明治、大正、昭和にかけて貿易港として栄えた門司港。本州に最も近いこの町は九州の玄関口として、かつては国鉄航路「関門連絡船」使い多くの旅人が経由してきました。
いまでこそ、鉄道も自動車も直接、北九州市の中心街・小倉へ直接アクセスしていますが、門司には栄枯盛衰のなかで残されたレトロな町並みが残り、九州を代表する観光スポットへと姿を変えていきました。
1914年築、ネオ・ルネッサンス様式を取り入れた優美な駅舎の門司港駅をはじめ、旧税関、旧大阪商船、旧門司三井倶楽部などレトロ建築が立ち並ぶ町並みは圧巻です。そして、もうひとつ、門司探訪なら欠かせない場所が角打ち営業をされている酒販店「魚住酒店」です。
小倉から電車で15分。まるで時が止まったような門司港駅の到着。九州鉄道発祥の地で、総延長約400kmある鹿児島本線の起点の場所。ターミナル駅らしい堂々とした風格があります。
レトロな町並みはガイドブックに載るような名所だけでなく、街全体が懐かしい雰囲気。貿易港らしい焼きカレーやバナナが名物です。
とはいえ、甘味よりお酒。北九州は本当に角打ちが多く、町の景色の一つになっています。魚住酒店は駅前から少し坂を登った先、かつて花街だった場所にあります。1945年に現在の場所へ移転してきたそうです。
角打ちができる酒販店というと大箱をイメージしがちですが、とてもコンパクト。いぶし銀の佇まいに敷居の高さを感じるかもしれませんが、女将さんは優しく迎えてくれますからご安心を。なんと、るるぶ北九州版(JTBパブリッシング)にも掲載されています。
営業時間は朝9時から夜9時まで。お昼酒にふらっと立ち寄れるのがありがたいです。小売もされていますが、雰囲気は立ち飲み屋といった感じ。L字のカウンターには、日中はご隠居さんたちが、夜は会社帰りの人々が集い、各々お酒を楽しまれています。
壁を埋め尽くすほどにレトロなポスターが貼られています。懐かしいと思える一枚、きっと見つかりますよ!
瓶ビール、缶ビール、缶酎ハイなどは冷蔵庫から好きなものをセルフで取り出します。ずらっと並ぶ本格焼酎や日本酒は女将さんが注いでくれます。魚住のオリジナルラベル、八幡の溝上酒造がつくる純米酒「UOZUMI」がおすすめ。
ビールは各社取り揃っています。門司に九州初の大規模ビール工場「サッポロビール九州工場」(1912-2000)があったことから、ここはサッポロ黒ラベルをチョイス。それでは乾杯!
乾き物が売られていますが、それとは別に枝豆やお漬物などがでてきます。酒販店(飲食店ではない)なのでこれはサービスなのだそう。ときには、磯釣り帰りの常連さんが魚介類を持ち込むこともあると聞きます。
お昼過ぎ、穏やかな日差しが差し込む店内で、のんびりと瓶ビールを傾けるひととき。心地よい時間がながれます。
ミュージアムと違い、ここは脈々と続く生きた場所。長い年月、多くの先輩方がお酒を飲んできた空間には、年季とは違った熱量のようなものを感じます。
1945年に移転する以前の魚住酒店の様子(写真:魚住酒店)。なかなかの大店(おおだな)だったことが伺い知れます。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
魚住酒店
093-332-1122
福岡県北九州市門司区清滝4-2-35
9:00~21:00(不定休)
予算1,000円