昭和3年創業、大衆酒場好きの聖地といえる店『斎藤酒場』。けやきの自然木をつかったテーブルに、落花生のお通し。赤星と燗酒をセットしたら、楽しい酒場時間のはじまりです。本サイト読者の方には、ぜひ訪ねていただきたい銘店。じっくりとご紹介したいと思います。
目次
踏切と商店街と大衆酒場
東京都北区・十条。
となりは東京を代表する飲み歩きタウンのひとつ『赤羽』です。北区でお酒を飲むならば赤羽に行くことが多いですが、埼京線で新宿寄りに一駅の十条も素通りはできません。
細い路地に、数多の賑やかな商店、小さな踏切。昭和の景色を留めてきた十条には、街全体があたたかいムードに包まています。
そんな十条の町並みは、赤羽線と商店街の歴史が関係しています。
1910年、東京都市部の拡大に伴い、旅客駅として十条駅が開業すると、やがて駅を中心に人々の暮らしがはじまります。関東大震災をきっかけに、都心部や下町から多くの人が移り住み、現在の街の骨格が形成されました。このときにできた十条銀座や十条富士見銀座などの商店街、赤羽線(JR埼京線)十条駅の駅構造が、2022年の今も現役です。
そのような十条駅周辺も、近年、再開発がはじまっています。西口駅前の再整備や、十条駅を含む約1.5kmの埼京線の高架化が着手され、少しずつ街が変わろうとしています。
1928年(昭和3年)、酒屋として創業
いつまでも変わらずあってほしい一軒、西口すぐにある『斎藤酒場』。
1928年(昭和3年)に酒販店として創業。戦後、初代にかわって二代目が酒場として営業し、いまの姿になりました。現在、店を切り盛りするのは三代目の女将さんです。
外観
斎藤酒場の魅力は、接客、客層、料理など様々ありますが、『建物』が素晴らしいではありませんか。大正末期の建物で、戦後、酒場に改装されたものの、実に味わい深いものがあります。店構えだけではありません。いざ、暖簾をくぐって中へ。
内観
コンクリートや石を敷き詰めた土間のような床に、自然木の一枚板を複数並べた客席は、唯一無二の魅力に満ちています。酒場遺産というものがあるとすれば、間違いなく認定されるでしょう。
築100年とは思えない天井の高さは、どこか銭湯のような雰囲気があります。長い年月、人々が集い続けたことで飴色に染まった空間に、黒い短冊札が実にかっこいいです。
店は左に入れ込みの大きな一枚板の机。右側は埼玉の酒を温める酒燗器が鎮座し、その周辺をレトロな酒造メーカーのグッズや、酒販店時代の通い徳利、角樽などが飾られています。
何気なしに飾られたビールメーカーのレトロなポスターは、よくみると復刻版ではなさそう。サッポロビールの営業さんが年始の挨拶で毎年1枚もってくる恵比寿さまの繁盛祈願札は、何年も昔のものから最新まで、いたるところに貼られています。
アクリル板、検温、消毒、時代が必要とする取り組みでピリピリとしたムードを少しでも和らげるかのように、観葉植物が一緒に置かれているのは女将さんの気遣いでしょう。
酔客にはしっかりと意見を伝えますし、久しぶりの人にも丁寧に接してくれる優しさがあります。そんな女将さんやお店の皆さんを慕う常連さんは多いです。女将さんがしっかり店をみているから、若い人一人でも、店に溶け込むようにすれば安心して楽しめます。
乾杯はサッポロ生ビール黒ラベルで
いつものお酒も、斎藤酒場ではちょっぴり特別です。まずは、樽生のサッポロ黒ラベル(中480円)で乾杯!
