清水「金の字本店」 名物もつカレーはここから。味よし、人よし、名酒場。

清水「金の字本店」 名物もつカレーはここから。味よし、人よし、名酒場。

2019年12月11日

清水の郷土料理「もつカレー」をご存知でしょうか。1950年に創業した「金の字」の初代店主、杉本金重さんが名古屋の土手煮を参考に考案した、モツ串のカレー煮込みです。

創業からまもなく70年、「金の字」は三代目となる杉本要平さんを先頭に、日々大変に賑わっている繁盛店です。

もつカレーの「金の字」は、清水駅前の本店に加え、新清水や静岡駅前にも支店があります。どのお店も暖かいムードの家族経営の店ですが、今回は本店をご紹介いたします。

清水へは、静岡駅からJR東海道線で12分。旧東海道の江戸から数えて18番目の宿場町「江尻宿」として栄えた歴史があります。江戸へ物資を運ぶ拠点だった清水港は、現在は静岡の海の玄関として整備されています。

「金の字」は、そんな清水の町を写した鏡のようでもあります。店内には東海道に関連した通行手形などが飾られています。とれも常連さんが持ち込んだものだそう。

古くても隅々まで手入れがされているきれいな店内。大入の額と相撲番付表に囲まれ、渋くかっこいい空間です。

一枚板のどっしりとしたカウンターがコの字に配置され、その延長に向かい合わせで飲める椅子がいくつか用意されています。

土曜日は観光客の姿が多いそうですが、平日は地元の顔ぶれが並び、飲兵衛たちの井戸端会議の場となっています。柑橘類農家や漁業関係者など、清水の町らしい旦那衆が集まります。常連さんもご主人も明るくて愉快な人々。はじめての人もじっくり飲んでいれば、きっと溶け込めます。

50年通うという常連さんのお隣の特等席に座らせていただいて、さあ、始めましょう。

暑い日も寒い日も美味しいビールでスタート。静岡県焼津市にあるサッポロビール静岡工場謹製の「サッポロ静岡麦酒」が「金の字」の樽生ビール(550円・取材時)。きめ細かな泡を載せたサッポロ流パーフェクト生ビール式で注がれます。では乾杯!

カウンターの角に置かれた巨大な鍋。これこそが清水名物「もつカレー」の根源。これほどカレーがあるにも関わらずスパイシーさを感じず、優しく甘い風味を漂わせています。

生のもつを仕入れ、毎日2時間ほどの時間をかけ、約200本を仕込むそう。それでも開店から1時間もすればだいぶ嵩(かさ)が減り、閉店を前にして品切れになることもしばしば。

もつカレー(1本150円)。串打ちされたモツが飴色のタレをまとっている様子は土手煮そのもの。ただし、香りはビターなカレー風味です。

クサミは皆無。とろみと弾力のほどよいバランスで、噛むほどに旨味がでます。家庭で食べるカレーをよりコク深く、マイルドにしたようなカレーのタレは、あと引く美味しさ。1本だけでは到底我慢できません。

もつカレーは、ビールと一緒に供されるほどのスピードメニューです。まずはこれをつまみつつ、焼鳥の焼き上がりを待つというのがスタンダードな楽しみ方だと常連さん。香味野菜で漬け込んだ豚をグリルした、ちょっぴりおしゃれな「ポーク焼き」など、主役級が豊富に用意されています。

焼鳥にあわせるビールは、おなじみの赤星ことサッポロラガーで。東京で頻繁に見かけるサッポロビール千葉工場製ではなく、この日提供されたものは静岡工場製のものでした。

希少な昔のサッポロ印のビヤタンで飲む赤星が格別です。ビール銘柄は、長年一途にサッポロの店。

おまちどうさま!三代目がじっくり焼き上げた焼鳥(150円・1本単位で注文可能)の登場です。黒七味を脇に添えて、いただきます。さらりとした甘タレをまとった焼鳥は、左からとり串、あか焼(脾臓)、しろ焼(ミノ)の人気者兄弟。常連さんイチオシで、早いものがちの一品です。

合わせるお酒はこれがいいと三代目の提案は、清水区由比のお酒「正雪 純米」(神沢川酒造場)。慶安の変の首謀者として歴史ファンに人気の由井正雪が銘柄の由来です。

濃厚な味で飲みごたえがあり、余韻の旨味もどっしりときます。もつ焼き、焼鳥との相性が抜群にいいお酒です。

すべて自家製で、その日の分はその日の開店前に、新鮮な肉を家族総出で仕込むという「金の字」。ねぎまやツクネ(各180円)などの定番の焼鳥も非常に丁寧に作られていて美味しいです。

静岡といえば、お茶。金の字でも緑茶割りは人気で、もちろんお店でだした特製の緑茶を割材に使用しています。いまでは全国的に酎ハイのベースといえば甲類焼酎が広まってきましたが、金の字は昔からずっと麦焼酎をベースに使っているとのこと。福徳長酒類の麦焼酎の甘さと緑茶の旨味が重なり、飲み心地はとてもよいです。

港町・清水は漁港から揚がる新鮮な魚介類を提供する居酒屋も多くありますが、だからこそ、地元の人には「金の字」がはまるのでしょう。

「日本中のもつで一番食べやすいモツのは?」ともつを苦手とする人に聞かれたならば、私は悩むことなく「金の字」のもつカレーを紹介します。

「店の雰囲気は大将の人柄がでる」、とはよく言ったもので、誰からも好かれるご主人の人柄が反映された素敵な酒場です。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

金の字 本店
054-364-1203
静岡県静岡市清水区真砂町1-14
17:00~21:00(日祝定休)
予算2,500円

一部誤記修正