鳥取「美海」 山陰まで来てよかった!地元の人が活魚・活蟹を目指して集う店

鳥取「美海」 山陰まで来てよかった!地元の人が活魚・活蟹を目指して集う店

2018年3月9日

冬の味覚の王様と呼ばれるズワイガニ。越前がにや松葉がにの愛称で親しまれ、日本海側を代表する海産物です。

高級食材のイメージや観光の看板商品となることから大衆酒場とは無縁に思われるかもしれませんが、産地では日常的に親しまれてきました。兵庫や鳥取では解禁日となる11月から3月にかけて、酒場の品書きでひときわ輝いています。

今回は、観光向けではない地元の人御用達の大衆酒場で食べるズワイガニをご紹介します。

 

目指すは鳥取駅から北へ200mほどに位置する鳥取・弥生町 。古き良き地方都市の歓楽街で、居酒屋や割烹、スナックなどが立ち並びます。

街の玄関である駅と、県庁や市庁舎の間にある典型的な歓楽街で、たとえ吹雪いていようとも、暖簾の隙間を覗けばメートルを上げたお父さんたちの姿がみえ、スナックからは80年代のヒットソングが聞こえてきます。

 

地元の魚好き御用達の酒場「美海」が本日の酒場。

 

カウンターではご隠居さんや飲み好きのサラリーマンが刺身を肴に日置桜で一献を満喫中。座敷ではスーツ姿の男女数名が若松葉に夢中です。

 

お酒は瑞泉(鳥取県岩美郡岩美町)、諏訪泉・満天星(鳥取県八頭郡智頭町)、鷹勇(鳥取県東伯郡琴浦町)、香住鶴(兵庫県美方郡香美町)と地酒が揃い踏み。ビールは樽生がサントリーザ・ザルツ、瓶ではアサヒスーパードライ。

 

吹雪の町でも、酒場はあったか。緊張をほぐす一杯は生ビールで。ザ・モルツで乾杯!

 

早朝に市場へ足を運び自ら選び仕入れてくる、大将の目利きが光る品揃え。冬の日本海は荒れる日も多く顔ぶれは天候次第。「今日はいい日に来たね!」と常連さん。ズワイガニの山陰での呼び名「松葉がに」に剣先イカ、のど黒にカレイ。

寒鱈の白子やバイ貝が500円前後という安さも注目です。

 

定番の品書きも食べたくなるものばかり。安く飲むならば180円のめざし焼きですが、よりどりみどりでお財布の紐も思わず緩みます。

 

生け簀には活魚・活松葉。よいものが入らない日は品書きに載せないとこだわる大将が、今日は自慢の1匹をみせてくれました。暴れる活きの良さ。一匹単位で購入し、食べ方は大将と相談も可能。

そして、値段が飲食店の価格で驚きの一匹4,000円。活松葉の一般的な小売価格より安いのです。これぞ地元力。

 

「少し刺身にしますか」と大将。茹でる前に脚3本を刺身にしてもらいました。手際よく包丁でトンと落とし、殻をむいて氷水につけます。すると身が花を咲かせたように広がります。

 

カニ酢もあるけれど、醤油を風味付け程度にして豪快に頬張ります。

 

甘みとかにの深いコクがズーンと頭に響く。活がにだけの特別な食べ方、かに刺し。この一口で鳥取まで来た価値は十分です。

 

刺身には繊細な味に寄り添う冷酒で、ねっとりした余韻を心地よく整えていきます。

 

脚を刺身で食べている間、活きた状態でそのまま浜茹でされた松葉がに。鮮やかなだいだい色になりました。右の爪についたタグは隣町・浜坂漁業組合のお墨付き。ずっしり重たい。

このまま飾りもなく大皿に盛られているあたりが、地場の飲み屋の豪快さ。

 

いざ!

逆さまにして後部から甲羅を開きつつハラを左右に。大量のミソがどっと流れ出し、ふんわりとかにの甘い香りに包み込まれます。

 

ハサミやカニフォークはあまり使用しません。この界隈の人はみんな松葉ガニの食べ方を知っています。

手際よく関節から外し、細い先端の末節を太い基節側にくいっと差し込みます。

 

するとおもしろいほど簡単に、付け根側へ身がところてん式に出てきます。これさえマスターすれば、かには面倒なく食べられる食材になり、会話も続きます。たしかに常連さんたちは皆さん、かにを前にして会話が盛り上がっています。

 

私もこの通り、ちゅるりと。活がにの味の濃厚さは段違いで、そのまま食べてれば口いっぱいの深みのある甘さが広がり、磯の風味がすっと香ります。

 

甲羅に貯まるかに味噌に浸して食べれば、さらにコクが増します。ほっぺがとろけるというのは、まさにこういうこと。

 

美味しいかにを前にして、お酒を控えられるでしょうか。諏訪泉の冷酒をすかさず口に運び、至福のひととき。

 

先端まで隅々食べて大満足。それにしても身の詰まりがいい。

 

燗酒をもらって、〆は松葉がにの甲羅酒。生臭くなりがちな甲羅酒も、活がにの茹でたてとあれば間違いない美味しさ。ふぐ酒、白子酒、甲羅酒、はまると抜け出せない旨味のお酒です。

 

松葉がにで大満足の夜。こちらは他の鮮魚も魅力いっぱい。かにだけか美海ではありません。のど黒のお刺身(780円)と本モサエビ(850円)。日本海の高級魚ののど黒も活造りでこの値段。軽く皮を炙るなど丁寧な仕事がされています。

本モサエビは猛者海老と書く幻のエビ。漁師のノンベエさんはドロエビと呼ぶ鳥取の隠れた逸品です。甘エビよりも甘く、ぶりぶりとした食感がたまりません。

 

「こっちのカレイも美味しいから紹介して!」と常連さん。カレイ刺し(750円)。透明感ある肌に光のある目。ふんわり広がる花のような香りと旨味で、こちらも格別の美味しさ。

日本海側の地場飲み屋を巡ると、こういう地元の人たちの間で大切にされているお店に出会うことがあります。お客さんとお店の双方の信頼関係もあるからできる安定の仕入れとそれによる手頃な価格。

夫婦二人三脚で守る暖簾の向こう側、覗いてみてはいかがでしょう。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

美海
0857-24-4188
鳥取市弥生町388
18:00~24:00(日定休)
予算3,000円