製鉄のまちの西門前。時代が移り変わっても、ここには変わらぬ酒の風景がある。
北九州市戸畑区にある「藤高酒店」は、大正期に建てられた建物を今も使い続ける老舗の角打ち酒場。働く人たちが一日の区切りに立ち寄るその空間には、手づくりのおでんと、ゆるやかな時間が今日も流れています。
製鉄の町に根ざした、100年の角打ち文化

北九州市戸畑区、八幡製鉄所の戸畑西門前。製鉄の町として栄えたこのエリアには、いまも昔ながらの角打ち文化が息づいています。その代表格が「藤高酒店」。大正時代に建てられた木造の建物で、戦災にも耐え、いまでも現役です。

通りに面した引き戸を開けると、目の前に大きなコの字型の立ち飲みカウンター。
その奥に簡易な厨房があり、左手には4人掛けのテーブル席が2卓。立ち飲みといっても、無機質な立ち台ではなく、丁寧に使い込まれた一枚板のカウンターなのが素晴らしいです。
製鉄マンたちを相手にしてきたとは思えないほど、やわらかく、朗らかな女将さん(佐賀出身)が迎えてくれます。
なんて居心地が良い角打ちでしょう。

三交代勤務の製鉄マンたちが、この店を100年支えてきました。

朝に夜勤を終えて一杯、夕方に仕事終わりの一杯、昼間も変則勤務の人が飲みに来る。家庭で晩ごはんが待っているからこそ、つまみは少なめでもよく、短時間で軽く飲む場所が必要とされていました。藤高酒店は、まさにそうした需要に応え続けてきた一軒です。

現在の営業時間は15時から20時。開店と同時に、女将さんが手作りする惣菜がカウンターに並びます。
定番はおでん。牛すじをベースにした甘めの出汁で、厚揚げはスプーンですくえるほどにやわらかく、大根は芯までしっかり味が染みています。北部九州ならではの甘口醤油文化らしい味付けで、味の決め手となる牛すじの存在感もしっかりしています。
甘口出汁のおでんとビール、焼酎で千円以内

おでんは1品90円と手ごろで、ほかにもその日仕込みの惣菜が5〜6種類並びます。どれも女将さんの手作り。手間ひまのかかった料理の裏には、家庭の延長線としての店の姿があります。

16時を過ぎると女将さんはご主人と店番を交代。厨房から揚げ物の音が響きはじめ、フライや串カツなど揚げたての料理をもって、再び女将さんがでてきます。揚げたてのフライが食べられる角打ちは珍しい。
刺身はハマチとマグロが用意されており、門司の「ヤマニ醤油」でいただきます。北九州ではなじみのある濃厚で甘みのある刺身醤油で、酒との相性も上々です。

酒類は、ビールがアサヒ、キリン、サッポロの三社揃い。価格は小売価格とほぼ変わらず、缶ビール1本でも気兼ねなく楽しめます。焼酎は200mlで300円と、角打ちらしい価格設定。量もしっかりあり、飲みごたえがあります。

客層は、常連さんが中心。女将さんがこの店に嫁いできた頃から通い続けているという筋金入りのお客さんも。とはいえ、初めての人にもやさしい空気が流れています。女将さんが自然に目を配ってくれるため、一人飲みの若い人でも安心です。

照明は明るすぎず、BGMはなく、聞こえるのは女将さんとお客さんの楽しい会話だけ。時間帯によっては店内に静かな緊張感が漂いますが、それがまた心地よく、角打ちらしい空気感を味わえます。

製鉄の町としての風景は変わりつつありますが、藤高酒店には変わらないものが残っています。けっして派手ではありませんが、地元の人にとって必要とされている場所。
町の歴史を刻み続けています。
店名 | 藤高酒店 |
住所 | 福岡県北九州市戸畑区元宮町4-15 |
営業時間 | 営業時間:15:00〜20:00 定休日:日曜・祝日(祝日は要確認) |
創業 | 大正時代 |