1935年創業、港湾関係者でかつて賑わったであろう、元町・南京町の立ち飲み(角打ち)『赤松酒店』を訪ねます。日中から営業、広い店内で相撲中継を眺めつつ穏やかな角打ちティータイムと参りましょう。
神戸の角打ち文化
角打ちが多い神戸。市内だけでも30軒以上が現在もご商売をされています。なお、神戸では酒屋で飲むことを元来「立ち飲み」と呼んでいたと聞きますが、ここでは全国的に使われるようになった「角打ち」という呼び名で進めていきたいと思います。
古くから貿易港として栄えてきた神戸は、言うまでもありませんが港町です。港町と角打ち、実は非常に関連性が高いのでは、と筆者は考えています。
東の貿易都市、横浜も数百メートル間隔で角打ちがありますし、長崎や門司、函館も古くから角打ちが人々の生活の中にあります。
「昼夜を問わず稼働する職場で働く人は、明け番の日は居酒屋が開く前から飲み始めるでしょ。だから酒屋で飲み始めたのさ」と、小倉や横浜で、それぞれ酒屋の店主から共通した話を聞いたことがあります。そして、今回訪ねる神戸元町・南京町の酒屋でも同じようなことを教わりました。
中華街の路地裏に構えるお酒屋さん
やってきたのはJR元町駅すぐ。旧居留地にも近い、異国情緒と神戸の歴史を感じる賑やかなエリアです。日本三大中華街のひとつ、神戸・南京町は、いつでも旧正月のような華やかさがありますが、一本路地に入ると、いぶし銀の大衆酒場や、長年続く洋食レストランなどがあり、実に趣があります。
南京町は中華街でもありますが、外国航路の船員や外国人向けに開いていたバーが立ち並んだ場所でもあります。いずれ、神戸のバーもしっかりとめぐりたいところですが、まずはそこへお酒を卸すお酒屋さんから飲み始めたいと思います。
中華街特有の赤い電信柱の向こうに、見えてきました。赤松酒店。中華食材などを扱う販売店の先にあり、まさに飲食店の舞台裏、という立地です。
「神戸で角打ちを楽しむ人で知らない人はいない」と言われるくらい、ファンの間では有名な『赤松酒店』。創業は昭和10年と90年近い歴史があります。
角打ちスペースは、正面左のぼんやりと灯る入り口の向こう。「営業中」のような札や登りもなく、角打ち好きや地元の人でなければ、なかなか飲みに入ろうと感じられない雰囲気かもしれません。ですが、だからこそ、角打ち特有の空間が保たれてきたのだと思います。
ご夫婦で営業されている赤松酒店。お伺いした際は女将さんがお店に立たれていました。
「飲めるお酒はカウンターの上にある一升瓶と冷蔵庫のビールなどね」、と女将さん。棚に並ぶお酒は常連さん用のキープボトルです。
おつまみは練り物や焼き鳥、コンビーフなどがカウンターに小皿で並んでおり、好きなものを選びます。店には品書きがなく、お酒の銘柄は直接瓶を見て飲みたいものを女将さんに伝えるという流れ。値段は明記されていないものの1,000円でお釣りがくるくらい、とてもリーズナブルです。
乾杯はタカラCanチューハイレモンで
冷蔵庫には、アサヒスーパードライ、キリンラガー、サッポロ黒ラベルの瓶ビールが並び、チューハイ類も用意されています。関西で見かけることが多いタカラCanチューハイのチビ缶を選び、おつまみはメザシにしました。缶チューハイでも氷入りのグラスを準備してくれるのが嬉しいです。
それでは乾杯。
グラスワイン
洋酒の種類が豊富です。「意外」ではなく、元町という立地柄、むしろ当たり前なのかもしれません。コクのある白ワインをもらいました。
支払いは都度払いが基本ですが、まとめて支払うことも可能。
200メートルも南へ行けばメリケンパーク、新港エリア。港湾関係者が集い賑わっていたそうですが、いまは昼酒を楽しむご隠居さんや角打ちファン、夜は近隣のビジネスパーソンがお客さんです。
時刻は15時過ぎ。テレビに相撲中継が映されると、思い思いに飲んでいたお父さんたちが一斉にテレビに注目し、テーブルひとつひとつがマス席のような雰囲気に。
こういう空気感の角打ちはとても貴重です。人々が集い、楽しんできた場所が文化になる、ここは神戸の角打ち文化に浸る場所です。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 赤松酒店 |
住所 | 兵庫県神戸市中央区栄町通1-2-25 |
営業時間 | 9:00~21:00(木定休) |
開業年 | 1935年 |