浜松「稲作」 昭和12年創業、老舗のカウンターに陶酔する夜

浜松「稲作」 昭和12年創業、老舗のカウンターに陶酔する夜

浜松は田町の酒場「稲作」。創業は1937年(昭和12年)、今年で81年目を迎えた街きっての老舗です。渋い店構えに落ち着いた暖簾が夜風でたなびき、今日も地元のお酒好きを迎えています。

浜松の飲み屋街は北口から500メートルほど離れた鍛治町・田町・肴町といった歴史を感じる地名が並ぶあたり。日中開いているお店は少なく人通りもまばらです。それが夜になれば息を吹き返したように、右も左もネオンが輝き、居酒屋、ビアホールにスナックなどが人々を誘っています。

 

浜松駅は東海道新幹線のひかり号も停車し、東京や関西からもアクセスしやすい街。ふらりと梯子の旅に訪れました。

 

人口80万人を誇る浜松市。静岡市を抜いて県内で一番です。人が多ければ、飲み屋も賑やかになるというもの。さらに、南に遠州灘、北に天竜川、そして浜名湖と、様々な地形が集まっていることから海や山の幸を使った肴も期待できます。

 

そんな浜松の歓楽街の裏路地に、今日目指す「稲作」はあります。近隣にも味わい深い店が多く、この路地で梯子したらキリがなさそうです。

 

10月から3月にかけてはおでんを、通年では焼鳥をはじめとした居酒屋定番料理を提供するお店です。

 

お店は奥に広く、数卓のテーブル席と厨房に向いたカウンターが先まで伸びています。テーブルで数人で飲むほかは、カウンターで一人、二人でしっぽり飲むのが似合う雰囲気です。

ビールは樽生、瓶ともにキリンラガー。お酒は若鶴オンリー、伊佐錦などの本格焼酎とハイボールという渋い顔ぶれ。酎ハイは用意されていません。

 

洗浄され手入れが行き届いたディスペンサーから注がれた状態抜群の生ビール。いつの季節も、一軒目の一杯目の生は格別です。では乾杯!

 

お通しの煮物がまず美味しい。最初のひとしなが美味しいとこの後を期待して、つい一皿多めに頼んでしまうというもの。

 

食材は地元のものを中心に、長年続けてきたお店ならではの仕入れが光っています。イカの姿造りに惹かれますが、今日は別の目的があります。

 

それがこちら。御前崎直送のカツオ刺し。上物のカツオが水揚げされると評判の御前崎。そこで良いものが取れるときだけ、市場を経由せずに直行で届けられる稲作のカツオは、浜松に来たらぜひ試して欲しい逸品です。腹の部位は銀かわを付けたまま食べるのが美味しさポイントです。

 

プリプリとした食感、ねっとりとして甘い脂、余韻の爽やかな酸味が絶妙です。

 

あわせるお酒は、若鶴(480円)。昭和20年代、若鶴酒造に初代がお世話になったことから、以来70年以上、若鶴ひとすじの取り扱いだといいます。富山県の高岡駅にも近い砺波市の銘酒です。

 

そして浜松といえば、やはり鰻の串を肴にして飲まなくては。焼鳥などといっしょに鰻串も用意しているあたり、さすがです。大きなキモ串が2本(670円)登場です。

湯豆腐やタコの塩辛など、じっくりお酒と向き合いたくなるおつまみが豊富で、ここからが長くなりました。

 

ベテランのご夫婦と息子さんが守る老舗の暖簾。家族経営の街の老舗を好んで集まってくる人たちもまた、この店の雰囲気を優しいものにしています。飲み慣れた常連さんたちが静かに、そして楽しそうに飲んでいる中に混ぜてもらい、浜松の息遣いを感じたように思える夜でした。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

稲作
053-455-1739
静岡県浜松市中区田町329-9
17:00~23:00(月定休)
予算2,600円