神保町『神田錦町更科』創業明治2年!鰹だし香る漆黒のつゆが決め手の絶品天せいろ

神保町『神田錦町更科』創業明治2年!鰹だし香る漆黒のつゆが決め手の絶品天せいろ

夕暮れの神保町界隈は、老舗の灯りがともりはじめ、なんとも良い雰囲気に包まれます。カレーの街として有名ですが、歴史ある居酒屋や喫茶店、大衆中華も多く、そしてなにより老舗蕎麦屋が密集する地域でもあります。そのひとつ、今回は明治初期から続く『神田錦町更科』をご紹介します。

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再開発の進む街に佇む、歴史の証人

神保町駅から少し歩き、オフィス街である神田錦町へ。再開発による高層ビルの建設が進むなか、そこだけ時が止まったかのような堂々たる木造建築が目に飛び込んできます。大きな提灯に、藍色の暖簾。料亭かのような風格ある構えが『神田錦町更科』です。

創業は明治2年(1869年)。その源流は、江戸蕎麦の最高峰として知られる麻布永坂「更科」(現:総本家更科堀井)にあります。驚くべきことに、総本家から正式に分店を許されたのは、この『神田錦町更科』が唯一とのこと。

近年、都市再開発の波にのまれそうになりましたが、代々暖簾を守る一家の強い想いがあり、今もこの場所で歴史を紡いでいます。まさに神田の街のランドマークといえる存在です。近年は、店を守り続けてきた店主さんがSNSで老舗を守るとはどういうことかを発信されています。

木の扉を開けると、女将さんがにこやかに迎えてくれました。店内は民芸調でまとめられた、温かく心地よい空間。外観の威風堂々とした姿とは少し異なり、20席ほどのこぢんまりとしたアットホームな雰囲気が広がります。

粋な蕎麦前と、江戸の香るつゆ

まずは「菊正宗」のお燗をお願いしました。少し待って運ばれてきたお酒は、芯からしっかり温まっています。きっと湯煎でじっくりと燗をつけてくれているのでしょう。こういうひと手間が嬉しいものです。

菊正宗:700円

キリッとした辛口の菊正宗が、冷えた体にじんわりと染み渡ります。

海老天ぷらせいろ:2,000円

おつまみも兼ねて注文したのは「海老天ぷらせいろ」。

大きな海老が2本に、舞茸、ナス、ししとうと季節の野菜も添えられています。衣はサクッと軽やか。塩も用意してくれるので、まずは海老天を塩で一口。

ぷりっとした海老の甘みに、熱々のお燗をきゅっと流し込む。心地良い時間です。

いよいよお蕎麦へ。家紋が描かれた漆塗りのせいろうが、正統派の風格を感じさせます。

やや緑がかった細打ちの蕎麦は、見た目にも美しく、しっかりとしたコシと喉越しが楽しめます。

そして何より特筆すべきは、つゆの濃さです。鰹出汁がグッと効いた、輪郭がはっきりとした味わい。これぞ江戸の蕎麦という力強さです。ただ塩辛いだけでなく、出汁の濃厚な旨味が記憶に残ります。蕎麦の先に少しだけつけて啜れば、蕎麦の繊細な香りとつゆの風味が一体となって口の中に広がります。

最後の楽しみである蕎麦湯でこのつゆを割ると、驚くほど出汁の香りがふわりと立ち上り、最後までその深い旨味を堪能することができました。

伝統と遊び心が生み出す多彩な魅力

『神田錦町更科』の魅力は、伝統的な蕎麦だけではありません。週替りで数種類も登場する「変りそば」は、苺やトマト、柚子といった季節の素材を練り込んだ独創的なもの。また、名物の「しょうが天」や「カレー汁せいろ」といったメニューからも、老舗の看板に安住しない探求心がうかがえます。

皇室御用達であったという格式高い歴史を持ちながらも、決して偉ぶることのない、この遊び心と親しみやすさこそが、150年以上にわたって多くの人々を惹きつけてきた理由なのでしょう。

歴史ある老舗の蕎麦は、やはり心地よい。心もお腹も満たされ、またひとつ、神田という街が好きになりました。

店舗詳細

品書き

季節のオススメ ※9月取材
冷たい蕎麦
天ぷら蕎麦と肴・お酒
店名神田錦町 更科
住所東京都千代田区神田錦町3丁目14
営業時間11時00分~14時00分
17時00分~18時30分
土は昼のみ
日祝定休
創業1869年