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東海道五十三次の12番目の宿場町・沼津。駿河湾にそそぐ狩野川が街の中央を流れ、川と海が交わる場所には県下2位の漁獲量を誇る沼津港があります。
江戸の頃より栄えたこの街は、街の随所に東海道を行き交った人々の名残を感じることがてきます。現在も飲食街はかつて本陣が置かれていたエリアを中心に広がっており、川廓通り碑などを横目に梯子酒をするのは楽しいものです。
交通の主体が東海道本線から新幹線、東名高速に移った現在も、沼津の夜はわりと賑やかで、これは港町ならではの光景でしょう。
そんな沼津宿の歴史ある場所に、これまた歴史のある酒場があります。1932年(昭和7年)創業の「酒蔵かわむら」です。
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沼津へは、おとなり三島駅で東海道新幹線から乗り換えて東海道本線で1駅。1時間ほどで遊びに行ける東京日帰り圏の地方都市です。県庁所在都市ほどに街の規模は大きく、一泊して観光するのもおすすめ。日本百景のひとつ「千本松原」や沼津港、最近では人気アニメの”聖地”としても話題です。夜は酒場やオーセンティックバーを訪ねてみてはいかがでしょう。
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駅から沼津宿高田本陣跡方向へ伸びる「さんさん通り」。アーケード商店街や旧国道一号と交差する大手町界隈を歩くと「かわむら」の看板を見つけられます。
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なんと午前10時30分から夜まで通しで営業。土日も開いている”オアシス”です。早い時間から空いている理由を常連さんに聞くと、やはり漁業関係者の呑処としても賑わっていたそうです。
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テーブル、カウンターという配置。座敷もあるようです。時刻はまだ正午前、すでに先客の常連さんたちがキープボトルの焼酎を傾けてメートルをあげていました。
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壁にずらりと貼られた短冊だけでなく、冷蔵ショーケースから選ぶことも可能。小鉢は魚介類を中心に、一人前でちょうどいい量です。駿河湾のたこやシラス、ひものや焼鳥もスタンバイしています。
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ビールは樽生(480円)がアサヒスーパードライで、瓶(大ビン650円)ではアサヒとキリンの2種類を用意。ビアタンへトトトと注いで、さあ乾杯。
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こちには日本酒を推しています。地元駿河のお酒(誉富士のお酒)と八海山。1合360円から。品書きに酎ハイはありませんが、ソフトドリンク枠に「レモンサワー」(ホッピービバレッジ)があり、これを割材にアサヒの焼酎甲類SUN 燦(720ml・1,800円)をナカとして使えば酎ハイもつくれます。
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駅前食堂を兼ねているような品揃えで、軽食もあります。煮込みは2種類。短冊には鰻もあります。沼津は三島と並び、鰻をだすお店は多いです。
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揚げ物が並ぶ下に、中華枠の存在がまたにくいじゃないですか。酔った勢いで春巻きを頼んでしまいそう。
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お昼からちょっぴり贅沢なお昼酒となりました。冷奴のお通しと、ご主人が用意してくれたまぐろ刺し(800円)。
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沼津はマグロの取扱量が多く、マグロの街としても知られています。(※静岡県内漁獲量シェア17.1%・農林水産省発表H29年値)
トンボマグロ(ビンチョウマグロ)やキワダと呼ばれているキハダマグロなどがあり、地元では手頃な値段で楽しむことができます。
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ご主人の包丁のいれかたもよく、程よく弾力があり、さわやかな風味と心地よい余韻が楽しめます。
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沼津のマグロには、駿河由来のお酒、喜平の生貯蔵酒(360円)を。すっきりとして飽きのこない味です。
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製造は平喜酒造。岡山県浅口市の酒蔵です。平喜酒造は岡山で雄町米をつかったお酒を造る蔵として全国的に知られていますが、元は静岡の酒蔵です。1967年に岡山へ移りましたが、こうして歴史ある酒場は変わらず喜平を扱い続けています。
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おすすめの味噌田楽(300円税別)は、お店でずっと前から提供され続けているロングセラー。コク深い味噌は甘さもしっかり。濃厚な味と心地よい食感がお酒の肴にぴったりです。
もうすぐ沼津で90年。歴史あるお店が、昔から変わらない昼営業を続けています。地元の常連さんたちが楽しく過ごす憩いの場。みなさんも沼津に訪れた際は、ふらりと立ち寄られてみてはいかがでしょう。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
酒蔵かわむら
055-951-6100
静岡県沼津市大手町5-4-3
10:30~21:00(日祝は~20:00・月定休)
予算1,800円