三ノ宮「森井本店」 震災を乗り越え一世紀、今日も変わらない笑顔で溢れています

三ノ宮「森井本店」 震災を乗り越え一世紀、今日も変わらない笑顔で溢れています

2017年8月14日

JR三ノ宮駅近くの鉄道高架下にある「森井本店」は神戸を代表する銘店です。1918年(大正7年)の創業で、来年には暖簾を掲げて一世紀を迎えます。

風格ある佇まいからさすが百年の年輪を感じますが、現在の建物は90年代に入ってから建て替えられたもの。理由はご想像の通り、1995年の阪神淡路大震災です。1931年(昭和6年)に建設された国鉄東海道線の高架は、震災で大きな被害を受け不通に。1945年築の森井本店も、建て替えを余儀なくされました。

それでも、立派な扁額(へんがく)にきりっとした暖簾、そして変わらぬ地元の常連さんの笑顔の力で、現在の店舗も堂々たる風格を漂わせています。

2階建てで、一階は厨房を眺めて飲めるカウンター席。大皿料理が目の前にあり、ひとりでちょいと一献なんてときも暇を持て余すことなく、酒場の心地よい空気に浸ることができるでしょう。

金盃の大きな扁額には金盃の文字。灘の金盃酒造とご縁の深い森井本店。金盃(当時は元高田商店)で修行されていた方が酒屋を経て現在の居酒屋をはじめた経緯があり、扁額はそのとき贈られたものだそうです。

グループでの利用は2階席へ通されます。4人グループも使えるゆとりのある空間。お姉さんたちのテキパキとしつつも丁寧さが感じられる接客は一階と同じで、二階でゆっくり飲むのもいいものです。

ビールは昔からキリン。復刻版ではない本物の美人画レトロポスターが貼られ、キリン社との長年の関係が垣間見れます。そうなれば、一杯目は素直にラガーでしょうか。

日本酒はもちろん金盃、レモンハイは樽詰めの「きりんレモンハイ」。ほとんどの方はビールのあとは日本酒にシフトしています。

それでは乾杯!昭和40年代のレシピをそのままにつくるキリンクラシックラガーは、ずっしりした苦味が特長。歴史ある酒場には同社製品の中ではこれ以上なく似合います。

おしながきを見てみましょう。生ずしは長年通う常連さん御用達の定番の肴。たい生ずしは珍しい。ねぎまではなく、「ねぎみ」と表記されています。玉ひも焼きは、鶏の輸卵管と黄身になる前のモツのこと。キンカンというのが一般的な呼び名ですね。

名物のどてやきは、こってり甘く呼び水のごとくビールを進ませます。

日替わりのおすすめも地域性がでています。ずいき、バイ貝、よこわ、関西では当たり前の酒場の肴ですが、東京出身の筆者は何度食べても新鮮な気分で楽しいです。夏季限定の汲み豆腐は、店で作る自家製です。

白ずいきごまみそ和えと汲み豆腐。頭上を駆け抜ける東海道線のリズムが静かに響く夏の夕刻。暑かったねと言いながら、清涼感のあるおつまみでビールを傾けます。

店の片隅には金盃の樽があり、瓶詰めではない本物の樽酒が飲めるのも嬉しい。辛口のお酒が多い灘ですが、金盃はマイルドな旨味が特長でピリリとしていません。樽につめることで、酒の味が尖りすぎず樽酒そのものの価値を感じられます。

よこわ(メジマグロ)のお造りは、暑い季節にぴったりの爽やかな風味と心地よいわずかな酸味、コクが楽しめます。

金盃酒造の旧社名「元高田商店」をルーツにもつ飲食店や旅館でつくる組合「高田屋會」。いまも現存する「高田屋」がありますので、森井本店で興味を持たれた方は巡られてみてはいかがでしょう。

三宮を代表する老舗酒場の一軒「森井本店」。派手な料理はないけれど、この街の酒と酒場の歴史を体感できることがなによりの価値です。三ノ宮駅で途中下車して、金盃樽酒を片手に生ずしつまみ、大人の涼を味わってみてはいかがでしょう。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

森井本店
078-331-5071
兵庫県神戸市中央区北長狭通2-31-42
17:00~22:30(日祝定休)
予算2,000円