桜えびは、ほぼ100%が駿河湾で水揚げされています。さらに禁漁期間もあるため、とれたてを食べるなら年に二回、春と秋がチャンスです。春は3月から6月にかけて、秋は10月下旬から12月。
まだ間に合う桜えびを求めて、電車に乗ってぶらり、駿河湾の幸に出会う旅におでかけませんか。
東海道五十三次の12番目の宿場町であり、駿河湾の近海漁で繁栄した沼津の町。現在も、鮮魚の水揚げ量は県内一位です。
東京から東海道新幹線と東海道線を乗り継げば1時間10分ほどで訪れることが可能で、遠く思えて実はアクセスしやすい街です。東京から日帰りで遊びにいける、のんびりとした地方都市。
駅前から出ている市内循環の路線バス(東海バス)に乗車すれば、駅から中心街を抜けて港までプチ観光です。途中、日本百景に選ばれた千本松原を経由します。ここから田子の浦までひたすら駿河湾岸に沿って続く松並木に、歴史情緒を感じるのもまたよいものです。
そうしてやってきました、沼津港。「ぬまづこう」ではなく、正式には「ぬまづみなと」。潮の香りとかもめの鳴き声、そして朝から元気いっぱいの港湾関係者や食堂の人々の活気が聞こえてきます。
かなり大きな漁港で、業務用の施設のほかに観光施設も充実し、さらにそれを囲むように場外の卸や飲食店が連なります。
観光バスもやってくるため、しっかりとお土産物や大人数で使えるレストランも整備されていますが、のんびり一人旅なので、今日も朝から渋い食堂を目指します。
近海漁が盛んな沼津。鯵や鯖、金目鯛などが所狭しと並んでいます。
なかには、巨大なタコのひものも。なかなかのインパクト。
そうして、やってきました市場の食堂「にし与」。作業着姿のトラックドライバーや市場関係者で賑わう、働く人々の食堂です。暖簾をくぐるときに「おつかれさまです」と挨拶している常連さんも居て、職域食堂ならではの日常感に溢れています。
L字のカウンターとテーブル席が数卓。明るく元気なお姉さんたちがチャキチャキと給仕をこなし、厨房では、人柄から美味しさが滲み出ているご主人が、次々富んでくるオーダーに応えています。時間勝負の港の男たちのお腹を一秒でも早く満たそうという感じ、好きです。
看板にはとんかつと刺身とありますが、バリエーションはさらに充実。目的の生桜海老や生しらすも550円と、観光地値段ではないのも嬉しいところ。アジフライは、刺身に使えるさっき市場で仕入れた大きなものを使い、ボリューム満点、美味しさ満点です。
ビールジョッキに店の歴史を感じる、旧世代のサッポロ生ビールの絵柄。黒ラベルではなく、静岡は焼津にあるサッポロビール静岡工場で醸造した県内限定銘柄「静岡麦酒」の樽生がやってきました。
まだ朝ですが、漁を終えて帰ってきたお父さんたちの穏やかな雰囲気に包まれて、乾杯!
刺身定食は1,270円。はまちに鯵、金目鯛と地魚のオンパレード。ハンバーグ定食やカツ丼が人気なのは、実は魚河岸では当たり前の光景。海の人だって、肉が食べたいですもんからね。
アオリイカにヤリイカ、甘エビにぼたん海老、刺身の顔ぶれも充実しています。イカは一杯ででてくるので、ひとりで頼むとたいへん。カンパチやさよりなど、ここに載っていない日替わりも多数あります。
ビールと一緒に頼んでいた桜えび(550円)。ささっと盛られてやってきました!
朝水揚げされ、そのまま「にし与」へ運ばれたとれたての桜えびは、ヒゲの先までピンとして、小さくともぷりぷりとした食感があります。噛むほどに甘みが広がり、すっきりとした優しい潮の余韻と香りが続きます。そこにすかさず、生ビール。
東京の築地でも桜えびはありますが、やっぱり産地まで来るのは格別です。美味しさはもちろんですが、この地の風土や市場の人々の会話を聞くことが、より一層特別に感じさせてくれるものです。
ビールから日本酒へシフトし、次のおつまみは店名を冠したにし与丼(1,950円)。ごはんを少なめにしてもらい、まずは豪華な刺身からいただきます。
近海マグロや脂ののったブリ、炙った太刀魚、そして生しらすが敷き詰められた豪華絢爛の丼ぶり。奮発しすぎかもしれませんが、せっかくですから。
歯ごたえがある生しらすを頬張って、そこに日本酒をきゅっと飲む。あぁ、幸せな時間。
関係者や地元の魚好きが集まる市場の食堂「にし与」。ちゃっちゃっとした雰囲気のなかにも、朝で仕事を終えた人たちが醸し出すゆったりとした雰囲気も混じり合い、漁港ならではの雰囲気が楽しめます。
ぜひ様々な季節で訪れてみてはいかがでしょう。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
にし与
055-951-6041
静岡県沼津市千本港町109
6:00~15:00(土曜日は10:00から・土日祝は17:00~20:00も営業)
予算2,000円