福岡県南部、筑後平野の中心都市である久留米市。昔から久留米は、三シャの街と呼ばれています。この三シャとは、医者、芸者、人力車のことで、街の賑わいを表しています。
交通の要衝でもある久留米は、足袋から発展しゴム産業、自動車、タイヤ産業が盛んで、大手シューズメーカーの本社や大手タイヤメーカーの創業の地として知られています。医療機関が充実していることも変わらず、そして”芸者”の言葉の通り、今も久留米の繁華街は福岡県でも有数の規模と賑わいがあります。
そんな久留米で赤ちょうちんを楽しむならば、ぜひ「久留米やきとり」を。数多くあるやきとり店の中から、今回は文化街で昭和50年創業の「九十九(つくも)」をご紹介します。
久留米は九州新幹線の開業で中国・近畿地方からもアクセスが格段に便利になりました。また、福岡からもJR線や西鉄でわずかな距離。博多・中洲・天神の夜もよいですが、久留米へ足を伸ばすのもおすすめ。
近代になって工業都市として大きく発展した久留米。今も賑わいがありますが、街の隙間にはかつての歓楽街の姿が残っています。
立派なアーケードがいくつもあり、ノスタルジー感じる空間を散策するのもまた楽しいです。
筑後地区最大の歓楽街と言われる久留米の「文化街」。古くからの飲食店やバーも賑わっています。「九十九文化街店」も、満員御礼になる人気店です。
久留米には「九十九」が3軒あり、兄弟でそれぞれ切り盛りされているそうです。
久留米市内にはおよそ180店のやきとり屋があり、人口あたりの軒数は日本一なのだそう。巻物串の発祥もここ久留米と言われています。(諸説あります。)
テーブル席もありますが、酒場好きの特等席は断然カウンターでしょう。
寿司店のようなネタケースに串が整然と並べられ、「これとこれ」というように頼むことができます。やきとりの種類の豊富さも特長で、巻物串や豚、牛、鶏に加え、有明湾などからとれた魚介類も、串に刺せばみんなやきとりです。
店の外まで漂う炭火と燻されたモツの香りに包まれて、ビールを飲まずにはいられません。樽生はアサヒスーパードライ(500円)、瓶ではキリンラガー(600円)を置いています。では乾杯!
お酒のメニューは日本酒(喜多屋・700円)、ウイスキー(400円)、酎ハイ(350円)など。
田園地帯が広がる筑後平野。久留米やきとりは野菜が豊富なのも特長の一つです。大きく実ったトマトと、お通しのキャベツをおつまみにして、串が焼けるのを待ちましょう。
冷蔵ショーケースから離れた店の奥に置かれた焼台。炭火焼き用の焼台を使わず、より大きく独立した炉で焼いていきます。九州ではよく見かける方式です。
やきりとが焼き上がりました。レバーや鳥かわ、鳥ヘルツなどは100円、ダルム、センポコ、手羽先などが120円。えのきやチースなどのベーコン巻きや、しそバラ巻き(180円)など、巻き串ももちろんあります。
ダルム(腸)やヘルツ(心臓)などは、ドイツ語由来の呼び名は、久留米で医学を勉強していた医学生らが使っていたことが原点。医者の街ならではの表現です。また、ネギを挟んだ串には長ネギではなく玉ねぎが使われているのも特長です。
豚足(300円)は、甘辛いタレにたっぷりの胡椒が決め手。皮目はパリパリ、なかはとろっと肉汁たっぷり。やきとりもよいですが、炭火で焼いた豚足も絶品です。
にんにくバラ巻き(180円)は、クセになる味。酒場の煙に燻されるのですから、香りは気にせず食べてみてください。
出汁に浸した揚げ豆腐にとろろをかけた「九十九ドーフ」(500円)。濃い味で、サクサクの豆腐ととろろいもの粘りが独特でお酒を誘います。こうなると、日本酒よりも焼酎がよさそうです。
芋焼酎のロック(400円)。グラスになみなみ注がれます。
こちらもご当地の味、島原半島の名物・雲仙ハムの串焼き(200円)。お歳暮の定番は、炭の香りを纏った焼き立てで一層美味しく感じます。
イカゲソやエビなどの海鮮串をつまみに、のんびりいい気分。19時ころのピークタイムはカウンターに1席も空きがないほど賑わった店内は、21時ころに一旦引けて静まります。そして、ま21時を過ぎると第二陣がはじまります。営業は深夜3時までと長く、近隣で夜に働く人々の集いの場としても人気があるようです。
久留米の味、老舗の酒場のカウンターでぜひ味わってみてください。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
やきとり 九十九 文化街店
0942-34-7623
福岡県久留米市日吉町6-10
17:00~翌3:00(深夜は串切れで早閉あり・火定休)
予算2,000円