興津『魚徳』おさかな天国!70余年続く呑める魚屋。地酒と地魚を満喫

興津『魚徳』おさかな天国!70余年続く呑める魚屋。地酒と地魚を満喫

2021年9月1日

旧東海道の薩埵峠の京都側に、天国のような酒場「魚徳」があります。居酒屋ではなく鮮魚店なのですが、店内で角打ち感覚で刺身をつまみに飲ませてくれます。発起人は4代目になる息子さん。東京の大衆酒場がモチーフ。駅から距離がありますが、強くおすすめしたい一軒です。

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日本橋から数えて17番目の宿場町・興津

歴史ある街に名酒場あり。今回ご紹介する「魚徳」もそう感じさせる酒場でした。場所は静岡市清水区。同じ静岡市でも、静岡市中心部や清水とは雰囲気が異なります。最寄り駅は、JR東海道本線の興津駅。

それもそのはず。清水は東海道の江尻宿や漁港を中心に広がった街で、興津は「興津宿」という別の宿場町が由来となっているからです。江戸時代以前からの大動脈である東海道が、まちづくりに大きく影響しています。徳川家ゆかりの寺院を訪ねるもよし、酒場を目指すもよし。興津には老舗のもつ焼き店があることは静岡の酒場好きの間では有名です。

目指すお店は駅から2kmほど東にあります。旧東海道を歩くのも良いのですが、ちょっと距離があるので今回は路線バス(しずてつバス三保山の手線[但沼~清水駅])でショートカット。

興津大橋からの眺め。山側には東名高速道路、海側には東海道本線の橋がかかっています。

薩埵峠の興津寄りまでやってきました。目指すお店は旧東海道に面しています。

昭和20年創業、鮮魚と仕出しの魚徳

いかにも街道筋の商店という雰囲気。交通の主体が鉄道や国道・高速道路に移ったあとも、この界隈はかつて東海道の峠の入口として栄え商店が点在していたそうです。

いまの時代、こういう鮮魚店が残っているのは奇跡といえるでしょう。人通りは地元の人以外ほとんどありません。店内で飲める店という雰囲気はなく、知らなければ素通りしかねません。

広い店内にレトロな冷蔵ケースがあり、鮮魚が並ぶ。まさに昔ながらの鮮魚店という雰囲気です。

お刺身はどんな魚が並んでいるかみてみましょう。

さすが静岡。清水などの遠洋でとれるマグロから、太刀魚にひらめ、カワハギまで様々。静岡県が日本一の水揚げを誇る金目ももちろんありました。

どれも値段はとってもリーズナブル。

魚種の豊富さはさすがです。かつお(刺身450円)といえば、やっぱり御前崎ですね!

ご当地食材も発見。イルカのすまし(450円)は、蒲原、由比、興津あたりで食べられている郷土料理です。イルカのヒレを薄く切って塩ゆでしたもの。さらし鯨のようですが、味は濃くお酒のおつまみにぴったり。

近隣向けに刺身などの仕出しを提供していたそうで、店内には番重が積み重なっていました。いまは使用することはないそう。

水産物商業協同組合名義のお願いが掲げられています。「お客様ご持参のお魚の調理は手数料として次の通り申し受けます」とあり、魚の持ち込みにも応えてくれている様子。奥では先代がにこにこ刺身を切り分けていました。魚屋さんってカッコイイ!

さらに店の奥へ進むと、調味料やスナック菓子、菓子パンなどといっしょに、自家製のお惣菜も並んでいます。結構地元の方の利用は多いようで、スーパーのお惣菜コーナー的な役割を、いまも街の鮮魚店が受け持っていることが嬉しいです。

揚げ物コーナーも充実しています。

そして、店の一番奥が飲食スペースになっています。今風にいえばイートインですが、雰囲気は街の食堂という雰囲気。創業時からの番台を活かしたつくりは店の歴史を感じさせます。このほか、テーブル席が数卓。店頭の椅子も利用できます。

写真に写るお兄さんが4代目。酒場めぐりが趣味なのだそう。時代の変化で家業である鮮魚店の役割が変化していく中、既存の商売では限界が近付たときに「店を守りたい」という熱意で店内での飲食営業をはじめたそうです。

もともと二階には宴会用の座敷があり、飲食としての事業も行っていたこともあり、家族の間で飲食のノウハウはあったと話します。ただ、こういうイートイン的、酒場的な雰囲気はまだ始めて間もなく、試行錯誤の最中だそう。

魚屋が営業している間は飲食も可能ということで、朝は9時から営業しています。おそらく興津でもっとも早く飲める店です。

冷蔵庫はまるで角打ちのようです。自分で好きなお酒を取り出し、栓抜きを借りて抜栓します。リターナフル瓶のホッピーバイスハイリキプレーンに趣味を感じます。地元の人には珍しがられて結構好評なのだそう。

瓶ビール(大びん各種600円)を用意して、それでは乾杯!

