久留米『新屋商店』まるで秘密基地!お手製ビールサーバーのある角打ち

久留米『新屋商店』まるで秘密基地!お手製ビールサーバーのある角打ち

2022年5月22日

焼鳥で有名な久留米ですが、角打ちも多い。「酒のしんや」こと新屋酒店は、昔ながらの家族で営む街の酒屋さんです。黄昏時が近づくと自販機脇の小さなドアの向こう側へと、お父さんたちが吸い込まれていく。そう、ここは知る人ぞ知る角打ちなのです。安い、楽しい、ディープな角打ちの世界を訪ねましょう。

スポンサーリンク

店にいる全員が角打ち好きという、純度100%の空間が楽しい

マニアックな趣味となれば、同じ趣味の人同士が揃う機会が少ない分、一度集まれば非常に楽しいものです。

「角打ち」も、まだまだ一般向けとはいえないマニアックな世界です。それでも、最近は駅ナカ商業施設や繁華街にも、誰もが入りやすいファッション要素を含む角打ちが続々と誕生し、角打ちの普及が進んでいます。それはそれで、大変喜ばしいことですし、キラキラとした角打ちで流行りのお酒を飲むも好きです。

ですが、やはり「角打ち」というと、昔からある酒屋の隅っこでコップ酒を口に運ぶ、レガシーな空間のイメージです。本当の飲兵衛しか近寄らないような、「秘密基地」。それが角打ちの魅力のひとつと言えます。店にいるお客さん全員が超飲兵衛さんという濃厚な空間に生まれる、お酒を中心としたコミュニティを一度経験したら、角打ちめぐりが止められなくなります。

外観

1950年代頃から続く新屋酒店は、地域の飲食店にお酒を届ける業務用配達をメインにした酒販店です。小売スペースはほとんどなく、夕暮れまでは倉庫スペースを含め薄暗い雰囲気。それが、16時になると自販機に挟まれた僅かな空間にあるアルミサッシが開き、「立ち飲み営業中」というレトロな行灯に明かりが灯ります。

内観

日本各地の角打ちで飲んできた筆者も、やや緊張するような「アウェイ感」に背筋が伸びますが、女将さんが「飲みますか?」と声をかけてくれたのでホッとしました。はい、もちろん飲みます。

常連さんが肩を並べるカウンターと、その先に僅かなテーブルスペースがあり、10人も入れば満員になるようなコンパクトな空間。蛍光灯にぼんやり照らされた空間は、筆者の好きなタイプの角打ちの雰囲気そのものです。

お客さんは地元の方ばかり。井戸端会議の中に混ぜてもらい、お酒談義に花が咲きます。

お酒は冷蔵庫にはいった瓶ビール、缶ビール、缶チューハイをセルフで取り出すか、女将さんにお願いして逆さにセットされた洋酒をショットで出してもらいます。このほか、生ビールと樽詰めのホワイトホースハイボールがあります。値段はどれも概ね小売価格相当で大変リーズナブルです。

おつまみは乾き物と缶詰。正しく、正統派の角打ちです。

ウォークイン冷蔵庫直付けタップの生ビール

店の奥には配達用の商品も冷やす大型のウォークイン冷蔵庫があるのですが、よく見るとお馴染みのビールサーバーのタップと受け皿がくっついています。

聞けば大将の手作りだそう。「ビールは樽冷式がイイ!」という考えで、冷蔵庫に直接サーバーを埋め込んでしまおうという考えで改造したそうです。さすがにサッポロビールの管理コードは貼られていませんが、しっかり北極星のラベル付きなのが面白いです。

特別に仕組みを見せてもらいました。ドアに直付けされたタップの内側は、回路が銀色の装置の中へと伸びています。これは縁日などでお馴染み、氷でコールドプレートを冷やす電源不要のサーバー、氷冷却式ビールサーバー「ニットク HP-1S」です。さらにそこから回路は伸びて、サッポロ黒ラベルの20L樽に接続されています。

キンキンに冷えた樽冷保管のサッポロ黒ラベル

生ビールも300円ほど。たっぷり入る寸胴のジョッキに、泡はとっても控えめ。なんとも不思議ですが、しっかり美味しい一杯です。

角打ちにしかない、時間の流れがある

ベビーチーズ(100円未満)

角打ちでバラ売りしているベビーチーズを買うとき、昔、お菓子屋さんでチョコレートを買っていた無邪気な気持ちが蘇ります。あのときのワクワクを、おとなになっても楽しめるのが角打ちです。

濃いめのレモンサワー(170円ほど)

ゆったりと流れる時間。皆さんのんびりと過ごしていますが、けして飲まずに会話しているわけではなく、手は常にグラスを握っているのはさすがです。こちらも、冷蔵庫から濃いめのレモンサワー350ml缶を取り出し、改めて乾杯。

グラスは缶チューハイでも貸し出してくれます。支払いはその都度ではなく、帰るときにまとめてという流れ。

角打ちをはじめて、まだ10年少々だそうですが、戦後すぐからやっている超老舗の酒場と言われても納得しそうな空間です。

不思議に思ったのは、焼酎文化圏にありながら、焼酎はグラス売りをしていないということ。「常連さんは焼酎のボトルをキープしちゃうからグラスで売らないの」だそう。

なるほど、1杯単位がなくなるほど飲まれているというわけですね。

ごちそうさま。楽しい時間をありがとうございました。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名新屋商店
住所福岡県久留米市本町3-14
営業時間16:00~19:00(不定休)
開業年1950年代