子安は今も昔も漁師町です。穴子漁で賑わったこの地は、江戸時代には海産物を幕府に献上する”御菜八ヶ浦”のひとつでした。旧海岸線沿いには古き良き漁師町の風情が今も残っています。
漁師の朝は早く、丘に上がれば明るいうちからお酒が飲みたくなるもの。仕事を終えた人々が、ちょいと一杯引っ掛けるための一杯飲み屋も当然存在していました。酒場は街を写す鏡、その街の産業と対をなす存在です。
午前10時から開いている「美加登屋酒店」も、そんな一軒。朝から一献傾けることができる角打ちです。
京急子安駅からJR東海道本線を地下道でくぐり抜けた先、線路を挟んだ山側が子安の商業地です。
メインストリートの大口通商店街。大口の名の通り、子安からJR横浜線大口駅まで続いています。今回目指す「美加登屋酒店」もこの通り沿いにあります。
いらっしゃい。どうぞ。そう迎えてくれたのは長年この街を見続けてきた名物女将。昔は結構やんちゃな人も多くて、角打ちの店番にはご苦労もあったそうです。そんなこともあってピシっとされていますが、女性客にも優しく初めての人も安心です。
横浜で創業したキリンビール。山手にあった初代の醸造所は関東大震災のあと生麦に移転し、現在のキリンビール横浜工場となります。ある意味、キリンラガーは横浜の地ビールと言えるでしょう。
それでは、乾杯!
私が幼い頃はまだ街の多くの酒販店がこんな雰囲気だったのですが、最近はめっきり減ってしまいました。大手蔵の日本酒がドンと鎮座し、お酒のお供が売られています。
酒屋の片隅で飲む「角打ち」は、こんなお店の雰囲気を肴にして、乾きものやゆで卵、プロチ(プロセスチーズ)をちびりとつまんで飲むのが楽しみの一つです。
生ビールは夏の季語です。「美加登屋酒店」の生ビールは冬季はお休みで、ディスペンサーこそあるものの回路はサッポロビールが回収しています。昔は結構そういうお店がありましたよね。
瓶ビールはもちろん、缶ビール、缶チューハイ、ビールテイスト各種も飲むことが可能です。好きなものを選んでカシュッと。
温かいものも用意されています。珍しい魚肉ハムで、軽くソテーされています。レンジ加熱をして辛子を添えて出来上がり。寒い季節のお楽しみ、おでんの用意もあります。
缶チューハイを片手にのんびり、ぼーっといい気分。ほんのり酔って、心が軽くなるような感覚がなんともいえない癒やしなのです。
ささっと引っ掛けていく方、女将さんや常連さん同士とご近所話をされる方、瓶ビールを囲んで井戸端会議をされている方々など、ここには子安で暮らす人々の日常があります。そんな場所に、ちょっとお邪魔させてもらってお酒を楽しむ。そうすることで、より深く街の姿を知ることができ、とても楽しい気持ちになります。
「鮭鮫鱈鯉」(さけ・さめ・たら・こい)の文字と、女将さんにまた来てねと見送られ、明るい子安の街へ戻ります。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
美加登屋酒店
045-421-4738
神奈川県横浜市神奈川区七島町117
10:00~20:00(基本2がつく日休み)
予算1,000円