荻窪「田中家」酒場の侘びと寂び。静かに浸る昭和の飲み屋遺産

荻窪「田中家」酒場の侘びと寂び。静かに浸る昭和の飲み屋遺産

2021年9月2日

田中屋は静かな店です。木製の引き戸に白い暖簾を掲げただけの店構えは、好きな人にはたまらないでしょう。半世紀続く店で、女将さんが一人で切り盛りされています。集う人は地元の飲み慣れた人ばかり。そっと暖簾をくぐってみませんか。

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白いのれんの向こう側

酒場の魅力は、料理の美味しさか、お酒の酒類か、店主の人柄か。飲食の中でも酒場というのは、口にいれるもの以外のマインド的要素の影響が大きいです。田中屋はそれを改めて考えさせてくれたお店です。

JR中央線の荻窪駅北口に残るヤミ市の雰囲気を色濃く残す荻窪銀座商店街の東端にあります。青梅街道から少しだけ線路側へ入っただけで、このあたりは途端に静かになります。

午後5時になると、明かりが灯るとともに白いのれんが掲げられます。赤ちょうちんのような目立ったものもなく、だれでもウェルカムという店構えではありません。はじめての人はきっと緊張するはずです。

東洋ファンタジーものの物語のワンシーンにでてくるような、いぶし銀かつ要素の多い店内。頭の上にお団子をつくったベテランの女将さんが優しく迎えてくれます。

席は8個ほど。L字のカウンターにきれいに整列しています。

分厚く重厚な杉のカウンターが心地いい。酒場の快適さは椅子よりも、テーブルやカウンターの安定感のほうが影響するように思います。そこにキリンラガーの大瓶を置けば、ほら、とっても素敵。

それでは乾杯!

品書き

ビールは瓶ビールのみ、キリンラガーの大瓶580円、中瓶400円。お酒は昔の呼び名の二級酒が190円、一級酒が300円。一級酒は灘の有名銘柄で菊正宗白鶴から選べます。それにしても、大変にリーズナブルです。焼酎は芋の白波、麦のいいちこ、蕎麦の刈干(各350円)など。

料理は塩鮭(400円)、サンマ開き(480円)、あじ開き(450円)、肉豆腐(330円)、湯豆腐(320円)、じゃがいもベーコン焼き(300円)、ベーコンエッグ(300円)、ニラ玉子焼き(300円)、目玉やき(250円)、豚肉ゴーヤ炒め(400円)、なすピーマンみそ炒め(400円)、アスパラベーコン炒め(500円)、つるむらさきおひたし(250円)、焼き茄子(400円)など。

静かな空間、素朴な美味しさ

なすピーマンみそ炒め(400円)

注文をすると、店の奥の調理スペースで手際よく料理をはじめていきます。長年使い込まれた鍋やフライパンでささっと仕上げた料理は、素朴で優しい雰囲気。とはいえ、これは家庭的というものではなくて、酒場の美味しい肴なのです。

テレビから聞こえる夕方の情報番組の音声をBGMに、お一人の常連さんたちも揃って静かな時間が流れています。

肉豆腐(330円)

豚バラときつね色の豆腐、クタクタになったネギがお酒好きの心をくすぐります。ちびりとつまんでは、お酒をひとくち。

二階堂ロック(350円)

静止した振り子時計、レトロな緑色の冷蔵庫、神棚。お客さんもこの雰囲気に魅了されて訪れる方ばかりですから、店の空気感は常に落ち着きがあります。

派手、映え、特筆する特長、そうした視点だけが酒場選びの要素ではない。改めて酒場の良さを再認識させられる1時間でした。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名田中家
住所東京都杉並区上荻1-4-8
営業時間17:00-22:00(不定休※主に平日に休みがあり、土日も営業していることが多い。店内のカレンダーに休み記載あり)