黒崎「本店鉄なべ」 鉄の街・八幡から始まった鉄なべ餃子。元祖の暖簾をくぐる

黒崎「本店鉄なべ」 鉄の街・八幡から始まった鉄なべ餃子。元祖の暖簾をくぐる

北九州を中心にみかける熱々の鉄鍋で供される餃子。「鉄なべ餃子」と呼ばれて博多の飲食店街ではおなじみの郷土料理です。実は発祥は福岡市内ではなく、八幡から広まりました。

創業の店は店名もずばりで「本店鉄なべ」。1958年(昭和33年)創業の老舗です。創業当初は同じ八幡市(現在は北九州市)折尾で暖簾を掲げ、その後現在のJR黒崎駅前へ移転しました。

 

八幡といえば、教科書で習う「官営八幡製鐵所」で近代化の先端を歩んだ鉄の街。現在も新日鉄住金(2019年には日本製鉄)や三菱マテリアルなどの重工業地帯が立ち並ぶ鉄の街に変わりはありません。

鉄の街で、鉄なべ餃子が誕生した。因果関係はなく、まったくの偶然だそうですが、街の黒光りするイメージにぴったりです。

 

黒崎駅前には立派なアーケードと飲み屋街が広がっています。時間帯によっては、いまでも労働者が仕事終わりの一杯を求めて多数繰り出すエリアです。

 

そんな黒崎駅前に店をかまえる「本店鉄なべ」。町中華のありふれた店構えですが、やはり出入りするお客さんの数は圧倒的に多く、お昼の開店から閉店寸前まで賑わい続けています。

 

焼く人、包む人、後片付けをする人。きっちり分担されて、割烹着に三角巾姿のベテランお姉さま方がきびきびと仕事をされています。焼きはもちろん大将の仕事です。ひっきりなしにお客さんがやってくるので、餃子を包む作業は営業中ずっと行われています。元祖だからと威張った感じは皆無で、町内会の宴会の台所を眺めている気分。

 

それにしても、フォトジェニック過ぎる照明。きっちり点対称です。

 

焼きぎょうざは10個単位。八幡ぎょうざの名で「スープぎょうざ」もご当地郷土料理です。九州にくると中華屋や食堂では必ずといっていいほどちゃんぽんの文字があります。ビールは中瓶が540円。銘柄はなんとアサヒ、キリン、サッポロと3社を用意。

 

トトトと注いで、では乾杯!元祖といえど、町中華。瓶ビールがめちゃくちゃ似合います。カウンターの黒い部分はカチンカチンに熱した鉄なべを鍋敷きなしでおける処理が施されています。

 

厨房を挟むようににV字型をしたカウンター。一番奥が焼き場となっていて、どの席からも様子が手に取るように見えます。ちょっとしたテーブル席もあり、酔っ払ったお兄さんたちがシメのちゃんぽんと焼きぎょうざを頬張っています。

 

はい、きました。焼きぎょうざ。一枚ずつ手延をしてくるんでいるのに10個で540円は良心的。

中国大陸に近い北九州は戦後の引揚者が多く、戦後たくさんの餃子屋が開かれたそう。ご主人に伺うと「本店鉄なべの初代は東京の焼きスパゲティにヒントを得て、熱い餃子を熱いうちに食べられる工夫としてこのカタチを思いついた」と教えてくれました。

 

カップ酒のキャップほどの小さな皮を薄く伸ばし、餡を挟んだ後は中央に一箇所だけヒダをつけた独特な形状。一口で食べるとちょうど口いっはいになるサイズで、ややワンタンのような形状で、モチモチの餡とパリっとした皮の偏りが食感に個性をつくっています。

水気を搾りきった細かいキャベツの舌触りと牛ひき肉の旨味が、舌を幸せにし頬が思わず緩みます。

 

もう一本ビールを頼んで、次の餃子を待ちます。二軒目なので軽く一枚食べるだけのつもりだったのに、これはいけない(笑)

比較的遅めの時間まで営業しているので、メインの飲み会が終わった後に餃子でシメに来る八幡っ子の姿も多い、飲める店・本店鉄なべでした。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

本店 鉄なべ
093-641-7288
福岡県北九州市八幡西区黒崎1丁目9-13 宮本ビル1F
11:00~21:30(木定休)
予算1,200円