ヨーロッパは国境を越えて都市を結ぶ国際特急列車が盛んに運行されています。航空機が手ごろな価格で利用できる時代ですが、あえて、ヨーロッパ大陸の大きさを感じる鉄道の旅もよいものです。中小の都市を経由し、中世の城や教会、塔に見守られなから、ときには広大な畑を突き抜けて走る列車からの車窓は、かけがえのない旅の思い出です。
ここはドイツの首都・ベルリンにある、ヨーロッパ最大級のターミナル・ベルリン中央駅。ここから近郊都市だけでなく、遠くチューリッヒやパリ、ウィーンなどに向け、一日1200本の列車が発着しています。
今回の旅は、ここベルリンから隣国オランダの首都・アムステルダムを結ぶ列車に乗ります。ベルリン中央駅の地上ホームに進むと、目の前に「bordbistro」(食堂車)と書かれた車両が現れました。そう、最大の目的は「食堂車で飲む」ことなんです。
朝のベルリン中央駅は通勤客でごった返していますが、特急列車のホームは、長旅を前に落ち着いた雰囲気です。
ヨーロッパの多くの鉄道で特急はインターシティ(IC)やユーロシティ(EC)の名で呼ばれており、ベルリンを朝に出発する列車は「IC 148」です。
列車はベルリンを出発すると西へ一直線に進みます。ドイツ側国境の駅「Bad Bentheim」まで約4時間。オランダに入ってから約2時間でアムステルダムです。
乗車した車両は、ヨーロッパが舞台の映画でお馴染みの、コンパートメント車両の1等車です。2等車は日本の特急列車と同様の座席配置でした。
新幹線と同じような幅の広い車両に3席という贅沢な配置。革張りで高級感があり、長旅も快適です。
ベルリン市街を軽快に飛ばしていきます。ヴェスターヴェラント自然公園を抜け、エルベ川を越え、ヨーロッパらしい田園風景がひたすら走ります。30分に一回程度、中小の町に停車し、乗客数人の乗り降りを繰り返していきます。
列車に慣れてきたところで、そろそろ目的の食堂車へ。「飲む」のが目的ですから、ずっと食堂車に居てもいいくらい。6時間の長旅でも、流れ行く車窓をおつまみにしてお酒を飲んでいれば、2時間くらいはあっという間ですから。
スタッフの方が1名体制で営業中。DB(ドイツ鉄道・Deutsche Bahn)を走るICEやICの多くに食堂車が連結されていますが、列車によって提供内容が異なっています。コックさんも乗務する本格的なフルサービスのレストランカーもあれば、日本の角打ちレベルの軽食オンリーまで様々。
IC149はスナック中心の内容です。料理は手ごろで4~10EURほど。カリーヴルスト(4.50EUR)などのドイツらしいおつまみや、パンからデザートまで一通り揃っています。お酒も3.50EURからと大変リーズナブルです。
10種類ほどのボトルビールを積んでいる食堂車。さらにワインやカクテルまで提供しています。列車によってはドラフトビールまであるのですが、この列車では準備ができてないとのこと。
朝9時過ぎ。ドイツの麦畑の中を時速180キロほどで駆け抜けながらいただくビールは、「ビットブルガー プレミアム ピルスナー(Bitburger Brauerei)」。ドイツ南西部、ビットブルクで1800年代から続く醸造所で造られています。
炭酸が効いていてすっきりした後味。ドイツらしい、何杯でも飲めそうなバランスのいいビール。
おつまみに悩んでいたところ、食堂車でコーヒーを飲んでいた車掌さんが「Linseneintopfがおすすめだよ」と教えてくれたので、 linseneintopf(フランクフルトソーセージとレンズ豆の煮込み)をチョイス。トマトとガーリック、オニオンのパンをつけて、丁度いい朝食兼ビールのおつまみセットとなりました。
このスープがいかにもドイツらしい味で、野菜もたっぷり。「ビールだけでなく、赤ワインと合わせてみなよ」とまた車掌さん。きっぷの検札を終えてどうやら朝食タイムみたい。すみません、お仕事中の横で飲み始めていて。
ドイツのワインもありましたが、せっかくの国際特急。違う国のワインでも、とスペインのラモン・ビルバオ(Ramon Bilbao)を。渋味、コクがほどよく控えめな味わい。ワインも10種類以上あったので勢いで決めた感はあるのですが、美味しくて何より。
ワイングラスにも「DB」ロゴ。そしてドイツ人らしいスケール付きです。
どこまでも広がる緩やかな起伏のドイツの大地を、列車は定刻にひた走ります。揺れはほとんどなく、”固い”乗り心地です。途中、ハノーファーを経由しながら西へ、オランダを目指します。
12時30分ごろ、国境の町・バート・ベントハイム(Bad Bentheim)に到着。ブルクベントハイム城の城下町ですが、残念ながら駅からお城を眺めることはできず。
国境といっても、いまはシェンゲン協定でパスポートチェックはありません。お客さんは10分ほどの停車時間をつかって外の空気を吸いに来たり、機関車の付替を眺めたり。
ここから先は、ドイツ鉄道からオランダ国鉄に管轄がかわります。黄色いオランダの機関車が迎えにやってきました。
車内販売で買ったビールを飲みながら、ぼーっと車窓を眺めて2時間。奥に北海が見えてきたら、そろそろ終点のアムステルダムです。
約6時間、飲みっぱなしでほろ酔いになりながら降り立ったオランダの地。お酒を飲みながらの旅はやっぱり最高です。
さあ、街にでてシーフードで飲みましょうか。お肉メインのドイツから、魚介も楽しむオランダへ。
長旅、おつかれさまでした。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
ヨーロッパ鉄道公式サイト(日本語版)
ドイツ:インターシティ(IC)紹介サイト
https://www.raileurope-japan.com/train/7372