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東京で「外食券食堂」という名を聞いたことはありますか?戦中の食糧難のとき、米は配給制になり、外食も行政の管理下となり、そのときに利用できる食堂として東京都に指定された食堂が外食券食堂です。その後、民生食堂と名前を変え、いまも大衆食堂として東京の各地に点在しています。そこで飲むのも楽しいのですが…
今回は、それの神奈川県版。戦争に突入しお酒が配給となり、酒場に販売されるお酒の量が大幅に減ってしまいそれでは商売にならなくなり、酒場は密造酒や闇酒を売って商売をしていました。それではいけないということで、神奈川県が酒場のあり方を主導することになり、酒場は統合され「市民酒場」として行政の管理下にはいりました。闇酒を扱えなくなる代わりに、市民酒場は一人一合を売れることとなり商売を続けてきました。
最大で200店を数えた市民酒場も、統制が終わり、その後の外食ニーズの多様化や経営者の高齢化などによって店は減っていき、店名が変わったり酒屋に転業するなどして、いま市民酒場という名が残っているのはわずか数軒となりました。
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今回ご紹介するお店は、そんな市民酒場の文字が今も残る貴重な飲み屋「みのかん」です。大衆酒場好きは一度は耳にしたことがある名前ではないでしょうか。京急電鉄の神奈川駅から徒歩7分ほど。界隈には他に飲めるお店はなく、ただ一軒ぽつりと建っています。
口開けは朝10時。閉店はおどろくほど早く20時には看板です。
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営業日、営業時間に来ても開いていないこともたまにあり、ここまでやってきて暖簾がかかっていないときのがっくしは何度経験したか。それもまた魅力でした。
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縦長のカウンターとテーブル席の酒場によくある造り。天井が高く、銭湯の休憩部屋のような雰囲気。店を広く感じさせる大きな鏡と、カウンターの向こうの厨房の空間が隙間から見えて、席につくと想像以上に広く感じます。
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お酒はハイボール、酎ハイ、清酒、ウーロンハイの4種に加え、キリンラガーの小びん・大びんが揃います。
食べ物もカウンター壁にかかった短冊の10種類程度で、そのどれもが昭和のままの価格で止まっているよう。このつまみは売り切れたり仕入れがあると入れ替わるので、毎回同じとは限りません。名物と言われている煮込みも日によってはやっていません。
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ウィスキーハイボールをもらって、まずは乾杯。たっぷり濃いハイボールは、キリン傘下メルシャンのOAK MASTERを使っています。ここでしか飲まないウィスキーですが、店の雰囲気はぴったり。
お通しはおでん。小鉢に入った練り辛子を好きなように皿に塗り、いただきます。おしんこ、タコ刺身をもらって、今日のお昼酒は色合いがいい感じに。
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とにかく濃いウィスキーとちくわぶを食べていると、みのかんだなぁとしみじみ感じます。タコ刺身は切り方が厚くでたっぷり。程よい塩気のせいか、ウィスキーのペースを保ちます。
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シングル(260円)でこの濃さなのですから、怖くてダブルは頼めません。と思っていたら奥に座られていた神奈川新聞を呼んでいる常連さんはダブルで飲んでいるみたい。流石、飲み屋の男はカッコイイ。
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カウンターに並ぶ炭酸は神奈川飲料KK。青い王冠と黄色のP箱の組み合わせこそ、横浜の炭酸ね。
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そんな炭酸を使う酎ハイは340円。氷屋でつくられる気泡がない美しい氷は注文の前からグラスに入れられて角を落としている。同時にグラスも冷えるから一石二鳥。注文が入るとまってましたと大将の手によってビアタン一杯分が注ぎ込まれます。
炭酸を入れずに9割り近く満たされたグラス。ここに注ぐ炭酸は先程の神奈川飲料の炭酸ハイピッチ。とにかく濃い。頭がぼーっとしてきます。曇りガラスから緩やかに入ってくるお昼の日差しと合わせて、目の前が霞んできます。
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炭酸は追加で頼めるのですが、いやいや、大衆酒場好きとしては焼酎と炭酸の割合は1:1が嬉しいです。
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ゆでたまご(150円)は二個でてきます。年季の入ったカウンターの角に一撃してカパっと割って食べれば、お店の雰囲気もあって、楽しくて笑顔になります。そこに合わせるは、地元生麦で作られているキリンラガー。みのかんのカウンターにキリンラガー。横浜の酒場を象徴するようで画になります。
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穏やかな時間が過ぎていくみのかん。店内はBGMやテレビもなく、大将と女将さんのやりとりが聞こえるほかは、常連さんの新聞をめくる音と、そして各自の手元にある炭酸飲料の気泡の音。静けさの中で飲むお酒は心を優しく包んでくれるよう。
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お隣の常連さんは横浜で夜勤明けの日は必ずここに来るのだそう。早い時間からやっているお店には、それを必要としているお客さんがやってきます。みんな穏やかにお昼のアンニュイ時間を楽しんでいて、そのひとときを共有できるのが幸せです。
ぜひ、みのかんは早い時間に飲みに来てみては。ごちそうさま。
市民酒場について
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(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
みのかん
045-461-6618
神奈川県横浜市神奈川区青木町10-13
10:00~20:00(原則水日定休)2018年、閉業となりました。
予算1,300円