オランダの首都、アムステルダム。運河とトラムが複雑に入り組み、まるでドールハウスのような可愛らしい建物が連なる街です。ハイネケン創業の地ということもありますし、ブラウンカフェ(パブ・ビアバー)で冷えたピルスナーをきゅっと飲みましょう。ただ、そうしているうちに心はどこか”IZAKAYA”を求めてしまいます。
アムステルダムで地元市民から日本人駐在員まで幅広い層に人気のお店「博多せん八」は、そんな心を満たしてくれる素敵な居酒屋です。たとえ、これが福岡県内にあったとしても、私は通いたいと思える一軒です。
創業は1999年。昨今の世界的な寿司人気から、アムステルダムでも日本食店が続々とオープンしていますが、「博多せん八」は20年続く地元では老舗の日本食レストラン。
L字カウンターの角に炭火の焼き鳥台を配置し、周囲にテーブル席という配置は、まさに日本の居酒屋そのまんま。焼き場、厨房、フロアも日本人スタッフが切り盛りしていて、ここだけは店名の通り、まるで博多の飲み屋さん。
なかなかの人気店で、店先のテラス席も含め、閉店22時近くまで満卓の賑わいです。
下手な英語で恥をかかずに、素直に頼める生ビール。お馴染みのロゴが入ったジョッキに癒やされて、今夜はKIRIN ICHIBANで乾杯!
樽生はキリン、瓶でアサヒスーパードライ、角ハイボールや、日本酒鍋島、焼酎三岳など。
前菜で頼んだ枝豆は、日本の味そのもの。調味料を含め、日本からの取り寄せ品が多いです。
邦人向けメニューというわけでもありませんが、日本語表記主体です。トロ(まぐろ刺し)は€22.50とこっちでも高級品。フランス産の生牡蠣は現地の物価感覚ではかなりお手頃価格です。
博多の小箱の酒場にあるようなメニューたち。ズリやハツなどのモツ系も置いています。€2.00からで1種類から注文可能です。
アムステルダムは港町として栄えた場所です。市場に並ぶ北海揚がりの新鮮な魚介類は、日本の水産市場に並ぶ食材にも負けず劣らずの顔ぶれでした。ホタテやサーモン、ブリなどは地元の人にも大人気で、「せん八」でも刺盛りは人気のよう。お値段はアムス価格といったところ。
ほんと、この手書きメニューはみればみるほど、日本国内の酒場にいる気分になります。向かいのテーブルの日本人駐在員ご家族のおすすめは博多オムレツだそう。玉子がとろっと、表面はきつね色に軽く揚げたようになっていて、万能ねぎがたっぷりかかっています。
食べたいけれど、もう色々オーダーしたあと聞きました。次回はぜひ。
〆メニューは、「博多」と冠しているだけあってとんこつラーメンがメイン。うどんはどこか讃岐っぽい?
やきとりとねぎま。焼き手はもちろん日本の方です。「せん八」は、焼き手は何代か交代されたそうですが、その味は期待以上。そうそう、博多の焼鳥といえば、この酢醤油がかかったキャベツは外せません。中洲川端の老舗「信秀」発祥と言われるキャベツ添えは、遠くヨーロッパでもこの通り。
海外の日本食レストランで飲む酎ハイは不思議な味が多いものの、「せん八」の酎ハイは日本のそれといっしょ。ちょっぴり甘いのは樽詰サワー(樽ハイ倶楽部・キリン樽詰サワー・氷彩・スーパー酎ハイなど)の甘さと同じでご愛嬌。フローズンレモンサワーの流行りをしっかり反映しています。
甘くみたらし的な味のタレは、故郷の味。エスビー食品の一味唐辛子をふりかけて頬張れば、一瞬にして心の場所は日本。このあと部屋に帰るときに乗る電車は、GVB(アムステルダム市営交通)ではなく、JRか東京メトロかな。
時間は夜10時。ピークを過ぎて落ち着いてきた頃、女将さんが話しかけてくれました。お店の話だけでなく、地元の邦人の皆さんとの交流など、アムスの日本人コミュニティのことを色々と。歓送迎会や忘年会で利用するグループも多いそうです。
20年間、店主さんや焼き方、スタッフの皆さんが入れ替わりがありつつも、試行錯誤で開業時から日本とまったく同じ雰囲気の酒場で挑戦を続けてきたそうです。いまは日本食ブームもあって、地元アムスの人で盛況。オランダ人でせん八のファンなら、日本の博多・中洲・天神は夢の国に違いありませんね。
遠く離れた運河の都でも、酒場好きの心を掴む素敵なお店があります。日本を離れて10日ほど経ったときに訪ねた癒やしの場所でした。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
博多せん八
+31 20 662 5823
Wielingenstraat 16, 1078 KK Amsterdam, オランダ
18:00~22:00(基本無休)
予算€25