品書き

飲み物メニュー

樽生ビールはキリン一番搾り。サワー類は各種380円均一。摘果みかんサワーなど地元の農家の協力でできるご当地サワーも要チェック。季節モノなのでタイミングが合えば。

キンミヤ焼酎をシャーベット状にしたシャリキンは、ここ興津にも浸透しています。

ビールは大瓶でアサヒ、キリン、サッポロの3種類。メキシコのテカテビール(360円)など外国産のちょっとめずらしい銘柄もあります。

そして、なによりここは地酒でしょう。藤枝の初亀志太泉喜久酔、焼津の磯自慢、由比の正雪、沼津の白隠正宗。1合480円からと比較的リーズナブルです。

さらに売り切りのお酒も

ほんとにここが魚屋さんなのかと疑いたくなるほど、力強く書かれたお酒の張り紙。定番にはない季節銘柄が多数加わります。

料理の短冊

店頭のお刺身や惣菜、揚げ物はそのままの値段で店内で食べられます。そのほか、居酒屋のように注文してつくってくれる料理がこんなあります。値段はこちらのほうがやや割高ですが、ボリュームもあり、鮮魚料理店のような盛り付けで提供してくれます。

由比の生桜えび(680円)三保のあずきハタ(600円)、海ツボなど魅力的。寿司も握ってくれるそうで、昼食にやってきたワイシャツ姿の会社員風の人たちは寿司を食べています。

さて、何を食べようか迷います。魚屋さんの角打ちって、なかなか経験はありませんよね!

店頭の魚か、調理してもらう魚か

金目刺し(390円)

お刺身は先代の大将の担当。揚げ物や煮魚は女将さんが調理されているようで、4代目はお酒の提供など。

何にしようか悩んだ結果、ここはご当地の高級魚、金目をチョイス。これで390円はとってもオトクです。

お通しの半熟卵と肝煮もいい味です。ここまで来た甲斐がありました。

正雪辛口純米(1合580円)

静岡の地酒から、神沢川酒造場の正雪 辛口純米を。辛いのに旨口、キレがよく魚料理との相性のよさはいうまでもありません。港町の酒蔵なのですから、魚と合わせて真価を感じるというものでしょう。

本かわはぎの煮付け(600円)

しずまえの天然本カワハギ。清水・三保ではよくとれるというカワハギは、まさしく土地の味。

注文がはいってから煮るので少し時間が必要ですが、ゆっくりとした時間が流れる天国のような空間で飲んでいれば、あっという間に感じます。

盛り付けは美しく、決してここが単なる角打ちや店頭売りの魚屋ではないことがわかります。

刺身にもだす鮮度の良さゆえ、身はぷりっぷり。それにあわせ、染みるというよりはまとうようにとろみを付けた煮方はさすが。

梅サワー(取材時サービス品300円)と黒はんぺん揚げ(70円)

梅サワーの梅はバイス(バイスは梅エキスではありません)ではなく、梅果汁をつかった独特なサワー。この日はサービス価格で300円でした。お酒はお試し価格のものが日々加わるなど、飲み物メニューも飽きさせない工夫をされています。4代目、ご商売にかなり熱心です。

駄菓子屋的なチュウハイには、静岡のソウルフード・黒はんぺん揚げがよくあまいす。自分でとって、オーブンでの再加熱もセルフサービス。なんだか、楽しくなってきました。

ハイリキプレーン(270円)

店先でかき氷感覚でハイリキというのもいかがですか。旧東海道を前に見る茶屋のような椅子に腰掛け、ここを行き交った薩埵峠越えの人々に思いを馳せるひととき。

取材時は平日の日中ですが、にもかかわらず昼飲みを楽しみに来るお客さんが続々とやってきて、結構な賑わいになりました。ご近所の方が応援をかねて食事に訪れるだけでなく、夜は近隣のお酒好きの方がどっしりと酒場利用をされているそうす。

東海道本線を途中下車して、奇跡の魚屋角打ちをぜひ体験しに行ってみてください。評価の視点は様々ですが、まれに見る個性的かつ夢見心地の空間でした。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名魚徳
住所静岡県静岡市清水区興津東町629
営業時間営業時間
[月・火・木~日]
2023年4月1日からは、予約ない場合を除き、12:00~20:00
定休日
水曜日
開業年1945年(鮮魚店としての創業年・飲食を提供するようになったのは2020年7月)