袋井『しみきん』郷土料理おもろ発祥の店。1950年代、駅前屋台が原点

袋井『しみきん』郷土料理おもろ発祥の店。1950年代、駅前屋台が原点

2021年6月26日

袋井名物「おもろ」とは豚足煮のこと。宿場町の飲み屋街に暖簾を掲げる「しみきん」が発祥の店です。60余年のときを越え、2代目夫婦が守る老舗暖簾をご紹介します。

東海道五十三次で、江戸から数えて27番目の宿場町「袋井」。京と江戸を結ぶ大動脈で、宿場を数えてちょうど中間地点にあたる場所です。

いまでは街の南を東海道新幹線が最高速度で駆け抜ける袋井ですが、江戸時代の宿場の賑わい、そして明治以降、汽車が走っていた頃の袋井駅前の賑わいの面影は、いまも色濃く残っています。

現在は浜松都市圏の一部となりベッドタウン化が進んでいます。そうした街の中にも、駅前や旧本陣周辺にはレトロな飲食店が点在しています。飲み屋街をみるのが好きな私は、路地を左へ右へと心をはずませながら街歩きを楽しみます。

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袋井駅前から5分ほど、古い飲み屋街

JR袋井駅。今回は掛川駅で新幹線から東海道線に乗り換えやってきました。掛川からは1駅です。

駅からまっすぐ向かえば5分ほど。赤い暖簾が目印の「しみきん」に到着しました。どっしりと構えた店構えは「酒場」好きの心をくすぐります。

店内の様子を外から窺うことができないため、敷居の高さを感じるかもしれません。

そうしてくぐった暖簾の先がこんな雰囲気ならば、もうそれだけで笑顔になりませんか。

店は調理場のスペースを大きくつかった構造で、それを分厚いカウンターで囲んでいます。お客さんは黒帯飲兵衛さんだけでなく、地元の若い人の姿もあり、店構えから想像するよりはるかに老若男女に親しまれていることがわかります。

お店を切り盛りするのは、2代目のご夫婦。息のあったやり取りで、お客さんを待たせることなく次々とお客さんの注文に応えていきます。

ビールはアサヒスーパードライ。樽生と瓶の用意があります。せっかくならばと樽生をひとつ。それでは乾杯!

肉料理の店ですが、突き出し(お通し)は地元野菜を積極的に用意しているのだと女将さん。きゅうり、里芋揚げの2皿がだされましたが、どちらもみずみずしくて味も濃いです。

品書き

お酒のメニューはとってもシンプルです。生ビールが500円、瓶ビールは中びんで600円。日本酒のほか、ボトルキープの焼酎が3種類。品書きに書かれていませんが、「しみきん」の一番人気は緑茶割りです。ボトルキープしている常連さんのほとんどが本格焼酎を緑茶で割って飲んでいます。さすがは、静岡県。

初代が浜松の食肉市場からモツを仕入れ、それを汽車を降りた袋井駅前にて、屋台形式で売り始めたのが「しみきん」の始まりと聞きます。いまも品書きは豚モツをはじめとした「ホルモン」系が多く、近隣の飲食店にはない存在感ある料理を提供し続けています。

とくに「おもろ」は、「しみきん」で始まり、その後近隣の飲食店やスーパーのお惣菜に至るまで広まった袋井の名物料理に成長。いまは全国ネットのご当地紹介番組にも取り上げられるほどです。

初代が沖縄の歌謡集「おもろさうし」からネーミングしたのだそう。

「おもろ」に限らず、軟骨のとくにやわらかい部位をつかった「ナンナン」(300円)や、豚のこぶくろを「ふるさと」(300円)と呼ぶなど、個性的な名前がおもしろい。アイデアマンだったのですね。

全国的にかつおの水揚げ港として知られる御前崎など、静岡であがったかつおやまぐろの刺身も用意されています。常連さんのカウンターをみると、皆さんにはお刺身が人気のよう。頻繁に通う方ならば、魚も食べたくなりますもんね。

60年のときをこえて名物を味わう

インパクトある「おもろ」(600円)

おもろとは何か。その答えはお皿を見ればすぐにわかります。豚足の甘煮が、インパクトある姿のまま登場しました。

豚足に限らず、豚の皮の部位は下ごしらえ次第で印象は大きく変わります。街のソウルフードとなった「しみきん」のおもろは、さすがの美味しさ。初代から受け継いだ味付け、製法を守り続けていると聞きます。

表面は飴色に染まっていますが、箸を入れると予想以上にホロホロと身がほぐれ、中からトロトロの肉と脂がでてきます。これを辛めの練り辛子としっかり合わせて頬張ります。あぁ、ほっぺが落ちそう。

緑茶割り

女将さんが毎日大量に沸かして仕込むという緑茶。これを宝酒造の樽熟成を含む甲類焼酎(銘柄はひみつ)をベースにして注ぎ込むと、「しみきん」特製、おもろにあう緑茶割りの完成です。

おもしろいほどに相性がよく、豚モツ系の強い脂の余韻に、緑茶の甘みをあわせて大変心地いい。気がつたら結構酔いがまわっていましたので、飲みすぎにご注意を。※お酒は適量で。

寡黙なご主人と、お客さんとふれあい世間話でもてなす女将さん。そんな様子もまたお酒を進ませてくれます。

ファンが多い、ピーマン肉詰め(400円)

串焼きや、地元のかつお刺しもよいのですが、女将さんのおすすめもあって「肉詰めピーマン」をお願いしました。酒場でつくねを詰めたピーマン焼きを食べる機会は多いものの、「しみきん」ほど特徴があるお店は珍しいです。

ピーマンの中には、ひき肉、玉ねぎなどを詰めた餡がたっぷり。それだけではよくある肉詰めですが、こちらは、まるで小籠包のようにつゆでタプタプなのです。酒や醤油などで味付けされたつゆに肉汁がまざり、これが実にいい味になっています。

東海道宿場町の酒場を巡る上で、欠かすことのできない名店といえる「しみきん」。時を越えて愛されてきた味を、タイムマシンではなく東海道線に乗って味わいに行きませんか。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名しみきん
住所静岡県袋井市高尾町10-17
営業時間営業時間
【火~土】17:00~21:30
定休日
日・月
開業年1950年代