子入り」は、多くの常連さんが注文する、同店で定番の焼酎のつまみです。

煮込みの豆腐や、煮魚に豆腐を添えることはありますが、豆腐の煮付けというのは珍しいです。みりんや酒、九州の甘い醤油でじっくりと煮込んだ、飴色が美しい一品。シンプルで簡単そうにみえますが、なかなかこの味を真似するのは難しそうです。

木綿豆腐は水分が抜けて結構かために仕上がっています。豆腐そのものの味も濃く、しっかり甘い味付けとよくマッチしています。これで焼酎が進まないはずがありません。

超・安定感

飲み慣れた近隣のベテラン会社員が贔屓にしている理由がよくわかりました。店員さんもお客さんも酒場慣れした方ばかり。ですから大箱で席が埋まったとしても、それほど騒がしくならないのです。カウンターで九州らしいつまみを独り占めしてチビリとお酒を楽しんでいたら、改めて「福岡っていいな」としみじみ感じました。

また来てね!と元気なご主人に見送られ大満足の酒場時間でした。まるで銭湯あがりのような気分で、博多駅へ。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名大衆割烹 寿久(ひさきゅう)
住所福岡県福岡市博多区博多駅中央街5-24
営業時間17:00~23:00(不定休)
開業年1969年