東海道五十三次の26番目の宿場「掛川」。歌川広重「掛川 秋葉山遠望」でもお馴染み、掛川城を中心とした歴史のある街です。東海道新幹線の開業後も、掛川は東西をつなぐ大動脈の要衝のひとつですが、停車する新幹線は「こだま号」のみで、なかなか途中下車をする機会は多くありません。
ですが、実は東西の酒場を目指して”のぞみ通過”をしているだけではもったいないのです。これからご紹介する酒場を知れば、訪れてみたくなるに違いありません。
1953年(昭和27年)創業の「酒楽」。中心街の肴町で長年暖簾を掲げる名酒場です。14時口開けと早く、しかも日曜日営業ということもあり、「はしご旅」にもうってつけな一軒です。
木目調で落ち着いた雰囲気の掛川駅。新幹線も地上に建設されているため、新幹線駅によくみられる重厚な高架がなく空が広いです。西に浜松、東に静岡、さらに天竜浜名湖鉄道が分岐しています。
静岡、浜松への通勤圏ということもあり、近年ベッドタウン化が進んでいます。駅前には立派なスーパーや、老舗のうなぎ料理をはじめとした和食店が充実しています。掛川城までも徒歩圏のため、軽い散策で町の歴史にふれられます。
史跡、名勝もよいですが、旅の魅力はその土地の人と出会える大衆酒場が一番です。シャッターが開くのを待って、いざお店へ。
米松の丸太テーブルが印象的な店内。杉玉や通い徳利、レトロな証明もいい味をだしています。燗酒はフラスコでつけるのも特長です。
カウンターはなく、常連のお客さんは一人客でも同じテーブルを囲み談笑をはじめます。はじめての人もいっしょになって、土地の人との話に混ざり酒の縁を楽しむのが酒楽流。
飴色の空間にはキリンラガーがよく似合います。生ビール(500ジョッキ・600円)はこだわりのキリンラガー。では乾杯!
状態抜群、清潔に保たれたサーバーから注ぐ美味しい一杯。日中のビールは胃を優しくくすぐります。
三代目のご主人は元市場関係者。魚、とくにまぐろへのこだわりは強く、刺身は期待して頼んで間違いありません。仕入れによって変わりますが、この日はかつお、あじ、つぶ、まぐろなど。500円前後と手頃な値段も嬉しいです。
明るく愛嬌もあるご主人。ちょっとまってね!と言って厨房に入り、ちゃちゃっと切り分けてきた鯵(480円)はなかなかの盛りのよさ。
まるまる肥った鯵のようで、脂がのっています。もちっとした食感と爽やかな風味で、生姜を添えなくともクサミはゼロ。箸がとまらない美味しさです。
昔から鰻が食べられてきた掛川。浜松と並び老舗が多いですが、酒楽でも肴のひとつとして用意されています。うなぎ蒲焼き(550円)、ちりっとした皮目の食感や中からあふれる旨味に、思わずお酒が欲しくなります。
常連のご隠居さんとの酒談義から、掛川ならばこれが美味しいと教えられた「粋君」。醸造元は蔵を閉めてしまいましたが、その味はいまも酒楽でいきています。
日本酒「粋君酒楽」(1合400円)。ラベルには東洲斎写楽作の浮世絵が。洒落ていますね。米のあまみを感じるマイルドな味、辛口ブーム以前の”うまい酒”という印象で、これがちびりちびりと飲むほどに美味しくなっていきます。
農業が盛んな地域。地元産のこぶりながら濃厚な甘さがあるトマト(350円)。箸休めに頼んだのですが、これがまたあと引く美味しさです。夏は冷やしトマトとお酒という組み合わせも好きなのですが、あまりご賛同いただいたことがありません(笑)
三代目はまぐろに自身あり!ぜひ食べてみてと用意してくださったまぐろ刺し(550円)が、とびきり上等なものでびっくり。ピッとエッジをつけた刺身。筋がほとんど入らない紅色の赤身と、グラデーションが美しいトロの合わせ盛りです。
ほっぺが落ちそうなほど美味。このまぐろのために掛川で途中下車する価値は十分にあるように思います。
キリン黒ビール(キリン一番搾り<黒生>)の樽生が置いてあるのも素敵です。ハーフ・アンド・ハーフもできますが、早い時間はコーヒーブレイクのごとく、黒ビールを片手に掛川の街をのんびり眺めるのもよいですよ。
掛川の名酒場「酒楽」。若きご主人の気合がはいった肴と店の歴史の融合により、いま、とっても脂がのっています。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
酒楽
0537-22-4039
静岡県掛川市肴町1-8
14:00~21:00(月定休)
予算2,000円