街を写す鏡である大衆酒場。つくりこまれたコンセプトを放つ今風の店では感じることのできない、その街の色を求めて老舗の暖簾を今日もくぐります。
九州最大の歓楽街・中洲で創業から55年目を迎えた「酒一番」は、福岡の酒場を語る上で外すことのできない名店です。
JR博多駅から西鉄バスで数分で中洲に到着です。バスが数珠つなぎで走る福岡は、まるで水平移動エレベーターのような感覚でバスがやってきます。しかも運賃は100円。これは、ちょっと時間ができたら「酒一番」に行くしかありません。
那珂川と博多川がつくる中洲の景色。歓楽街に川が流れている街って、いいですよね。
バス停からわずかで、酒一番に到着です。1963年(昭和38年)に創業し、地元のお父さんたちに長く愛され続ける老舗です。三階だてで、広間で宴会の利用も受け付けています。
大きなL字カウンターが厨房を囲むように配され、その上には今日の惣菜が大皿に盛られ、訪れた人の食欲をくすぐってきます。
現在は二代目が暖簾を守り、顔なじみの常連さんと博多弁で軽快なトークをしつつ、手際よく仕事をされています。
壁際にはちょっとしたテーブル席もありますが、人気はやはりカウンターです。料理やお姉さんたちに向いて、会話や、他の人が頼んだ料理を目で追うのもまた酒場の楽しさです。
所狭しと貼られた品書きから飲み物を探します。生ビール、瓶ともにアサヒスーパードライ。福岡はアサヒのシェアが高いです。というのも、ここ中洲から3キロほど上流にいくとアサヒビール博多工場があり、できたての生ビールが人気。500mlも入る昔ながらのジョッキが嬉しい中生で乾杯!
生ビール500円、中びん500円、焼酎360円、チューハイ(樽ハイ倶楽部)は330円とリーズナブル。席料、お通しはありません。
刺身、焼き魚、揚げ物に肉料理となんでもござれの酒一番。「何を食べたいか決めていなくとも、”一番”に行けば満足する」と、話すおとなりの常連さん。
博多の名物料理、モツ鍋、めたい料理、おきゅうとなどもあって、毎回わくわくさせられます。種類は100ほどあり、手作りコロッケはお腹に余裕があれば、焼酎と相性抜群なのでぜひ食べてみてください。
刺身ではじめて、焼き魚、焼鳥という流れだけでなく、常連さんに人気はひとり鍋。種類も豊富で、すき焼きに水炊き、ふぐちりなど10種類以上がお一人様用で揃っています。お一人様からどうぞ、というお店は数あれど、一人鍋をこれほど丁寧に扱っているお店はそうはありません。
普通の酒場のカウンターにずらりと小鍋が並ぶ光景は、違和感ではな幸福感。私の目の前にも、好物のカレー鍋(630円)がやってきました。
ガス台ではなく、使い切りの固形燃料で旅館の夕食ででるような方式。ちょうどいい具合に煮立ってきたら、いただきます。
とろみがかったカレー南蛮風で、たっぷりの白菜やねぎ、ばら肉が敷き詰められています。酒場のカレーですから、スパイスのパンチとは真逆の「あぁ、ほっとするな」という、優しい味。この昔懐かしの味だから、お酒もより進むというもの。
美味しく一人でもぺろりと完食できる丁度いいサイズの鍋。ただ、お酒は一品一杯とはいきません。なにせ具だくさんで、味も酒飲み舌を癒やすよいあんばい。シメにうどんを入れることもできますが、そうすると梯子に響くかも?
300円台で飲めるお酒が豊富で、チューハイにハイボールがくいくいと空になっています。
数人であれこれ食べたくなる充実のメニュー。でも、やっぱり醍醐味であるカウンターを楽しみたい。毎回悩みます。
中洲ではこういう王道の大箱大衆酒場は貴重なので、18時をすぎれば満卓になる賑わいです。飲みに行く際は、タイミングを狙ってどうぞ。
お隣の常連さんとの会話から、二軒目のヒントをいただき、ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
酒一番
050-5571-9676
福岡県福岡市博多区中洲4-4-9
16:30~24:00(基本無休)
予算1,800円