茅場町の交差点に面したビルの地階にある「茅場町 長寿庵」は、創業は1907年(明治40年)という百年続く老舗蕎麦店です。5代将軍、徳川綱吉が江戸を治めていた頃に誕生した「長寿庵」の系譜にあります。
江戸時代、蕎麦屋は今以上にお酒を楽しむ場所だったと言われています。蕎麦の前にお酒を飲むから「蕎麦前」と言われ、「だし巻き」や「板わさ」などが定番として親しまれてきました。
また、蕎麦屋ならではのおつまみとして、温かい蕎麦の蕎麦そのものを抜き、つゆに浸った具材で飲むという蕎麦屋泣かせな楽しみ方もあります。蕎麦は伸びてしまうけれど、鴨や天ぷらで飲みたいというときに頼む料理です。お店によっては裏メニューということもあります。
今回ご紹介する茅場町 長寿庵は昔から「飲める蕎麦屋」として知られており、ここでも天ぷらそばの抜き「天抜き」が人気です。
証券関係者から近隣住民まで集う店
階段を降りていくと、シックな入口が見えてきます。ちょっとした商談などにも使える雰囲気です。日常の食事処として近隣に暮らす人々も訪れます。
蕎麦屋は早速日本酒という方もいらっしゃいますが、やはり喉を少し準備させておきたいもの。樽生ビール(中650円)はアサヒスーパードライと、かつて新川に本社があり、現在も東京支社が茅場町にあるキリンビール社の一番搾りの2種類を揃えています。
瓶ビールでは同キリンクラシックラガーと、サッポロは黒ラベルも置いて3社揃え。
老舗には歴史ある味を、昭和40年代のキリン味を今に伝える熱処理ビールのキリンクラシックラガー(700円)。
柿の種がついてきます。ビアタンにトクトクと注いだら、乾杯です。
日本酒は東京の老舗らしい、灘の下り酒「菊正宗」が定番です。蕎麦屋ならではの飲み方「蕎麦焼酎のそば湯割り」も注文可能です。
蕎麦はせいろ750円から。鴨とじやおかめなど、老舗らしい品揃えです。蕎麦前はわさびかまぼこ『いたわさ』(750円)、やきとり(850円)、そばがき(1,350円)などが特製品として書かれています。
豊富な蕎麦前は昼営業でも注文可能
さらにテーブルメニューで蕎麦前が加わり、豊洲からのまぐろ刺しやしめ鯖(1,400円)、めごち天ぷら(1,400円)、さらにかつ煮(1,300円)など豪華な内容です。
こちらは手頃なおつまみで、その筆頭に今回の目的「ぬき」があります。あい焼き(鴨塩焼)やくりから焼き(うなぎ)など、品数は多く、夜は近隣に勤める人やご近所さんの居酒屋としても使われています。
職人技、浮いた天ぬき
天ぬき(1,250円)。ひたひたにそばつゆに浸った天ぷらは、見るからにお酒が誘われる逸品です。お椀の中に蕎麦は入っていないのに、天ぷらはさほど沈むことがなく姿を保っているのは、まさに職人技。
季節の野菜に大海老が2本。そばつゆには脂が浮いておらず、透明感があることに驚きます。
これをれんげでそっと掬いだし小鉢に移しつゆを継ぎ足せば、思わず顔がにやけてしまいます。と同時に、少し背筋が伸びるような感覚もあります。
菊正宗(700円)のぬる燗をお猪口へ注ぐ。そして、“シタシタ“の衣をまとった海老を丁寧に味わい、その出汁の余韻が消えないうちにすかさずお猪口を口へ運びます。
昼営業の間でもぬきを楽しむことができます。さすがに昼食時の混雑時は避けるべきですが、少し時間をずらして、のんびりお昼酒を楽しむのも、蕎麦屋ならではの楽しみ方です。
東京駅から徒歩で来れる距離ですから、遠方から東京にお越しの際に、遅めの昼食兼お昼酒として立ち寄られることもおすすめです。
東京の蕎麦前文化を味わう場所
天抜きでお酒を楽しんだあとは、せいろなどで蕎麦を楽しむものですが、ぬきやその他の酒の肴だけ食べる利用ももちろん問題ありません。
品書きには鴨ぬきと天ぬきのみ記載されているものの、温蕎麦はほぼすべて抜くことが可能とのこと。おかめ綴じのぬきなども美味しそうではありませんか。
老舗の味に、ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | かやば町 長寿庵 |
住所 | 東京都中央区日本橋茅場町1-9-4 |
営業時間 | 営業時間 [月~金] 11:00~15:00 17:00~21:30(LO21:00) [土] 11:00~15:00 17:00〜20:00 ※2023年は、1/6より通常営業致します。 定休日 日・祝日・第3土曜 |
開業年 | 1907年 |