東雲「菊水」 創業65年、埋立地の変化を見続けてきた大衆酒場

東雲「菊水」 創業65年、埋立地の変化を見続けてきた大衆酒場

東京都江東区、東京湾に面した東雲(しののめ)は、現代の臨海開発の先頭を走っていた埋立地です。大正時代に埋め立てが行われ、昭和の終わり頃まで工業地帯として隆盛をきわめていました。

1980年代にはいると東京都心部の拡大に伴い、東雲や有明、豊洲は湾岸エリアと呼ばれ再開発が始動。官民一体の大規模な開発が進められ、鉄道新線・りんかい線が開通します。そうして、現在の高層マンションが立ち並ぶ姿へと大きく生まれ変わりました。

そんな変貌を遂げた東雲で、65年間変わらず続いてきた大衆酒場があります。晴海通りから1本入った路地にある「菊水」です。

 

かつては工場で働く人々で大いに賑わったそうです。現在は東雲に暮らす方や、近隣に集中している大手運送会社やバス事業者の営業所などで働く人々の、仕事終わりに集まるオアシスとなっています。

 

お店はカウンターなしで、2列の幅が広い長テーブルが配された配置。グループならば向かい合って利用し、一人客ならばこの長テーブルがカウンター代わりとなります。渋い店構えですが、優しいご主人やお姉さんが迎えてくれるあったかいお店です。

 

さぁ、まずはビールから。樽生はアサヒスーパードライで、瓶はスーパードライのほかにキリンラガー(RL・590円)も。今日はちびちび始めたい気分なので瓶ビールでスタートです。では乾杯!

 

生ビールのジョッキは昔ながらの大きいもので、生中(660円)と生大(780円)から選べます。ホッピーは白・黒(470円)、チューハイ(390円)、清酒(260円~)とシンプルな品揃えです。

 

手元に品書きはなく、厨房前に貼られた短冊が今日のメニューです。菊水自慢のまぐろや、ご主人が担当する焼鳥・焼とん(150円)、焼き魚や揚げ物、炒めものと揃っています。唐揚げが420円など、リーズナブル。

 

ぜひ食べて頂きたいのは、やはりまぐろ刺し(630円)。なんとも気前のいい盛りが嬉しいです。赤身かトロか値段は同じで選べるというのも魅力的。

 

日本全国からまぐろが集まる東京の水産市場。豊洲、築地ともにまぐろを看板料理にしているお店が多くありますが、大衆酒場ではここ菊水も負けていません。地元の人がほとんどの落ち着いたお店なので、腰を据えてまぐろを肴に飲みたいときにオススメです。

 

カシラとねぎまを1本ずつ。タレ味で頼むと、さらっとした甘いタレに浸けられてきます。今回は塩であっさりと。もつ焼き専門ではないですが、常に焼く手を休められないくらい注文が入り続けています。

 

合わせるお酒は、独正宗 (新潟)。純米吟醸ながら、1杯370円で飲ませてくれます。バランスがよく飲み飽きない味です。

 

もうひとつ、昔からの定番料理があります。イカフライ(550円)は、訪れたグループの半数は頼むような人気メニュー。イカを1杯、頭から下足まですべて使っています。このボリューム、昔の人にはたまらない一皿だったに違いありません。

 

衣は厚めで、サクサク。ソースはかけられた状態で供されますが、このソースの甘さがまたビールや酎ハイを誘います。

 

焼酎がしっかり濃い目の菊水の酎ハイ類。しっかりほろ酔いです。濃い味の菊水の揚げ物とあわせてちょうどいいバランスです。

 

店内に設置されたテレビを眺めるもし、新聞やスマートフォンを片手に自分の時間を過ごすもよし。皆さんそれぞれのアフター5を過ごされています。アクセスは決してよいとは言えませんが、それでも続いてきた老舗には理由があります。

どっしりした安定感に身を委ねて、今夜はもう少し飲んでいきます。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

菊水
03-3531-5968
東京都江東区東雲1-6-5
17:00〜23:00(日定休)
予算2,300円