魚の鮮度でいえば、やはり漁港が一番です。ただし、魚の安定した質の良さという点では東京中央卸売市場がピカイチでしょう。かつては日本橋、そして現在は築地にある世界最大の魚河岸です。600以上の仲卸が営業中で、規模が大きいだけに魚種ごとに専科卸があります。貝類専門や海老専門など様々。
また、仲卸では市場周辺で一般向けの飲食店を開いているお店もあります。
穴子の卸では、日本橋魚河岸時代から一世紀をこえて続く老舗「芳野分店」が、築地場外で穴子専門の暖簾を掲げています。現在は4代目が守ります。
「芳野分店」の直営店「つきじ芳野吉弥」。全国的にも珍しい穴子専門店です。日本全国から中央卸売市場に集められた穴子から、その道のプロが目利きしたものを食べさせてくれます。営業は市場近接らしく朝9時30分からです。
一階はカウンター、二階にテーブル席という配置。さほど大きくはないお店ですが、市場の食堂はこれくらい詰めてわいわいしているほうが活気があって好きです。
朝から飲む人の姿がみられるのも築地の光景。生ビールはサッポロヱビス、瓶では黒ラベルとアサヒが選べます。築地交差点から近い場所に、サッポロヱビスビールの前身である日本麦酒創業の地があり、界隈の老舗にサッポロの姿をよく見かけます。日本酒は麒麟山や越乃景虎など、くびったけは穴子のひれ酒です。
穴子の箸置きが素敵でしょ。店内に漂う穴子焼きの甘くコクを感じる香りに思わず、ゴクリ。
それでは、乾杯!
さて、料理をみてみましょう。看板料理は、うな重に化けた穴子から「あなごばかし」という名がつく穴子重。煮穴子ではなく、炙っているのが「化かし」の特長です。さらに、蒲焼で仕上げた穴子と盛り合わせた「ばかしあい」も人気。焼き方別の穴子を使い分けているのは言うまでもなくこだわりです。
酒の肴もあります。「昼から白焼き」の文字に誘われる大ぶり穴子の白焼きや、くりから焼き的な穴子巻串、そして滅多にお目にかかれない「穴子の昆布締め」は、ぜひ食べておきたい逸品です。
江戸前を使うこともある活穴子の昆布締め。穴子の刺身は珍しい。ごくまれに地方の居酒屋でみかける穴子の刺身は、血抜きとぬめり取りをきっちりすれば食べられるそう。「つきじ芳野吉弥」では、専門店だけにそんな穴子の昆布締めがこんな都心で味わうことができます。
ひらめの縁側のような食感に、脂ののりはバランスが良く、もちもちした食感で噛むごとに旨味が広がります。コクを昆布締めにして増しているので、一切れでもお酒をしっかり誘う旨さ。
ごはんを少なめでもらえば、穴子重も立派な肴です。炙り煮と蒲焼の合わせ盛り「ばかしあい」。2,400円と割高に感じるかもしれませんが、満足感は鰻に負けません。むしろ、穴子でちびりと飲んだ経験がある人には、深く頷くはずです。
タレは甘さを控えめにし、穴子の繊細な旨味を引き出しています。ちりちりとした細かく分かれる身質を活かしたふっくらとした仕上がりに、銀盤の冷酒をきゅっと。
お昼の築地をちょっと特別にしてくれる穴子専門店でのお昼酒。しっかり飲むぞというよりは、銀座への買い物のついでいかが。ちょいと穴子で一献、粋だねぇ、なんてね。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
つきじ芳野吉弥
03-6278-7079
東京都中央区築地6-21-5
9:30〜15:30(水定休・木不定休・金土17:00~20:30)
予算2,000円