【閉業】鳥取『天津』隠れた場所で35年、ベテラン大将が切り盛りする深夜中華

【閉業】鳥取『天津』隠れた場所で35年、ベテラン大将が切り盛りする深夜中華

2022年1月24日

私が知る中で最も開店時間が遅い大衆中華が、鳥取の『天津』です。夜8時を過ぎてやっと看板に電気がつきます。飲食店に挟まれた隙間の先にあり、知る人ぞ知る的な立地なのですが、深夜になると禁断の深夜中華を求めて、どこからともなくほろ酔いのお客さんたちが集まります。

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深夜の末広温泉町、深夜中華に集う人々。

天津がある末広温泉町は、鳥取を代表する飲食店街です。JR鳥取駅と鳥取県庁に挟まれたこの場所は、ホテル、大型病院、地銀本店も集中しており、地方都市の飲み屋街を構成するすべての要素に囲まれています。居酒屋だけでも100店舗以上あり、鳥取滞在ならば必ず立ち寄りたいエリアです。

さて、松葉蟹や猛者エビ、タナカゲンゲなど、この地を訪れたら日本海の幸は食べておきたいものですが、酔が心地よくまわってくると理由もなく欲するのが〆の一軒。「あれほど美味しいものを食べたのにまだつまみたいのか」と自問自答しますが、これが呑兵衛の性なのだと諦めます。

人通りがほとんどなくなった深夜の鳥取駅前。さっきまで電気が消えていた店がこの時間になって営業を開始しました。建物の隙間にありますが、店は大衆中華(町中華)です。

外観

隙間を10mほど入った場所にある黄色い看板。店の中からは中華鍋を振る音とともにベテランさんたちの話し声が聞こえてきます。

ここが、深夜にしか営業しない店『天津』です。

内観

物腰が柔らかいご主人お一人で切り盛りされており、L字カウンターの12席のみ。コンパクトな店でお客さんやご主人との一体感も楽しいです。

営業開始は取材時で20時以降。22時を過ぎないと開かないこともあると常連さん。大将はこの道ひとすじで、36年前に天津を開業。飲み屋街の真ん中にある中華ということで、ほろ酔いのお客さんたちが多く、次第に深夜にシフトしたようです。

お客さんは皆さんはしごをしてきた人がほとんど。締めの炭水化物を食べに来たけれど、結局ビールや日本酒を注文し、再び飲み始めてしまうという人ばかり。深夜に営業している店ということもあり、飲食店やスナックで働く人も常連さんです。

乾杯はキリン一番搾り大瓶で

なにはともあれビールから。はしご酒でも、ビールを飲めば一杯目。それでは乾杯。

品書き

ラーメン店ではありません。大衆中華です。品書きにある一品料理のバリエーションからも見て取れます。

お酒

キリンビール一番搾り)大瓶:800円、スーパードライ小瓶:400円、日本酒:400円。樽生はありません。

一品料理

えびてんぷら:850円、鶏のからあげ:850円、にくのてんぷら:850円、芙蓉蟹(ふうようはい/かに玉):850円、酢豚:850円、肉のうま煮:850円、木須肉蛋ムーシュロータン):850円、焼豚:700円など。

深夜しか営業しない店なのにランチがあります。サービスランチ:800円。夜のお仕事の皆さん御用達。もちろん夜でも(夜しか営業していません)注文できます。炒飯:700円、天津飯(700円)、かたい焼きそば:750円、焼き餃子:350円など。

ノンベエ好みの味付けにビールが進みます

餃子(350円)

鳥取の居酒屋で「取材でまわってるなら、餃子が美味しいから天津にいってみたら」と、カウンターで隣り合った地元の人から教わったことがありました。それから数年経って、いただきます。

薄めの皮はとてもモチモチとしており、餡は豚肉の比率多めでインパクトある美味しさ。滲み出る肉汁と特製のタレとも相性がよく、はしご酒だとしても別腹があるかのように箸が伸びていきます。6個で350円はとても良心的です。

キンキンに冷えた瓶の一番搾りとの相性の良さは言うまでもありません。

炒飯(700円)

餃子とビールを堪能したあとは、焼豚でも…と思っていたら、あとから来たお客さんが炒飯で日本酒を飲み始めたではありませんか。

具と予め混ぜて冷温保存していたお米を強い火力で一気に炒め、パラパラになるまで何度も中華鍋を振る、そんなご主人をみていたら、こちらも炒飯をつまみに飲む「炒飯飲み」の気分が高まってきます。

鉄勺(おたま)二杯分はある驚きの量でドーンと登場、炒飯(スープ付き700円)です。かなりのボリュームですが、少し食べたらあとは容器(50円)に詰めて持ち帰りもOKとのこと。

海老、焼豚、ねぎ、人参と具は標準的なものの、塩加減がノンベエ好みで、これで日本酒を飲むお客さんの気持ちもわかります。箸休めの紅生姜をつまみつつ、瓶ビールをおかわり。

溶き卵のスープはラーメン店の中華スープではなく、本格中華寄りの味です。飲んだあとのスープに癒やされて、大満足。

深夜の中華でノンベエがちびりと飲んでいる店と聞くとゆる雰囲気に思えるものですが、ご主人は極めてパリっとしており、深夜の店でも緩急のメリハリがしっかりついているのもポイントです。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)