盛岡「おばちゃん」 御菜園の小さな酒場で、土地の肴に出会う。

盛岡「おばちゃん」 御菜園の小さな酒場で、土地の肴に出会う。

2018年7月19日

盛岡の繁華街は大通と菜園。菜園はその名の通り、江戸時代は御菜園と呼ばれ、その名の通り旧盛岡城主・南部家の菜園だった場所です。チェーン店が目立つ中、飲食ビルや細い路地にはいると昔ながらの酒場が変わることなく提灯を灯らせており、北東北の夜を楽しませてくれます。

ここで44年続く老舗、炭火焼きの店「おばちゃん」をご紹介します。

1982年の東北新幹線 大宮・盛岡間の開通時に建て変えられた盛岡駅。壁面には石川啄木の筆跡による「もりおか」の文字が刻まれています。

駅から大通・菜園へは次々やってる路線バスで数分の距離です。地方都市によくある中心街と駅の位置関係ですが、盛岡は途中に北上川が流れ、開運橋というなんともご利益のありそうな橋を渡るため、いつも以上にワクワクします。

菜園・大通は細い路地が入り組んでおり、横丁好きならば楽しめること間違いありません。入り組んだ路地を探索すると、突然、名門オーセンティックバーに出会ったりするのです。

「おばちゃん」はそんな盛岡の横丁で静かに営業する老舗暖簾です。

暖簾をくぐると、幅のあるL字カウンターと角に配されたショーケース、そして炭火台が目に入ります。8席の小さなお店で、静かに飲む紳士が似合う店です。

品書きはとくにありません。女将さんと会話のなかで選んでいきます。だいたい3,000円台の予算と思っていればよいので、さほど心配ご無用といったところ。

生ビールは状態のいいキリン一番搾りが注がれました。岩手といえばビール原料であるホップの産地で知られる遠野があります。北東北でもビールが美味しい。乾杯!

炭火焼きがメインで、その他小鉢やお刺身など、その日のよいものを揃えています。まずはまぐろの刺身と郷土料理のひっつみ汁が登場。女将さんによる、ゆったりとした裏表のない盛岡弁での解説とともに供される料理は、もうそれだけで飲みに来た価値を感じます。

ひっつみ汁は水団汁の一種ですが、餃子の皮のようにモチモチしているのが特長です。あぁ、ほっとする…

漬けまぐろとも違う、醤油の浅漬けという感じのまぐろ。三陸沖は世界三大漁場とも呼ばており、食卓に上がることが多いと教えてくれました。

三陸の幸といえばホヤも忘れてはいけません。海女さんが潜ってとったものとのことで、新鮮ぷりぷり、海の旨味がシンプルに広がり、それが猛烈にお酒を誘います。

さて、なにか焼いていただきましょうか。

いわしからまさば、つぼ鯛、さんまにのどぐろと、季節によって入れ替わるとのこと。ボリュームがあると食べきれないですし、予算もあるのでこのあたりも女将さんと要相談がよいかと思います。

さば味醂干しをじっくりと焼いてもらって、生貯蔵の日本酒をひとつ。あさ開や鷲の尾を置いています。寒くなったら燗酒をつけてもらってちびちび飲むのも幸せになりそうです。

店内に漂う炭火で燻される魚のいい香り。摘んで食べて、女将さんとのゆったり会話を楽しんでいると、あっという間に時間が経ってしまいます。

いまの女将さん(おばちゃん)は2代目だそう。おばちゃんが切り盛りする、東北のぬくもりを感じるいいお店。お客さんも地元の方が多く、旅情を感じることでしょう。

菜園で飲む際、ふらっと覗いてみてはいかがですか。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

炭火焼 おばちゃん
019-652-2811
岩手県盛岡市菜園2-4-14
17:00~23:00(日祝定休)
予算3,000円