三宮の飲み屋は高架下がおもしろい。JRと阪急電車の高架線路の間に挟まるように伸びる飲み屋街には魅力的な小箱のお店がずらり。まさに横丁といった雰囲気です。両側のお店の誘惑をぐいぐいと感じられる絶妙な道幅も含め、ここは大変素晴らしい。
行き交う列車の音と、店から聞こえてくる元気な店員さんの声が酒場に行くぞという高揚感をさらに高めてくれます。
線路の隙間から空が見える飲み屋街をこえると、今度はアーケード風のつくりになります。全長400m、160店舗が営業する高架下商店街「ピアザ」です。ここに50年ほど続く老舗「皆様食堂」があります。
午前10時から営業。食堂といっても、ほとんど酒場といって間違いではありません。ここは三宮で最高の昼酒スポットです。
銘酒、ビール、丼もの、そしてうどん。家庭の延長というキャッチフレーズが一周まわって心に響く気がします。皆さまの食堂、なんて素敵なセンスなのでしょう。
コの字カウンターだけのコンパクトな作りで、簡単なおつまみ以外は、二階にある厨房からダムウェーターで降りてきます。壁からひょっこり顔を出す塩ビパイプ管が伝声管の役割をしていて、注文を受けるとこれを通じてオーダーを通します。ナイスなアイデア!
コの字、というよりはUの字型のカウンターで、コーナーの部分にぴったりとおでん鍋がはまっています。そこから広がる醤油と出汁の香りと優しい蒸気に包まれて、まずはビールからスタートです。
皆様食堂にはかなり昔のキリンのポスターが残っているなど、店の風景のひとつに大切な存在にみえます。瓶がラガー(RL・大びん490円)で生が一番搾り。それでは、一番搾りで乾杯!
14席ほどのお店なのにメニューは大変豊富です。親子丼やうどん各種、焼き飯などのごはんものの他に、刺身や煮魚、焼き魚、炒め物は肉野菜炒めやレバニラ、目玉焼きは200円台で、そのほか300円前後のオンパレードです。
カウンターのちょっとしたケースには、おすすめのすぐでるつまみが用意されていて、食堂的に見て選ぶのも楽しめます。それに加えてこのおでんです。
濃い色合いで東京型のおでんに見えますが、決して醤油がこいのではなく、長年だしを継ぎ足して色が濃くなってきたのだそうです。一般的なおでんというよりは、たいたん(煮物)に近い印象です。
とことん染み込んだ旨味だらけの大根、ひたひたにつゆを染み込んだ厚揚げ、風味のよいこんにゃく。練りがらしを軽くつけて頬張れば、ビールもよいけれど日本酒へシフトしたくもなります。
ちろりで燗つけしてくれるので、レンジ加熱と違い冷めにくく、冬のおでんをちびちびつまむ相方としてこれ以上ない存在です。
また、西日本限定の樽詰め「きりんレモンハイ」を扱っているので、”酎ハイから見る酒場の個性”を研究するのが好きなニッチな酎ハイマニアは飲んでおくべき(笑) ポイントは、「きりん」と何故か商品名につく社名がひらがななこと。いえ、どうでもいいこととは重々承知しております。
ウオッカをベースに富士の伏流水で仕上げたレモン風味のお酒で、氷結ブームを起こしたキリンの元祖酎ハイ的な存在といえます。
汁物だけでもいった20種類も選択肢があります。毎日通っても全然飽きませんね。この雰囲気ですから、もちろん常連さんが多いのですが、いわゆる常連風を吹かす方はいなくて、とてもパブリックな空間です。それも含めて、ここは大変ステキなお店だと思います。
壁にかかった阪急電鉄株式会社カレンダーが、店の立地を感じさせるアイコンになっています。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
皆様食堂
078-391-1172
兵庫県神戸市中央区北長狭通1-30-39 高架下
10:00~20:30(日定休・祝不定休)
予算1,200円