創業は昭和26年。豊洲市場内にある『磯寿司』は、築地市場時代から続く老舗寿司店です。長年市場関係者が愛用した磯寿司の味は、移転した現在も変わらぬ職人さんたちの腕で守られています。天然本鮪など、どの魚も期待を裏切りません。
目次
移転しても変わらぬ粋と美味しさ
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1951年(昭和26年)、復興が進む東京を「食」で支えた東京都中央卸売市場 旧築地市場に誕生した磯野家。築地は東京都が管理する市場(しじょう)内と、民間の小売店が立ち並ぶ場外市場があり、磯野家は場内の関連棟に入る食堂でした。
2018年に築地市場(場外市場を除く)の機能が豊洲に移転すると、磯野家も市場とともに豊洲市場内へと移りました。
かつての磯野家と磯寿司
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旧築地市場が生活圏だった筆者は、早朝から頻繁に魚を食べに行きました。市場で最も通ったのが磯野家(磯寿司)で、顔を覚えてもらえたのが嬉しかったです。当時の私は、磯寿司は一番好きな寿司屋でした。
築地時代の磯野家は一階が「磯寿司」、二階は70人以上入れる広間を備えた食堂というつくりでした。
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長靴にジャンパー姿の市場で働く屈強な人々で賑わう食堂磯野家は、唯一無二の素晴らしき職域食堂の雰囲気でした。市場関係者が時折宴会をしていたことを覚えています。磯野家を教えてくれたのも、築地市場内で働く関係者でした。
築地から豊洲へ
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2018年10月11日、豊洲市場開場。磯野家も移転し、市場内飲食店39店のうちの1軒として新店舗で営業をはじめました。
残念ながら食堂はなくなり、寿司専門となりましたが、入り口にかかる千社額は食堂磯野家に飾られていたもの。店名は磯寿司なのに「磯野家」と書かれている理由です。社長が磯野さん(三代目)ということが由来。
外観
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築地市場の飲食店が集まる6街区で、堂々と構える磯寿司。営業時間は7時から15時。朝から飲めます。それでは入りましょう。
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店に入ると、築地時代と変わらないL字のカウンターが10席ほどと、2~4人テーブルで10席。付け台に笹を敷くスタイルも築地時代と同じです。
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握る職人さんもおなじみの顔ぶれ。気が利いてユーモアがあり、いかにも老舗の寿司職人といった皆さんです。
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食材がずらりと並ぶ冷蔵ケースを前にして、今日の魚を決める、たまらない瞬間。天然物のみを揃えることにこだわり、その時期に一番の魚を店の下にある水産仲卸売場棟から仕入れています。
品書き
お酒
- 生ヒール(サッポロ生ビール黒ラベル)中:700円
- サッポロラガービール中瓶:750円
- お酒:460円/1合
- 冷酒 吉乃川:1,220円
- 冷酒 八海山:1,530円
料理
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- 特上にぎり:4,400円
- 上にぎり:3,300円
- 磯にぎり:3,400円
- 鮪づくしにぎり:3,800円
- 海鮮丼:2,950円
- 刺身1人前:3,700円
- 単品:額の札を確認
全国の魚が集まる豊洲市場ならではの極上の品揃え
サッポロ生ビール黒ラベル(700円)
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築地の頃から磯寿司のビールはずっとサッポロ黒ラベル(びん生・サッポロラガー)。サッポロビールは長く築地市場近くに本社を構えていたこともあり、築地と関係が深いメーカーでした。
それでは乾杯!
突き出し
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お酒には突き出しがついてきます。内容は日々変わりますが、握りや刺身などができるまでを繋いでくれる、お酒が進む魚介の小鉢ばかりです。
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鯛の心臓をつかった料理など、珍味をだしてくれることもあります。
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マグロのアラなど刺身でだせない部位も、職人さんの腕にかかれば最高の肴になります。
刺身盛り合わせ
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まずはお刺身から。落ち着いて食べる時間があれば、軽くつまんでお酒を楽しみたいものです。このときは、本まぐろ中トロ、ヒラメ、のどぐろ、つぶ貝、鰯など。
吉乃川冷や生(1,220円)
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日本中から集まる旬の魚を前にして、日本酒を飲まないわけにはいきません。
水貝
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仕入れ次第ですが、上物の活アワビが入っているときに「水貝」を食べさせてくれたことがあります。活鮑を塩もみして氷を入れた塩水に浮かべて提供する粋な料理です。
冷えてより引き締まったアワビの食感は秀逸。アワビ本来の甘味が引き立ち実にいい味です。
特上にぎり(4,400円)
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磯寿司は築地時代に多くの仲卸や荷受け、仕入れに来る飲食店関係者たちで賑わっていました。そんな市場内の繋がりは豊洲に移っても変わらず、大物(マグロ)も含め、かつての常連さんの店から毎日仕入れているそうです。
天然モノにこだわるのも特長で、たとえ鮪でも天然ミナミマグロや天然本マグロの一本買をするのが店の自慢。
特上にぎりセットを注文すれば、日本全国から豊洲に集まるマグロの中から、上物の大トロがでてきます。
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金目鯛は軽く炙り塩をふりかけて提供されます。甘さとわずかな香ばしさ、なにより引き立つ甘さがたまりません。
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食材がよいのはマグロだけではありません。貴重な天然車海老や、北海道産などのウニやイクラ、金目鯛などが次々と10貫でてきます。
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これはたまらないと、日本酒を。お燗でちびりと飲みつつ、少しずついただきます。
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チェイサーの瓶ビールも忘れません。ちびちびと飲みつつ、皆さんと市場や魚の話しを楽しみます。
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豊洲へ移ってからも時折伺っており、その都度最高の握りを食べさせてもらってきました。昨今の事情で値上げが続きましたが、それでもこの質の良さは値段以上の価値を感じます。
上にぎり(3,300円)
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特別な日は特上だけど、今日はふらりと立ち寄っただけ。なんて日はバランスのよい上にぎりも。
本マグロなどの中トロ2貫、特大甘エビ、帆立、金目鯛などの白身魚、鯵や小肌などの青魚、ウニやいくらなどの軍艦2貫、ふっくらとした蒸し穴子、鉄火巻という内容です。
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大トロや車海老は入りませんが、これもまた豊洲市場内の店ならではの質のよいものばかり。
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そこへ日本酒をきゅっと一口。ほんのり酔ってきたところで、そろそろ混雑する時間なので席をあけたいと思います。
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以前の磯寿司は他の飲食店とは離れた場所にあり関係者がそっと飲むような雰囲気でしたが、いまは正統派の老舗寿司として幅広いお客さんたちで賑わっています。
それでも大事なモノ・コト・空気は昔と同じです。市場移転後もこうして続いていることが嬉しく思います。「市場にある」だけではなく、仲卸とともに70年以上、魚料理を提供してきたという圧倒的な安定感が磯寿司を選ぶ理由です。
ごちそうさま。
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(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 磯寿司 |
住所 | 東京都江東区豊洲6丁目5 市場6街区 3F |
営業時間 | 営業時間 [月~土] 7:00~15:00 定休日 日曜・祝日・休市日 |
創業年 | 1951年 |