品書き
お酒
冷しビール大:540円、小:420円、ヱビス黒ビール小:440円、たる酒:300円、清酒:220円、にごり酒:290円、琉球泡盛:270円、焼酎:220円、酎ハイ:300円、焼酎サワー類:340円、玉露入りお茶割り:360円など。
サッポロさんが提案したであろう、ラムハイ:400円、リモンチェッロ:400円、モヒート:400円は、「結構人気なんです」と女将さん。
歴史をたどれば酒販店の飲食コーナー『角打ち』ではありますが、それにしてもお酒が大変リーズナブルです。これでも、消費税などで多少値上がりしています。
料理
肉とうふ:360円、厚あげ:340円、鳥ゴボウ炒め:320円、イナゴ甘露煮:320円、カブ浅漬:280円、マグロブツ切り:360円、しめさば:360円、マグロ煮:260円、黒酢ニンニク漬:260円など。
このほか定番献立に、ヤッコ豆腐:340円、ポテトサラダ:340円、もつ煮込み:340円、串カツ2本:360円、カレーコロッケ2個:360円があり、はじめての方は、まずはこれらから選んでみてはいかがでしょう。
品書きの札は同じようにみえて、結構入れ替わっています。それでも、”お酒飲み”のためのメニューしか存在しません。
楽しく飲んでいってね!という思い感じる料理
名物その1,ヤッコとうふ(340円)
席料やお通しはありませんがサービスで、小皿をいただけます。だいたい落花生ですが、ときどき異なります。
さて、一品目は、定番料理のヤッコとうふです。国産大豆100%使用とあり、木綿豆腐はかたく味は濃厚。結構たっぷりでてきます。
名物その2,ポテトサラダ(340円)
きゅうりと大きめの芋が入った特製のポテトサラダ。派手さはありませんが、「こういうのがいいのだよ」と常連さんはソースをかけて頬張ります。
名物その3と4,串カツ・カレーコロッケ(360円)
通常それぞれ2個ずつの串カツとカレーコロッケですが、合盛りにしてもらうことが可能です。一人で飲むときは、揚げ物を2皿4個は厳しいですから、嬉しいですね。
サービスくらげ刺身(360円)
昔から「サービス」とつくくらげ刺身。コリコリとした歯ごたえを楽しむ一品。爽快感があるおつまみです。
マグロブツ切り(360円)
くらげと並ぶ、いつものお刺身です。飾らない感じが素敵でしょう。
地酒(500円ほど)
定番酒のほかに、日々銘柄がかわる地酒があります。浦霞や萩野酒造「メガネ専用」、楯野川など、銘柄は様々です。瓶ビールと一緒に冷やされています。
ぬか漬け盛合せ(260円)
一人で飲む人のためにあるようにおつまみの数々。自家製のぬか漬けが日本酒とあわないはずがありません。
玉露入りお茶割り:360円
長くサッポロビールを扱う酒場ではおなじみ、元祖業務用緑茶割り材といえるポッカサッポロ社の玉露緑茶をつかった一杯。最近流行りの濁り系とはまた違った方向で緑色が濃く、これが昔から好きでした。
冷やしビール(大びん540円)と小皿いろいろ
ビールが『冷しビール』と表記されており、そんなところから感じる酒類と酒場の歴史も酒の肴です。
昔ながら水冷式の冷蔵ケースで冷やされた大瓶で、銘柄はサッポロ黒ラベルとサッポロラガーの2種類から選べます。いくつか300円前後のおつまみを並べて、さあ、楽しくなってきました。
斎藤酒場の煮物がおいしい
シイタケ煮(320円)
煮物シリーズ。くたっとなるまで煮込んだシイタケは、そのつゆまでお酒の誘う一品です。
肉とうふ(360円)
きつね色に染まるまで煮込まれています。豆腐は水分が抜けてやや固くなっているのがたまりません。お肉の量はこのくらいで十分、主役は豆腐ですから。
マグロ煮(300円)
生姜がアクセント、甘めに煮た斎藤酒場のマグロ煮。柔らかくしっとりとしていて、日本酒が欲しくなる素敵な逸品です。
清酒:220円
斎藤酒場に来たら、必ず1杯は頼みたい清酒。埼玉県蓮田のお酒です。お燗酒は徳利・お猪口で提供してくれるのに1杯220円とかなり安いです。飲み慣れた味にほっとして、寒い夜はついつい一杯多く飲んでしまいがちです。
ごちそうさま
15年ほど前に飲みに来てから、その後、何度訪ねたかもう覚えていません。入れ込みの大テーブルで知り合った人に酒場の楽しみ方を教わりました。サッポロビール社の方とも何度も飲みにいきました。思い出の1軒です。
混んできたらさくっと飲みきって席をあけ、空いていたら瓶ビールをもう1本。この空間をみんなでいつまでも楽しみたいですね!
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(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 斎藤酒場 |
住所 | 東京都北区上十条2-30-13 |
営業時間 | 営業時間 [月~土] 16:30~23:00(L.O.22:30) 定休日 日曜・祝日 |
開業年 | 1928年 |