ベルリン『Dicke Wirtin』激動の20世紀を見守った老舗で、豪快アイスバインに乾杯

ベルリン『Dicke Wirtin』激動の20世紀を見守った老舗で、豪快アイスバインに乾杯

ビールの都、ベルリン。奥深いビアホール文化を体験して、普段の酒場めぐりに活かしたいと思い、ドイツの首都へ勉強にきました。お目当ては、地元の人々に愛され続ける老舗『Dicke Wirtin(ディッケ・ヴィルティン)』。名物の豪快なアイスバインと伝統のビールを味わいます。

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旧東ベルリンからバスに揺られ、古き良き西の酒場へ

Alexanderplatz(アレクサンタープラッツ)から見上げるベルリンテレビ塔

ベルリンの宿は、旧東ドイツの象徴的な広場、アレクサンダープラッツ(広場)の目の前にとりました。

ここから黄色い市バスに乗り込み、目指すは旧西ベルリン、動物園(Zoologischer Garten)にも近いシャルロッテンブルク地区。

ポツダム広場に残されたベルリンの壁(Berliner Mauer) ここを越えると西ベルリン
ベルリン動物園駅(Zoologischer Garten)周辺
動物園の入口はなぜかアジアンテイスト

東西統一から35年が経った今も、車窓から見える街並みはエリアごとに表情が異なり、興味は尽きません。

目的の『Dicke Wirtin』は、洗練されたザヴィニー広場近くの閑静な通りに、昔ながらの姿で佇んでいました。モダンな建物が並ぶ中で、ここだけ時が止まったかのよう。

創業は1930年。一歩足を踏み入れると、そこはまさにタイムカプセル。木の温もり、壁を埋め尽くす無数の写真や骨董品、そして何より人々の陽気なざわめきが、心地よく迎えてくれます。

犬の散歩ついでの一杯、仲間との語らい、買い物帰りの休憩と、訪れる目的は様々ですが、驚くのは昼間からほぼ全てのテーブルにビールジョッキが並んでいること。さすがはビール大国、日常にビールが溶け込んでいます。

この店の名は、創業者であるアンナ・シュタンシェック、元祖「Dicke Wirtin(太っちょ女将)」への敬意を表したもの。

学生や芸術家たちを分け隔てなく受けとめてきた初代女将の「ぶっきらぼうながらも温かい」精神が、今もこの店の空気を作っているように思います。日本人にも優しい。

聞けば、1960年代には学生運動の拠点にもなったそうです。「映像の世紀」(NHK総合)に登場しそうな雰囲気。

これぞ本場の味!拳二つ分の巨大アイスバイン

さて、お目当ての料理とビールを注文しましょう。まずは、この街のビールから。

ベルリナー・キンドル ユビロイムス・ピルゼナー:4.30€

冷戦時代、西ベルリンの象徴だったという「ベルリナー・キンドル」。中でもこの「ユビロイムス(記念)」と名付けられたピルスナーは、1987年のベルリン市制750周年を記念して造られた特別な一杯です。壁が崩壊する2年前に、分断された都市の歴史を祝ったビールだと思うと、その黄金色の輝きが一層感慨深く見えます。すっきりとした喉越しと上品なホップの香りが、旅の渇きを癒してくれます。

それでは、乾杯!

アイスバイン(Eisbein):14.90€

そして、メインディッシュの登場です。目の前に置かれたのは、こぶし2つ分はあろうかという巨大な豚すね肉の塊。その迫力に、思わず声が漏れます。

ベルリンの伝統料理であるアイスバインは、塩漬けにした豚すね肉を、ハーブと共にじっくりと茹で上げたもの。皮をカリカリに焼き上げる南ドイツの「シュヴァインスハクセ」とは、調理法が全く異なります。

ナイフを入れると、驚くほど柔らかい肉が骨からほろりと崩れ落ちます。口に運べば、しっとりとした肉の旨味と、ゼラチン質になった皮のぷるぷるとした食感がたまりません。

伝統的な付け合わせであるザワークラウトの酸味、そして優しい甘さのエンドウ豆のピューレが、濃厚な豚肉の脂を見事に調和させてくれます。ピリリと辛いマスタードを少しつければ、味が引き締まり、次の一口、そして次のビールが欲しくなります。

濃厚な肉に寄り添う、もう一つの物語を持つビール

この力強い料理に合わせる二杯目は、南ドイツ・バイエルン地方のヴァイツェン(小麦ビール)を選びました。

シュナイダー・ヴァイセ:5.20€

1872年創業の醸造所のビール「シュナイダー・ヴァイセ オリジナル」。衰退していたヴァイツェンを絶滅の危機から救ったという、歴史的な醸造所の小麦ビールです。ピルスナーとは対照的な深い琥珀色で、グラスからはバナナやクローブを思わせる複雑で豊かな香りが立ち上ります。

アイスバインの濃厚な旨味と塩気を、このビールのふくよかなコクと酵母由来のフルーティーさが優しく包み込みます。まさに、最高の組み合わせです。

飲食店というのはつくづくタイムカプセルなんだと思う

太っちょ女将アンナが遺した温かい空間で味わう、心のこもった料理と歴史あるビール。「Dicke Wirtin」は単に食事をする場所ではなく、ベルリンという街の記憶と人々の暮らしが詰まった、生きた博物館のような酒場でした。

もしベルリンを訪れる機会があれば、ぜひこの「タイムカプセル」の扉を開けてみてください。

店名Dicke Wirtin
住所Carmerstraße 9, 10623 Berlin, ドイツ
営業時間11時00分~0時00分
火曜日定休
創業1930年