武蔵小金井『大黒屋』昭和30年創業、ムサコの名酒場で千福に浸る

武蔵小金井『大黒屋』昭和30年創業、ムサコの名酒場で千福に浸る

2016年8月31日
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昭和30年創業「大黒屋」、武蔵小金井に60余年続く名酒場です。駅は中央線の高架化ですっかり姿を変えてしまいましたが、駅前も大きく変化していることに驚きます。こんなところにマンションがあったっけ?と、浦島太郎のような気分で駅前ロータリーを歩きます。西友がある建物は昔のままですが、以前は長崎屋でした。本当に東京の街は僅かの間に大きく姿を変えますね。

小平駅行きの西武バスのバス停に並ぶ家路につくお父さんたちの後ろを通り過ぎ、商店街を北へ少し歩いてすぐの場所。昔のほうがもっと個人居酒屋があったような気がするけど、雰囲気がかわったなーと思いつつ、角を曲がります。

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見えてきました、大黒屋。「今晩のんで明日は仕事」というフレーズがいかにも大衆酒場です。一軒家の酒場でしたが、いまは老舗大黒屋ですらマンションの一階に移動しています。

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酒王千福の文字に惹きつけられます。

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移転しても老舗酒場の雰囲気はそのまま。扉をはじめ多くの部材に一軒家時代のものを再利用しているそうです。

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店内は厨房を囲むL字カウンターと、その対面は8人ほど座れるテーブルが川の字で並びます。一人客から4人くらいのグループまで、みるからに酒場好きという感じの常連さんたちが楽しそうに過ごされています。新築マンションの中とはまったく感じさせない内装はお見事。老朽化と再開発に悩む老舗酒場は、こういう形で次の時代に繋いでいって欲しいですね。

ビールはキリン、日本酒は定番が千福、地酒もいろいろ、チューハイは博水社のハイサワーという顔ぶれ。

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瓶ビールはキリンクラシックラガー、取材時はキリン秋味も入っているので瓶ビールから始めよう、注文する直前までそう思っていました。でも、カウンターに座る常連風の老夫婦が飲んでいた生ビールが「これはいい生」というオーラを出していましたので、一番搾りの生(550円)に決定。

カウンターの一番奥、テレビ下に座り、期待どおりの完璧な生をもらって、では乾杯!

昔の生ビールサイズが嬉しい。500mlジョッキ以上推進派です(笑)

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スタッフは若い方もいらっしゃるのですが、皆さん大変きっちりとした接客をされていて、実に心地いい。いくつか注文を通して、まずは冷奴(250円)からいただきます。

たっぷり薬味、カイワレとおろし生姜が添えられた、これまた素敵な一皿です。豆腐は固くて大豆の味がしっかりある立派なもの。暑さが残る今の季節に、大変素敵なおつまみです。

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おつまみは150円から450円でわかりやすく整理されて並んでいます。お刺身や焼き魚、酒の肴にぴったりのおつまみが充実しています。珍しく揚げものがありません。もつ焼きは頭、胃袋、白、タンなど揃いますが、もつ焼き専門というわけではなく、いい塩梅でいろいろつまみに楽しめます。

名物はくさやだそうですが、カウンターで一人くさやというのはどうも躊躇してしまいます。隣の女が臭いって思われたくないですから(笑)

つくね2本300円をもらって、日本酒は千福(300円)へ。自家製のつくねは、粗びきでこりこりとした食感と、重ね漬けして焼いていく照り感たっぷりの甘たれの味が絶妙なバランス。まさに、こういうものこそ絶品です。

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千福は1850年代創業の呉の老舗、株式会社三宅本店がつくる銘酒です。いま風のお酒とは違う、昔からの甘くてすっきりした味ですが、これこそイイ酒場で飲む酒という感じ。

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まる干しを焼いてもらって、店内には香ばしい旨味の香りが漂います。店内はテレビが控えめな音を鳴らしているだけで、お客さん同士も静かに飲まれていて大変落ち着いた感じです。照明の度合いも絶妙。久しぶりに古典的な酒場の空気を味わえることが嬉しい。

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やや強めの塩気とぎゅっと引き締まった味わいが、手元のお酒をあっという間に空にしてしまう鰯丸干し。こりゃたまらんということで、樽酒(400円)は升にはいって供されます。受け皿に僅かに流れるも、飲兵衛の心をくすぐる表面張力の美しいビジュアルが目の前に。お酒好きがこれで笑顔にならないはずがありません。

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昔の風情や味わいをそのままに、普段から使える価格設定と、飲兵衛の心を鷲掴みする肴の数々。一日の「おつかれさま」を楽しむのには十分過ぎる名酒場ではないでしょうか。今晩のんで明日は仕事というお店のフレーズの通り、翌日もがんばろうとい思える素敵な酒場です。

中央線通勤の皆さん、今夜は途中下車してみてはいかがでしょう。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

大黒屋
042-381-2600
東京都小金井市本町5-17-20-101 1F
17:00~22:00(日祝定休)
予算2,000円