岡山『まつや』名物は地ダコ。老舗の料理屋で、地魚と地酒を楽しむ

タコ、白魚、ニシ貝に蝦蛄。瀬戸内の魚介類は鯛だけにあらず。これらの地物を気取らず楽しめる居酒屋として、地元に暮らすベテランが集う『まつや』をご紹介します。大女将と娘さんたち女性陣で切り盛りする優しいお店です。

まさしく「いい店、みーつけた」という一軒

外観

岡山の飲食店街は、同じ中国地方の広島に引けを取らない規模があります。駅東側周辺だけでなく、路面電車沿線の新西大寺町筋、天満屋周辺にまで広がっています。瀬戸内海の魚介類を食べさせてくれる酒場が多く、岡山に滞在すると毎回どこへ行こうかと悩みます。そうした瞬間もまた楽しいものです。

さて、今回はそんな中心街の岡山駅東側ではなく、西側を探索します。

昔の岡山を知っている人は、西口はどのようなイメージでしょうか。2006年に現在の橋上駅構造になる以前は、とても県庁所在地・70万都市の駅とは思えない小さな2階建ての私鉄駅のような駅舎でした。

それがいまでは駅も広場も生まれ変わり、かつての4倍はある駅前ロータリーと、JR系ホテルやミュージアムがそびえ立つ立派な駅前に大変身しています。

老舗居酒屋好きとしては以前の渋い駅前もよかったのですが、いまも駅から1分も歩けばレトロな町並みに出会えます。

目指す居酒屋は奉還町商店街近く、魚が美味しいと地元の人に評判の店『まつや』です。いぶし銀の店構えを前に背筋を伸ばして暖簾をくぐりましょう。

内観

店に入ると、正面右側に常連さんが集う立派なカウンター。左側にお座敷、店はさらに奥へと広がっています。なかなかの大箱です。

カウンターに揃う皆さんは、地元の方ばかりで年配のご夫婦や飲食が好きそうな旦那衆という顔ぶれです。お客さんの雰囲気からして、もう間違いない店だとすぐにわかります。お座敷は地元企業が利用しているような雰囲気。

『まつや』は40年近く前に現在の大女将が創業したそうです。いまは大女将が司令塔で、調理や配膳などの切り盛りは大女将の娘さんと息子さんの奥さんが担当されています。女性だけで営む居酒屋です。ちなみに息子さんは漁師をされているそうです。

乾杯は大樽のキリン一番搾りで

岡山市には中国地方で唯一のビール工場（大手）であるキリンビール岡山工場があります。そうした背景もあって、一杯目はキリン一番搾りを選びました。製造はもちろん万富にある岡山工場（製造所記号15）です。

それでは乾杯！

（参考：キリンビール岡山工場の特別取材記事）

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品書き

お酒

大樽のビールはキリン一番搾り。瓶ビールはアサヒスーパードライ。店の袖看板にサッポロとありますが、残念ながら取り扱いはありません。

日本酒は地元銘柄の極聖（岡山市中区・宮下酒造）と、御前酒（真庭市勝山・辻本店）など。

本日のおすすめ

その日の水揚げ・仕入れ次第。季節によっても当然かわります。1月の訪問時は、あじなめろう、大たこ、ミル貝、赤なまこ、カキフライ、白魚黄ニラ卵とじ、車えびなど。

お店の方や常連さんの話では、時季によって、ニシ貝、ぶり、しまあじ、ひら、蝦蛄、さより、穴子、鰆タタキなど、岡山らしい顔ぶれが並ぶそう。

定番メニューなど

岡山名物ふなめしは冬の定番料理。脂ののった寒鮒のそぼろと根菜を炒めてからだし汁で煮込み、これをご飯にかけたものです。岡山の居酒屋でもあまりみかけませんが、冬の〆にぴったりだそう。

名物のタコが絶品！白魚も岡山の幸

大たこ

瀬戸内海で広範囲に水揚げされている真蛸。明石ダコがフランド化していますが、下津井をはじめとした岡山の真蛸も絶品です。

少しずつつまみたい、なんていう要望にも応えてくれるお店なので、一人前用に盛り付けてもらいました。

ゆで具合が絶妙で、ぷりっとした歯ごたえと鮮度の良さを感じる爽やかな香り、上品だけどしっかりコクのある美味しさがたまりません。これほどのタコはなかなか食べる機会がなさそうです。

美味しいお刺身には美味しいお酒を

よい刺身をつまめば、日本酒が自然と欲しくなるもの。選んだお酒は勝山の純米雄町 御前酒です。

これをぬる燗ほどにつけてもらいました。それでは一口。

雄町米特有の濃い味はそのままに、燗でほどよく米の香りが引き立ち、タコの旨味の余韻にそっと寄り添います。

大皿料理からポテトサラダ

カウンターの上にずらっと並ぶ大皿はどれも魅力的です。軽くつまもうと選んだポテトサラダが、シンプルながらこれまた美味しくて癒やされます。

白魚と黄ニラの卵とじ

1月から春にかけて美味しくなる、岡山の名産白魚。地元の人にはママカリよりも馴染みがあるかも？と聞いたことがあります。吉井川や高梁川の汽水域で水揚げされるそう。首都圏ではあまり食べる機会が多くない黄ニラも、これまた岡山の名産品。

土地の美味しいものを、上品な出汁でまとめた絶品の一品です。白魚はこの通り、たっぷり！

岡山を静かに満喫できる名店

飲み慣れた人にこそおすすめしたい、家庭的でしっかり美味しいいいお店『まつや』。上質や上品とはまた違った、本質的な居酒屋の魅力がここにはあります。

品書きに値段が書かれていませんが、普通の居酒屋価格なのでご安心を。

常連さん、女将さんたちが醸し出すあたたかい雰囲気が、まるで「岡山の帰る場所」のように感じられました。

ごちそうさま。

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（取材・文・撮影／塩見 なゆ）