羽後長野「チャンス長野屋」 仙北平野、マタギの居酒屋で珍味三昧。えっ熊!?

羽後長野「チャンス長野屋」 仙北平野、マタギの居酒屋で珍味三昧。えっ熊!?

2018年7月8日

四季を通じて開催される花火大会で知られる秋田県大仙市、大曲。東京から秋田を結ぶJR秋田新幹線の途中駅で、同駅で進行方向が変わるためすべての列車が停車することもあり、旅行者にはおなじみの街ではないでしょうか。

「秀よし」の鈴木酒造が蔵を構えるのも、ここ大仙市です。

今日は、大曲からJR田沢湖線で4駅、羽後長野駅の脇に店を構える「チャンス長野屋」という居酒屋をご紹介します。チャンスとはいったい…

【誤記訂正のお知らせ】

記載に誤りがありました。 深くお詫び申し上げますとともに、訂正させていただきました。

秋田新幹線と同じ線路を走る田沢湖線。新幹線が高速で行き交う中、こちらは仙北平野の田園地帯をのんびりローカル列車の旅です。

羽後長野駅に到着です。一面田んぼで、「あきたこまち」が栽培されています。それにしても空が広い!同駅から徒歩10分ほどの距離に鈴木酒造があり、酒蔵見学も受け付けています。

目指す居酒屋「チャンス長野屋」は、駅から徒歩1分の場所。駅前酒場っていう響き、大好きです。お昼から営業されているのが頼もしい。昼食時は近隣の働く人々が集まります。

大きい厨房、そちらに向いたカウンター。メインは小上がりで、広々配されたゆとりのある造りです。冬はきっと雪まみれの長靴を抜いて、小上がりの畳でぬくぬくするのでしょうね。地元の人達の飲み会の定番処といった雰囲気。

広々した景色を眺めた後は、くーっと勢いよく美味しい生が飲みたい。生ビールはサッポロ黒ラベル(500ジョッキ・570円)です。では乾杯!

地酒は330円、酎ハイは400円。酒の産地では、酎ハイより日本酒のほうがリーズナブルなことが多く、こちらもそう。品書きの左側は定食で、昼食時のお父さんたちの「飲みたい欲求」を刺激していそうです。

お通しはわらび。山に行けば山菜が手に入る、こんなものしかないけれど…的におっしゃっていましたが、鮮度抜群のとれたてわらびは嬉しいに決まっています。

料理は多種多様。この界隈では当たり前のものなんですよ、とご主人はおっしゃっていても、この品書きは気になるものばかり。ここは秋田内陸部。やっぱり頼むなら、熊とかイワナ、川かにみそと行きたいところです。

川かにみそは仙北の郷土料理で、モクズガニの甲羅味噌焼きです。モズクガニは内陸でも川に生息するカニで、この界隈では昔から酒の肴で親しまれてきました。

定番メニューもおもしろい。要予約で天然カモやうさぎ鍋まであります。

選んだ肴は、「熊汁」。チャンス長野屋の三代目となるご主人は、実は地元猟友会に所属する現役の猟師。マタギで知られる秋田で、本物のマタギの店なのです。だからこそ、ここは熊汁を。昔から熊や鹿、うさぎなどを食べてきた歴史があり、現在進行形でこうして酒の肴で楽しまれています。

調理法を知るからこその味。獣クサさはないものの独特なコクがあり、噛むほどじんわり旨味が広がる熊肉。今回は正肉でしたが、熊モツにもいずれ挑戦してみたい、そう思わせてくれるあと引くクセがあります。

羽後長野の地酒「秀よし」をはじめ日本酒が充実しているのは、さすが米どころ・酒どころ。地酒330円とありますが、どんなものがありますか?と女将さんにお聞きしたら、次々と並べられて圧巻。

まだお昼なので…、と遠慮はするはずもなく、秀よししぼりたて純米酒をひとつ。秀よし香るお酒もサービスしていただきました。日本名門酒会系で東京でも飲める銘柄でも、こうして仙北平野の実りと町の歴史を肌で感じつつ飲むは格別に美味しく思うものです。

カエル塩焼き(450円)は珍味として特殊な食材を揃えた飲食店に並ぶことが多いですが、この界隈では日常的な食材だそう。蓮が添えられて盛り付けにもこだわりがあります。引き締まった鶏肉のようで、酒粕焼きねぎ味噌と一緒に食べれば、お酒が進むよきおつまみです。

チャンス長野屋の「チャンス」ですが、初代松下正吉さんが関東大震災でここ羽後長野へ疎開してきたとき、周囲から「ちゃん」と呼ばれ、その後大人になって敬称として氏をつけて「ちゃんしー」となり、そうして「チャンス」となったとのこと。店の歴史もそれだけ長い。

てっきり、マタギだから「CHANCE」を大事に、かと思っていました(笑)

これだけ人、物、情報が行き交う時代になっても、まだまだ所変われば品変わる、地方の居酒屋はおもしろいです。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

ちゃんす長野屋
0187-56-3020
秋田県大仙市長野柳田178-5
11:00~13:00・17:00~22:00(月か日で不定休)
予算2,700円