【閉業】大森『鳥城』駅前で60年。アサヒマルエフ片手に老舗酒場でいぶされる。

【閉業】大森『鳥城』駅前で60年。アサヒマルエフ片手に老舗酒場でいぶされる。

2020年7月29日

かつてアサヒビール東京工場があった大森は、老舗のお店ほどアサヒ率が高いです。地元の人に愛されてきた証ですね。1987年、ここで初めてスーパードライが製造されました。2002年に東京工場の機能は神奈川県南足柄市に竣工した神奈川工場へ移され、閉鎖後の跡地は大型ショッピングモールに姿をかえました。

大森のアサヒビール工場は1962年(昭和37年)に操業を開始しましたが、その1年前、アサヒビールの工場とJR大森駅の中間地点にうなぎと焼鳥の店が誕生しています。それが今回ご紹介する「鳥城」です。

ベテランの兄弟が切り盛りする店は、大森東口の元気印。店先にほんのり漂う串焼きの香りが飲みたい気持ちをくすぐります。

木材を多用した内装は串焼きの煙などでいぶされ、空間全体が飴色になっています。

L字のカウンター席は焼き場を目の前にして楽しめる一人飲みの特等席。奥にテーブル席と小上がりがあります。

大量に仕込まれたうなぎと鶏の串。これを炭火で丁寧に炙っていきます。

大森はスーパードライ発祥の地。ですが、鳥城はドライ誕生以前からずっと変わらぬビールを扱っています。ここで飲む生ビール(中ジョッキ440円)は、アサヒ生ビール(通称:マルエフ)。まれに缶で流通することがありますが、あまり飲む機会は多くない珍しいビールです。

状態抜群。それでは乾杯!

鰻が描かれたうちわが品書きです。レトロ感が楽しいです。

ビールはビンでキリンラガー(560円)も用意あり。酎ハイ類は380円から、ドリンクは老舗らしく品数控えめ。そんな中にある樽酒、升酒はやはり気になります。

看板料理の焼鳥は、つくね、ハサミ、ヒナ、カワ、ナンコツなど。1本単位で注文可能です。うなぎ串は少肉の一口焼き(310円)と、鰻の肝、ヒレ、カブトが用意されています。サイドメニューもひやし鳥肉(630円)や鳥わさ(470円)など鳥料理が充実しています。

まずはビールを大きくふくんで、喉をしっかり冷やします。すぐに届いたおつまみは「ぬた」(370円)。お通し感覚ですぐでる小鉢をひとつは頼みませんとね。

鳥肉とニラのぬた。さっぱりしているけど、甘い酢味噌と鳥のあっさりとした旨味が非常にビールとよくあいます。

うなぎの一口焼とつくね(160円)。味はおまかせで焼いてもらっています。

鰻屋の焼鳥は美味しい、そして焼鳥屋の鰻串も期待できる、ここ鳥城もこの公式の通り。深い旨味が心地よいです。

ハサミとカワは塩味で、練り辛子を気持ち多めにつけていただきます。表面はサクサク、噛むと肉汁がじんわりと滲み出てきます。

升酒(490円)。よく乾いたマスと受け皿、そして塩があっという間にセットされ、そこにすかさず一升瓶が傾きます。表面張力をこえるほど注がれるお酒は、大衆酒場の醍醐味の一つ。水飲み鳥のようにきゅっと一口。つづいて、角に塩を載せて角からすっと。水冷庫で冷えた大関が体温によって温度が上がり、これが心地よいほろ酔い気分にさせてくれます。

お店オリジナル、見た目はつくねのような「たたき」。鶏のキモやナンコツなどを混ぜて叩いたもので、深いコクとコリコリの食感がクセになります。店で鶏を一羽単位で仕込むからこその一品です。

鶏の旨味に、続けて升酒を。大森駅前の変化を見続けてきた街の名酒場にひたり、心地よい空間、丁寧なご主人の人柄や料理に、心はすっかり燻されました。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

鳥城
03-3762-5954
東京都大田区大森北1-12-4 大森プラザビル1F
16:30~24:00(無休)
予算2,800円