オランダのバー文化のひとつ「ブラウンカフェ」をご存知でしょうか。
茶色い喫茶店と直訳すると素っ気ない印象をうけますが、古くから続くお酒や飲める街の小さなカフェのこと。日本でも古い酒場は、長い年月の間にタバコの煙で飴色をしています。国は違えど、古くからやっている酒の場を愛でる気持ちは共通です。
今回はそんなブラウンカフェで、世界最古のビールブランドのひとつと言われている「グロールシュ」を飲みつつ、アムステルダムの夜を満喫したいと思います。
オランダの首都、アムステルダム。海抜の低い土地が広がるオランダのなかでも、ここアムステルダムは特に低く平均海抜は2mほど。街を見渡すと一面の平たい土地と、そこをマーブル状に大小様々な運河があることがわかります。
アムステルダム中央駅は北海に繋がるアイ湾に隣接していて、上の写真のように駅のすぐ近くまで大型客船が入ってきています。
高い建物は少なく海も間近にあるので、世界的に知られた都市であっても、空がとっても広いです。
日本からのアクセスは、アムステルダム・スキポール空港と成田空港を結ぶKLM オランダ航空の直行便がありますが、今回は国際特急ユーロシティに乗って、6時間かけてドイツ・ベルリンからやってきました。
アムステルダム中央駅は、美しい赤レンガのネオゴシック様式の駅舎。街の象徴的な存在であり、駅舎そのものも観光名所になっています。なんとなく東京駅に似ていますね。駅構内にはなんとコロッケの自動販売機があります。コロッケが郷土料理のオランダならでは。
さて、ビールを飲む前に少しお散歩を。1671年完成のアムステルダムで唯一の木造の跳ね橋にやってきました。ボランティアガイドの方の話によると、アムステルダムは小さな漁村から始まったそう。アムステル川に堤防(ダム)をつくり街を広げていったので、そのまま地名もアムステルダムとなりました。
可愛らしい建物が並ぶ町並みを眺めているだけでも楽しいです。歴史教科書に載っているオランダ東インド会社の本社屋など、17世紀ごろのアンティークな建物が街のいたるところにあります。
街の中心、ダム広場。大勢の人々で賑わいます。主要な名所やデパート、飲食店などは街の中心に小さくまとまっているので、どことなくテーマパークに来ている気分になります。
中心街は道が細く石畳のため自動車の侵入が規制されています。かわりにトランジットモール化された道をきめ細かくトラムが走り、手軽に乗れる街の足として人気です。
夜の帳ばりが降りる頃、街の表情は大きく変わります。
アムステルダムはお昼以上に夜がすごい。ナイトタイムエコノミーを楽しもうとたくさんの人々が街に繰り出してきます。さすが、ナイトメイヤーサミット第一回開催都市、すごい熱気です。
そんな街の中に、「ブラウンカフェ」があります。どこにあるか地図で探していく…なんて必要はなく、街中いたるところにあって、店先にはビールやウイスキー、カクテルを飲む人たちで溢れかえっています。
イギリスのパブよりも、もっと自由な感じで、みんな大声で笑いながらぐんぐんとお酒を飲み進めています。さすが、大航海時代に地球上を網羅した船乗りを先祖に持つ人達は違います(笑)
訪ねたお店は「カフェ・ド・ズワルト」(Café De Zwart)。教会に囲まれた広場にある一軒で、GVBトラムSpui電停からすぐ。
ほのかに潮の香りがするそよ風に吹かれ、広場を眺めて飲む。最高のシチュエーションとは思うものの、せっかくブラウンバーの取材に来たのですから、やはり店内へ。
この空間の風景のひとつとして今ここに居られることがとっても嬉しくなります。街と人々が重ねてきた歴史に一瞬であっても触れられた気がすものです。
カフェテリア方式(キャッシュオン)で、お酒やフードを注文したら好きな場所で飲めます。サーブカウンターにも椅子があり、アルコール好きの「かぶりつき席」を使わせてもらいました。
「どっから来たの?おー、日本。日本人もビールは好きかい?」
オランダには2つの大手ビールブランドがあります。ひとつは世界第三位のシェアを誇るご存知ハイネケン。そしてもうひとつが、オランダ最古のビール、1615年誕生の「グロールシュ(Grolsch)」です。
日本のビールにも味が近く飲み心地がいいラガーから、さぁ乾杯。
爽快感ある爽やかな後味で、飲んでいてとっても気持ちいいです。
2016年にアサヒグループホールディングス傘下となったこともあり、日本でも見かける機会が増えました。
空間をおつまみに、続いてグロールシュのヴァイツェン。小麦を使用した濁りのあるドイツ由来のビール。フルーツのような香りがあるものの、しっかり苦くどっしりした印象です。
隣国・ベルギーの人気クラフトビール、グリムベルゲン修道院(現在はハイネケン系列)の「Grimbergen」。「Grimbergen Dubbel」は黒ビールではないのですが、かなり色は濃い目。甘酸っぱい香りで味も甘めながら、ローストしたモルトからくるような苦味がしっかり効いて、大人な味わい。こういうビール、なかなか出会う機会がなかったです。癖になるおいしさ。
オランダ由来、ベルギー由来ときたので、次はイギリスのビールも。ミーンタイム醸造所(Meantime Brewery)のペールエール。ビターエールらしいまろやかな味。バーテンダーさんとカタコトの英語で話しつつ、チビチビ飲むのに丁度いいものでした。ほろ苦く、シソのような風味が鼻いっぱいに広がります。
「全種類飲んじゃうかい?ハハ!」
アムステルダム初日にここを訪ねて以来、滞在中は毎日足を運び、ビールやオランダ・ジンを飲むこととなりました。
居酒屋でもパブでもブラウンカフェでも、人々が集い毎夜自由にお酒を楽しむ空間には、不思議な魔法のような魅力があります。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
Café De Zwart
+31 20 624 6511
Spuistraat 334, 1012 VX Amsterdam, オランダ
予算15€