ドラマの居酒屋シーンでも使われることが多い「酔の助」。仕事を終えた主人公たちが、赤ちょうちんに誘われて飲みに行く店です。それは物語の中だけの話ではなく、実際もそうです。夕暮れとともに、たくさんのスーツ姿の主人公たちが集まり、酒を酌み交わしています。
労働を終えた人たちが自然体で笑っている店、これぞ酒場のあるべき姿。典型的な大衆酒場であり、その雰囲気に惹かれます。
50代くらいの渋いお父さんたちが、いつものツマミで楽しそうにしている店にハズレなしです。
創業は1979年(昭和54年)。界隈で仕事をしてきた人にはおなじみの暖簾です。暗いときに来ると気づきませんが、かなり古寂びたビルにあります。となりはレトロゲームが並ぶゲームセンターでしたが、そちらは5年前に閉業しています。
地下鉄神保町駅から近く、付近には出版社など多くのオフィスが立ち並びます。この界隈はオフィスビルの間に飲み屋が練り込まれているようにあって、密集はしていなくとも梯子酒は楽しいです。
古いものも毎日活躍していると、いぶし銀というか、付喪神とでもいいますか、不思議な魅力を醸し出します。「よいのすけ」と呼ぶ方もいらっしゃいますが、正しくは「よのすけ」。
100席ほどある大箱なのに18時には満席ということもあるほどの人気店なので、この店構えでも中は活気いっぱい。ほどほどに手入れもされていますから、意外と言ってはいけませんが、きれいなお店です。
17時を過ぎれば混むからと開店直後に伺いましたが、それでも暖簾が出て10分でこの”入り”。17時を迎える頃にはテーブル席は満卓となりました。
酒税改正等、時代の変化の中でもいまだに生ビール中ジョッキを380円で提供している酔の助。感謝、感謝と頼むとして、実は輸入ビールが地味だけどしっかり揃っていることも注目です。
モレッティやドゥシャス・デ・ブルゴーニュの文字が赤ちょうちんの店にあるって、ミスマッチ感がむしろ好き。ジーマとベーコンステーキで、ワイルドにいっちゃう?(笑)
酎ハイ、サワーは350円。レモンサワー、焼酎ハイボール、よくみると下町ハイボールもあります。ここは神田、江戸の頃からの下町ですもんね。
アルコール類は基本的にアサヒ系で揃い、ウイスキーはなんとスーパーニッカのボトル(3,940円)の文字。
今日も暑かった!こんな日は喉越し、キレのよさ、カラクチビールなスーパードライで乾杯!
プハーと。手に持った写真は下品だから…と言われても、この感動を伝えたくて。
お通しはちょっとしたもの。200円台です。今日はメンマ。
古いお店は、どの料理にもファンがいるので一概におすすめって難しいものです。でも、焼鳥は定番中の定番。タレはみたらし風でしっかり味なのですが、ブラックニッカハイボールとベストマッチ。
品書きはざっと100種類近いです。「酔の助」といえば、私が二十歳そこそこの頃から「ガンダーラ古代岩塩のピザ」のイメージ。揚げ物、中華、創作まで何でも揃っていて、価格も手頃。学生にも安心の価格ですが、最近あまりみかけません。
厨房寄りの数席のカウンターがお一人様スペース。ちょうど真上に黒板がぶら下がっています。季節によってだいぶ入れ替わり、本当の意味でのおすすめが加わるので、一品くらいはここから選んでみては。
いわし刺身(500円)。白金に輝く表面に身の色合いが美しく、ピンとエッジがたっています。ぷりぷりの歯ごたえと爽やかな風味が心地いい。酔の助の刺身は裏切りません。大葉を挟み渦巻状にした盛り付けがにくいでしょ。
下町ハイボールと、えびカツタルタルソース添え(450円)。神保町の街って、日本式洋食が似合うお店が豊富だと日頃から感じています。こちらもその一軒。
丁寧に揚げられサクサクした食感。さり気なくサラダが盛られているところが好き。え、そんなところをわざわざ書く?なんて思われるかもしれませんが、好きなものは好きなんです。
日本酒に充実ぶりも見逃せません。伏見、灘、新潟、北東北と幅広い品ぞろえ。420円の浦霞や男山(北海道)から1020円のじょっぱりと、価格もまんべんなくあります。春鹿、真澄、田酒に〆張鶴…どれにしましょう。
黒部の銘酒・銀盤(420円)。バランスの取れた米の甘みとすっきりした余韻です。
さて、神保町という都心の真ん中で大箱の店ですが、実はちゃんと家族経営。ご主人と女将、昔からのお手伝いの人たちでまわしているので、お客さんもお店の人との距離が近いんです。都心にこんなお店がある、素敵なことです。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
以前にも掲載しています
神保町「酔の助」 仕事帰りのみんなの一杯、寄ってこう(2014.02.19)
酔の助 神保町本店
03-3295-9530
東京都千代田区神田神保町1-16-4
16:00~23:30(無休)
予算2,000円