冬の東北。雪深く飲み歩きも苦労がありますが、その先には、都心では味わえない至福の肴とお酒が待っています。
ここはJR秋田駅から徒歩5分ほどの「春駒食堂」。駅に近く、お昼から夜まで通しで営業していることから、使い勝手の良い街の食堂です。といっても、この日は軽く吹雪くような天気。いつもの倍ほど時間をかけてやってきました。肩に積もった雪をはらって、さぁ中へ。目的は秋田の大衆食堂で定番の「肉鍋」です。
半世紀ほどの歴史をもつ春駒。家族経営のあたたかい雰囲気の中で、まずはシュポっと瓶ビール(550円)。いつだってナショナルビールは最高です。トトトと注いで、では乾杯!
この界隈はインフラ企業や行政、大手の支店が並ぶビジネス街です。スーツ姿のお父さんたちで賑わいます。皆さん、足元はスラックスを長靴にいれた雪国仕様の格好で、凛々しい感じ。人気はタンメンのようです。メニューはラーメンをはじめ中華料理が多く、「肉鍋」はどちらかといえば、イレギュラーな存在です。
さぁ肉鍋(定食は750円・単品も可能)ができました。注文をしてから、鍋を火にかけて白菜、もやし、豆腐、ねぎ、豚バラをお汁で軽く煮立て、最後になるとを載せて完成です。
秋田の大衆食堂ならば、ほとんどのお店で提供されているご当地郷土料理の肉鍋。一部のエリアなら必ずある食堂メニューといえば、東京・城北エリアの食堂にある「いり豚」が有名ですが、こういう土地の定番料理で飲むというのは楽しいものです。
1人用の小さなアルミ鍋を使うのはどこの食堂でも同じだと、夜に飲みに行った酒場の常連さんが教えてくれました。このあたりでは、1人で食べる小鍋のことを「かやき」と呼ぶのだそう。ホタテの貝焼き(ホタテの卵とじ)の「かいやき」から来ているのかも、とのこと。※諸説あります。
カチカチに熱した鍋は、豚バラの脂が油膜をつくり、冬でもずっと熱いです。これをハフハフとしながら頬張れば、素朴ながら文句なしに美味しいです。濃いめの醤油味で、お酒がぐんぐんと進みます。※お酒は適性の範囲内で。
きりたんぽ鍋のきりたんぽなしとでも言いましょうか。ボリュームはありますが、お燗酒(280円)片手にぺろりと完食です。
体の中からぽかぽかになって、お店をあとに。来るときはあんなに寒かった秋田の街が、暖かく感じました。
昭和30年頃から秋田駅周辺で愛されてきた肉鍋。その味をいまに伝える素敵な食堂でした。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
春駒食堂
018-835-1511
秋田県秋田市中通4丁目1−34
11:00~20:00(水定休)
予算1,000円