明石「一とく」 真鯛に惚れるひととき。磯魚楽しむ幸せのカウンター。

明石「一とく」 真鯛に惚れるひととき。磯魚楽しむ幸せのカウンター。

2020年4月22日

播磨灘と大阪湾、ふたつの海とそれを繋ぐ潮の流れが早い明石海峡。個性の異なる3つの漁場を前にした明石は昔からの港町です。

明石といえば明石蛸や真鯛が有名ですが、それだけではありません。潮の流れが7ノットを越えるという強い潮流に逆らって泳ぎ育った魚や、海底に張り付く個性豊かな魚介類、瀬戸内で育ち旅をする回遊魚など、明石で水揚げされる魚介類はなんと100種類以上。

また、明石は兵庫の酒どころ「灘」に対し、こちらは西灘と呼ばれ、多いときは60をこえる酒蔵があったと言われています。

歴史ある街に酒と魚が集まれば、期待できるのは居酒屋です。朝に水揚げされセリにかけられた魚をその日のうちに食べさせてくれる居酒屋や割烹は数多。今回はそんな明石から、創業半世紀になる老舗大衆割烹「一とく」をご紹介します。

三ノ宮駅からJR山陽本線の新快速で約15分。明石駅に到着。

駅の山側に接する明石公園はかつて明石城だった場所。国指定史跡でやぐらなどが残ります。

駅をでると、すでにほんのり磯の香りがします。海までわずか300m。

明石の街は、魚がセリにかけられる明石浦から、地元の食卓を支える魚の棚商店街、それを囲む繁華街や駅などが密集し、まるで街全体が漁港のような雰囲気すらあります。

早朝は仕入れ客で、昼は観光客、そして地元の人が夕飯の食材を書いに集まる魚の棚。名物、玉子焼き(明石焼き)の専門店にはガイドブックを持った観光客が集まります。

目指す「一とく」は、魚の棚から少し離れた飲食店街。かつて花街だった桜町に構えるお店です。道幅やスナックの看板に土地の歴史を感じます。

営業時間はお昼と、夜は5時から。お昼でも連絡をすれば夜と同レベルの料理をだしてくれます。本日はお昼酒。

家族経営のお店でご主人が切り盛りされています。歴史あるお店ですが、店内はとても手入れが行き届いて清潔。白木のカウンターに通してもらい、まずはビール(600円)から。

では乾杯!

ビールは瓶ビールのみで、アサヒスーパードライとキリンラガーの2種類。

西海酒造の「特別純米 空の鶴」、茨木酒造の「特別生原酒 来福」、明石酒類醸造の「特別純米 明石鯛」、大洋酒造の「たれくち」、これらはすべて西灘明石のお酒です。

稲美町の井澤本家「大吟醸 倭小槌」、姫路の壺坂酒造「大吟醸 神代の鍬」、姫路の本田商店「純米無濾過生原酒 龍力」、そして燗酒用に灘の菊正宗と、兵庫のお酒揃い。

明石〆というセリの場で活締めが行われている明石浦。そんな明石の磯魚の魅力をシンプルな料理のなかにぎゅっと凝縮し美味しさを引き出すのが「一とく」のこだわり。料理は1品1500円程度。今回はおまかせでお願いしました。

薄口ながらじっくり広がる旨味が心地よい鯛の子に、ぐだくさんのアナゴや鯛の煮こごり。先付が好みに合致すると、あとがますます楽しみになります。

活鰈と鯛をよせたお造り。水揚げしたて、鰈は活締めの白身魚特有の歯ごたえと華やかな甘い香り、そして噛むほどに広がる脂の旨味。

肉厚なのに半透明に透けているほど澄んだ鯛。一とくの真鯛は別格の美味しさ。豊富な餌を食べて海流に逆らって育った明石の鯛は身がたいへん引き締まっています。

明石海峡の鯛には、お酒も明石鯛を。

ほどよい気候の日に、お昼からお造りつまみに冷酒を味わうこの時間。幸せです。

刺身のつぎは煮魚です。関西割烹風のあっさりとした甘さを抑えた味付けで、ふっくらと仕上げたメバル煮。ぷりっとした身はとても硬く、それでいて箸がうまく入るとホロホロと身離れします。

先程のお造りで食べた鯛のかぶとはシンプルに塩焼きで。頬肉からじんわりと滴る脂は、食べているこちらのほっぺを落としそうなほどの味。

お酒が進みます。魚も酒も同じ水の流れのなかで育つ、だから組み合わせに無理がなく、素直に美味しいと感じます。

鯛は一尾をいろんな料理にしてくれます。かぶとは塩焼き、身はさきほどのお造りと、このあとの鯛めしに。残る身の一部はこうして酢の物に。

湯引きをした真鯛と、明石名物のひとつであるアナゴ、そして茄子を寄せて、軽く酢のはいる出汁で整えた冷菜。

強肴としてベラ(キュウセン)の揚げ物。西日本では瀬戸内海で主に水揚げされる磯魚。あしがはやく鮮度第一。頭から頬張れるサクサクのホネと、鱗の下からしっとりとした身。コチのような白身の美味しさがあります。お造りで鰈の縁側もいっしょに。

〆は普段食べないのですが、天然明石たいのたいめしはお店の看板料理の一つ。いただきます。

味付けは真鯛と昆布のみ。炊きあがったら山椒の葉を風味づけに載せ、混ぜ合わせれば出来上がり。

最後の最後まで、鯛の美味しさを教えられるようなひととき。食べきれない鯛めしはお土産にしてもらい、お夜食となりました。

丁寧な仕事のご主人も素敵で、あまり喋らないですがほどよい距離感で、料理で語ってくれるような方。最後はお見送りまでしていただき、とても良くしてくれました。

このお店を知るきっかけは、明石の酒類関係者さんからの情報。大変よいお店でした。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材時期/2020年2月以前)

一とく
078-912-2212
兵庫県明石市桜町13-6
12:00~14:00・17:00~22:00(日定休)
予算5,000円