住宅街にポツンと佇む老舗酒場は癒やしのオーラに満ちています。東雪谷・上池上に店を構えて40年以上になるやきとり居酒屋『とんちゃん』は界隈の酒場好きにとってオアシスのような存在。トーク上手な大将と料理上手のコンビで迎えてくれます。
目次
どの駅からも徒歩15分。ゴールが酒場だからがんばれる。
外観
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武蔵野台地の東端にあり、桜新町を水源にした呑川が流れる雪谷。文字通り谷のような地形で、江戸時代は農村だったとはいえ雪谷は歴史ある土地です。町を東西に貫く東海道新幹線と、南から北東へ結ぶ東急池上線がありますが、いずれも呑川周辺の雪谷に駅はありません。
どの駅からも徒歩15分以上はあるのですが、そんな鉄道空白地帯にも関わらずこの地域には商店街があります。池上村、雪谷村と呼ばれていた頃に栄えていたことが由来ではないでしょうか。2000年代までは学習研究社(現在の学研ホールディングス)の本社もこの地にありました。
商店街近くには、3系統の路線バスが集まる「上池上」バス停があり、もっぱらバスが交通を支えているエリアです。
そうした場所にも、住宅街ならではのいい酒場が存在します。それが今回ご紹介する『とんちゃん』。昭和50年代はじめに女将さんが中心となって開業したそうです。
手頃な料理と居心地の良い家庭的な雰囲気に魅了され、徒歩15分も何のその、洗足池や御嶽山、西馬込駅から歩いて通う常連さんもいるそうです。
内観
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御年80歳をこえてもまだまだ現役の大将は、接客担当。冗談交じりで楽しませくれます。そして、料理はもっぱら料理の勉強をした女将さんの担当。息子さんやお孫さんも店にやってきて、3世代が集まる大変家庭的な店です。お客さんも家族連れや長年通うベテランさんが多く、地元に根付いた酒場ということがよくわかります。
厨房に面したカウンター5席は一人飲みの特等席。テーブル2席と奥に8人程度で利用可能な小上がりがというつくり。
乾杯はサッポロ生ビール黒ラベルで
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長年サッポロビールを取り扱い続けてきた老舗の証、赤星マークのサッポロジョッキが今も現役です。それでは乾杯!
品書き
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カウンター上を埋め尽くす短冊が品書きです。席について一杯目を口にしたら、あとは50品を越えるメニューを隅々見渡すまで数分かかりそう。厨房上の食器収納棚にも書かれているので、見渡す前に直感で頼むのも「あり」でしょう。「おすすめは煮込みだよ」と大将。
お酒
生ビール(サッポロ黒ラベル)中:550円、大:880円、瓶ビール:660円、ホッピー(白・黒):500円、ホッピー赤:550円、酎ハイ:390円、自家製梅酒:390円、ハイボール:390円など。
料理
いかさし:880円、ホルモン炒:700円、肉もやし炒:550円、カキフライ:750円、チキンカツ:660円、はつたたき:550円、にこみどうふ:500円、にこみ:400円、餃子:450円、とんみみ:350円など。
やきとり
とりかわ、すなぎも、とり、かしら、なんこつ、ハラミ、はつ、しろ、レバー、たん(各110円)。つくねネギ入り:390円は合鴨を使用。焼鳥に梅たたきを載せる常連さんもいるそうです。
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別に枠にある鍋料理(季節料理)。なぜかレバーにら炒めだけ仲間はずれですが、こういうイレギュラーを見つけるのも酒場の短冊を眺める楽しみの1つです。
湯どうふ:750円、肉どうふ:750円、とり鍋:750円、つくね鍋:750円、キムチ鍋:900円、スキヤキ鍋:900円、水餃子:1,000円。
手作りの料理ばかりで、どれもしみじみ美味しい
突き出し(330円)
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やきとりが看板料理の『とんちゃん』は、お通しが必ずお刺身と決まっています。注文は肉料理が多くなりますから、お通しに魚というのは合理的かもしれません。お刺身の内容は日々変わり、今日はアジ、まぐろ、鯛とバラエティ豊かです。
にこみ(400円)
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もつ焼きをはじめ全体的に豚モツ系の料理が多い同店は、長年の仕入れルートからいいモツが入っているのでしょう。酒場の定番・もつ煮込みは下処理が良いようでクサミは皆無、旨味がぎゅっと詰まっています。
やきとり(5本550円)
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やきとりの注文がはいるとおもむろに大将が焼台前に移動します。やきとりだけは大将の担当です。以前はトラックドライバーとして全国を駆けまわっていたという大将ですが、女将さんと一緒に店を開くにあたって焼鳥を学んだそう。旨さ控えめのタレと、パリっと焼き上げたやきとりのバランスが絶妙。税抜ならば1本100円なのですが、串打ちが丁寧で食べごたえも十分あります。
酎ハイ(390円)
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やきとりはビールもよいですが、プレーンの酎ハイをピッチ早めに(適正飲酒!自分のペースで適量を)くいっと飲むのも良いものです。焼酎濃いめなので、適量に気をつけながら。
やきシューマイ(500円)
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『とんちゃん』のシュウマイは蒸したてではなく、焼いて提供されます。漢字で書けば「焼焼売」。
焼き魚などで使う居酒屋でお馴染みのグリラーにシュウマイをちょこんと整列させて焼き上げたもの。皮がパリパリで餡は引き締まり、「あ、美味しい」と言いたくなる一品。
バイスサワー(390円)
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最近は全国区になったピンクの割材「バイス」。実は大田区に工場があります。ご当地チューハイですから頼まなくては。甘いのに酒場に似合う不思議な飲み物です。
長芋(500円)
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ザクザクの山芋は焼くことでこんなに旨味が増すなんて。塩と黒胡椒だけのシンプルな味付けです。
たまごやき(400円)
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女将さんが慣れた手付きでささっとつくる卵焼き。素朴ですが家庭の味ではなく、しっかり酒場の美味しさがあります。
通いたくなる理由がある
ほどよい小箱でお客さんや大将、女将さんとの距離が近く、心地よい一体感が店の魅力のひとつ。会話の中心に大将の笑顔があります。
今風の派手さはないものの正統派の美味しくて楽しい店『とんちゃん』です。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ Special Thanks/Syupo酒場部)
店名 | とんちゃん |
住所 | 東京都大田区東雪谷5-9-6 |
営業時間 | 17:00~25:00(日定休) |
開業年 | 1978年 |